006 転生者、メイドのスキルをチェック
「鑑定スキルか。便利なものを覚えたな」
「……はい、まだ慣れませんが」
くしくしと目をこすっているアシュリーは目の前にウィンドウでも浮いているのか。ピントを合わせようと目を開いたり細めたりしている。
まさか、レベルアップでスキルを覚えるのか?
アシュリーに鑑定で判明したステータスを紙に書き出させてみる。
名前 :レオンハルト・ヴィクター
レベル:84
職業 :大賢者
称号 :《転生者》《追放者》《大賢者》《魔物虐殺者》
スキル:『自然魔法』『錬金魔法』『神聖魔法』『転移魔法』『性魔法』『魔力回復』『魔力増強』『身体強化』
固有スキル:『スキルコネクト』
(レベル、今83から84に上がったか?)
外ではゴーレムがモンスターを殺しまくっている。その影響だろう。出現モンスターの強さも上がっていて、森の浅層から中層に入った感がある。メイドと合わせて六人パーティーなんだろうが、貢献度からすれば俺が一番だからな。レベルがこうやって上がっていくのは、その影響だろう。
「ふむ、アシュリーたちはなんのスキルを持ってるんだ?」
アシュリーは目をぱちぱちとさせて、首を横に傾げて俺を見るので俺は「自分たちを鑑定してみろ」とアドバイスする。
「ええと――」
名前 :アシュリー
レベル:24
職業 :メイド
称号 :《追放者》
スキル:『家事』『礼儀作法』
固有スキル:『鑑定』
名前 :イリシア
レベル:24
職業 :メイド
称号 :《追放者》
スキル:『家事』『礼儀作法』
固有スキル:『ヴィクターの地にて伏して誓う』
名前 :ウルスラ
レベル:24
職業 :メイド
称号 :《追放者》
スキル:『家事』『礼儀作法』
固有スキル:『幸運』
名前 :エミリー
レベル:24
職業 :メイド
称号 :《追放者》
スキル:『家事』『礼儀作法』
固有スキル:『料理』
名前 :オーレリア
レベル:24
職業 :メイド
称号 :《追放者》
スキル:『家事』『礼儀作法』
固有スキル:『我が恩讐は蛇が如くに絡みつく』
メイドたちは『家事』と『礼儀作法』を持っている。
ちなみに『家事』は炊事洗濯掃除整理整頓などのスキルをまとめた複合スキルだ。礼儀作法と一緒に持っているということは、男爵家で学んだ結果だろう。
レベルで取得できたのは、固有スキルか?
鑑定スキルで判明した俺の『スキルコネクト』もレベルで取得したものかもしれない。
通常の勉強や鍛錬で取得できるスキルや、成人の儀で教会で取得できるものとは違うのだろうか? そんなことを考えていれば元気娘であるウルスラに声を掛けられる。
「レオンハルト様! 『幸運』ってどんな効果なんスか?」
ウルスラの質問に俺が鑑定スキルを持つアシュリーに視線を向ければ「運がよくなって、悪いことが起きにくくなるそうですよ?」と返答するアシュリー。
「そうっスか。まー、レオンハルト様と一緒にいればあんまり関係なさそうッスけどね」
「どういう意味だよ」
「私の人生、今のところスキルなくてもいい感じってことッスよ」
にしし、と笑うウルスラに俺は呆れながらもイリシアとオーレリアに視線を向けた。この二人のスキルは他の三人と特色が違う。
『ヴィクターの地にて伏して誓う』と『我が恩讐は蛇が如くに絡みつく』。どちらもスキル名からして、ろくなものではない気がするが。
俺の視線に気づいたアシュリーに命じる。
「不明なスキルを持っていても怖いからな。アシュリー、鑑定して説明してくれ」
「アシュリー、私のスキルはどうなんですか?」
イリシアの問いにアシュリーは目を細めながらスキルを鑑定する。
「イリシアの『ヴィクターの地にて伏して誓う』は、ヴィクター男爵領にいる間、レベルアップや加齢でのステータス成長が増大するスキルのようです。ただ効果が続くのはノーマン様、アレクシア様、シヴィル様が生存している間で……これは――」
口籠ったアシュリーに最後まで言うように命じればアシュリーは頷いて、それを口にした。
「ただし、最終的に三人がイリシアより早くに死亡するか、凋落しなければイリシアの魂が代償として砕け散るスキルです」
「そうか。そうかぁ……」
効果が強力なために代償が必要なのは理解できる。
まぁ、イリシアを長生きさせるぐらいなら大丈夫だろう。
そしてスキルの性質から考えるとシヴィルの子供が男爵家を継いだ場合、自動的にその子供も復讐の対象に選ばれるのだろう。
とはいえ、正直に伝えて不安にさせる必要はない。
「大丈夫だろう。寿命勝ちという手もあるからな。イリシアが長生きして三人が死ぬのを待てばいいさ」
不気味なスキルの効果に不安な感情を浮かべていたメイドたちが、こくこくと頷く。
スキルを取得したイリシアも、四人と一緒に安心したような顔をする。向けられる信頼がくすぐったく、話を進めることにする。
「さ、アシュリー。次はオーレリアのスキルを教えてくれ」
「は、はい。ええとオーレリアのスキル『我が恩讐は蛇が如くに絡みつく』はですね。ええと、レベルを消費して、良いことを起こしたり、悪いことを起こしたりするそうです」
「そのレベルは誰のものでもいいのか?」
不明瞭なスキル効果にアシュリーは首を傾げながらも鑑定を深く発動させて、スキル名と効果を紙に書いてくれる。
どうにもレアリティの高いスキルやアイテムなどの詳細鑑定には時間がかかるようで、ウルスラの『幸運』よりも鑑定に必要とした時間は長かった。
『我が恩讐は蛇が如くに絡みつく』……自身のレベルを消費することで、二つの効果を選択して発揮できる。
1.自身の勢力に恩恵を与える。
2.敵対者の勢力に厄災を与える。
渡された紙を見て、俺は呟く。
「レベルダウンスキルか。便利だなこれは」
「そうなの? 弱くなるんじゃないの?」
一人だけなんだかパッとしない『料理』スキルだったエミリーは残念そうにもせず、俺に問いかけてくる。
「エミリー、お前は料理スキルでいいのか?」
「えぇぇ……レオンハルト様はメイドに何を求めてるの?」
言われて、まぁメイドにレアスキルや戦闘力は必要ないよな、と思い直す。
「いや、悪かった。確かにそうだな」
「料理スキルだって、美味しい料理が作れるから便利だと思うわよ? 家事スキルが万遍なくなら、料理スキルは料理だけに特化してる分、いろいろできるみたいだし」
エミリーの言葉に、オーレリアが「私もそっちが良かったです」と残念そうに呟く。
そんなオーレリアを見ながら、このスキルが発現している以上、オーレリアの言葉はそのまま受け取らない方がいいなと俺は内心で考える。
(呪術系スキルが発現したってことは、オーレリアは俺に連れて行ってもらったことを深く感謝し、逆に俺やメイドたちを追い出した実家を深く恨んでるってことだろうからな。そしてそれはイリシアも、か)
固有スキルの発現には血統もそうだが、素質や思想も絡んでくると聞く。兄のシヴィルはそのため剣術の修行をよく行っていた。
(アシュリーに『鑑定』が発現したってことは、アシュリーがみんなをよく見ているってことか? あとは、この辺の果実とかが食えるか不安だったからか。ウルスラの『幸運』はなんだ? 体質か?)
それとも本当にこの状況を幸運だと思っているのか? わからないな。
(それで俺がスキルコネクトを発現したのは、アイテムボックスや鑑定があれば便利だと思ったから、か)
『スキルコネクト』……対象の同意を受けてスキルを借り受けることができる。『使用者のレベル/10』がストック可能スキル数。
これの発現理由は、適正のないスキルが使えるようになれば便利だ、と考えたことと、俺の周りになんでも言うことを聞いてくれるメイドたちがいるからだろうか? まぁ、流石に命に関わる命令は拒否されるだろうけれど。
(とりあえずオーレリアのスキルでレベルを下げてから、イリシアのスキルを持っている状態でもっかいレベル上げるか)
レベルを下げればスキルが消滅するかも確認すべきだろう。
ただレベルが下がる分ゴーレムの維持コストがきつくなるな。多少モンスターを誘引して、レベルアップしやすいようにしてからの方がいいかもしれない。
(あー、そうだ。レベルを一回下げて、最大MPを超過してもMPが保持されるか確認してからにしよう)
流石にこれだけのゴーレムをレベル1のMPで維持したら一瞬でMPが消失して意識が昏倒する。
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