18.13 ブルゴーニュ公の使節(2)二枚舌外交と王の治癒力

 ブルゴーニュ公フィリップは、シャンパーニュの支配者となったシャルル王を「考慮に値する君主」とみなし、アルトワの代官(Bailie)ダヴィッド・ド・ブリムを使節団の長としてランスに派遣した。


 戴冠式当日、使節はシャルル王に挨拶して敬意を表し、和平交渉を開始した。[1540]


 ブルゴーニュ公の使節団は、フランス宰相と評議会から心からの歓迎を受けた。彼らが出立するまでに、和平を成立させることが期待された。


 アンジュー家に属する貴族たちは、この朗報をヨランド・ダラゴンと王妃マリー・ダンジューに知らせた。[1541] だが、これは、彼らがディジョンの老獪なキツネ(ブルゴーニュ公のこと)のやり方をいかに知らなかったかを示している。


 フランスはまだ十分に強くなく、イングランドも十分に弱くはなかった。


 (この時は和平締結まで至らず)8月にあらためて、アラスの町にいるブルゴーニュ公に使節団を送ることで合意した。


 4日間の交渉の末、15日間の休戦協定が締結され、使節団はランスを去った。[1542]


 この交渉と同時期に、パリに滞在していたブルゴーニュ公は「父の暗殺者であるシャルル・ド・ヴァロワを告訴する」準備を粛々と再開し、イングランド軍を支援するために軍隊を派遣することを約束した。[1543]


(⚠️補足:ようするにブルゴーニュ公は、フランスとイングランドに対して二枚舌外交を展開していた)




 フランス王シャルル七世は、ランス大司教公爵(ルニョー・ド・シャルトル)の甥であるアントワーヌ・ド・エランド[1544]をランスの総督に任命して町の指揮を任せると、7月20日に出立し、サン・マルクール・ド・コルブニーへと向かった。


 コルブニーの修道院では、フランス王が戴冠式の翌日に、病(主に瘰癧るいれき)を癒すために患者に触れる習慣があった。[1545]


 聖マルクールは、瘰癧(るいれき)を治した。[1546]


 彼は王族の血を引いていたが、この力が顕現したのは死後かなり経ってからだ。(聖王ルイがこの修道院を巡礼して聖遺物に祈ったときに治癒の力を授かり)、それ以来、聖マルクールは首に傷のある病人を治すことができると信じられていた。


 それは、聖クララが盲人に視力を与え、聖フォルが子供たちに力を与えるのと同じだった。


(⚠️瘰癧(るいれき):頸部のリンパ節に結核菌が侵入して結節を作り、患部が壊死していく疾患)



 フランス王は、瘰癧るいれきを治す力を聖マルクールと共有していた。


 その力は、鳩が天から降ろした聖油から与えられたものだったため、戴冠式で聖油を塗られた直後がもっとも効果的だと考えられていた。


 なぜなら、淫らな行い、教会への不服従、その他の不品行によって、国王が力を失う危険にさらされていたからだ。それは実際にフィリップ一世に起こったことだった。[1547]


(⚠️フィリップ一世(Philippe I):フランス王国カペー王朝の第四代国王。二つ名「好色王」で知られる暗君。太り過ぎを理由に王妃を塔に監禁して離縁を画策し、偽の家系図で夫婦の近親婚をでっち上げた。離婚成立後も王妃を監禁し続けて死なせ、未婚既婚問わず多数の女性と再婚を企てた。教皇から正式に破門され、自他ともに認めるクズだったため、本人の望み通り、王家の霊廟サンドニ大聖堂に埋葬されなかった。なお、フィリップ一世自身も馬に乗れないほど肥満だった)



 イングランド王も、フランス王と同様に瘰癧に触れて癒した。

 特にエドワード三世は、傷跡で覆われた瘰癧患者に驚くべき治癒を施した。


 これらの理由から、瘡蓋は「聖マルクールの病」あるいは「国王の病」と呼ばれた。英仏国王たちと同様に、処女もこの病気を治すことができた。


**


 シャルル王は、聖マルクールの聖遺物を礼拝し、供物を捧げ、そこで患者の瘰癧に手を触れて癒やした。コルブニー滞在中にラオンの町から服従を得た。


 翌日の22日、王は、エーヌ川の渓谷にあるランス大司教公爵の所有地で、ヴァイイと呼ばれる小さな要塞に向かった。ヴァイイではソワソンの町の服従を得た。[1548]


 当時のアルマニャック派の預言者の言葉によれば、「戦争の門の鍵は、それを作った者の手を知っていた」という。[1549]




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(※)『上巻・第十八章 シャロンとランス降伏/戴冠式』完結。


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