貴族の家に生まれたので家を出てスローライフをしようとしたらなんやかんやで立身出世する奴

止流うず

本編

001 転生者、メイドに手を出していた


 それは夏のある日のことだった。

 俺が住んでいるヴィクター男爵領はいつものごとくだった。

 カラッとした乾いた湿度に、汗がじわりとにじむ、うだるような暑さの日。

 レオンハルト・ヴィクター。元日本人の転生者にして、現在貴族家の庶子である俺は、氷魔法と風魔法の実験ついでに開発したクーラー魔法を自室で使いながら、メイドのアシュリーと性行為をイタしていたところ、ふと俺の上で腰を揺らしていたアシュリーがこんなことを言い出した。

「そういえばレオンハルト様」

「ああ? なんだ?」

 今生の身体は性的に優秀だった。七歳で精通を迎え、館のメイドに手を出してから、俺は毎日のようにさかっていた。それこそ先日十二歳の誕生日を迎えてからもずっと。

 まぁ、こうして使用人に手を出せるのは貴族の息子様々という奴だな。普通の村人だったら無理だっただろう。

 なお、俺は今生になってからまさしくエロ猿になったと言ってもいいぐらいで、館にいる年齢の若いメイドのほとんどに手をつけていた。

 さすがにそんなことしたら怒られるぐらいじゃ済まないが、誰にも何も言われていないので、親父や義母、兄にはまだバレていないはずである。

できました・・・・・

 考え事をしていた俺に気づかないのかアシュリーが何か言った。なんだって?

「できましたって、なに?」

 アシュリーが俺を見下ろしながらを愛おしそうに撫でている。

 十二歳児を組み敷く十四歳メイドは怜悧な顔をぽっと染めながら「レオンハルト様とのお子ですが?」と平然と宣ってくる。え? なにそれ?

「はぁ……? 俺の子って、え、なに?」

「イリシアとウルスラとエミリーもです」

「オーレリアは?」

「たぶんできたのでは? 遅れている・・・・・と言っていましたし」

 一瞬、全ての理解を脳が拒み、そうしてからじわじわとアシュリーの言葉を理解していく。マジか? と背筋を冷たい汗が伝る。

 現在俺は、零細男爵家の館に勤める若いメイド五人と関係を持っていたが、まさか全員とデキるとは思っていなかったのだ。

 いや、そもそもヤッていながらデキる可能性を俺は失念していた。

 でもでも、普通アレだろ? 貴族側の人間とはいえ、妾の子の、しかも十二歳児にお手つきにされたのだ。メイドの側で何か処置をしているものだろうと期待していたのだが、そんなことはなかったらしい。

「あー。あー。えーっと、どうするかな」

「どうしましょうか?」

 クスクスと笑うアシュリーを見ながら、やっぱりマジでか? という疑問がある。

「冗談ではなく?」

「冗談ではなく」

「マジで言ってる?」

「マジで言ってます。マジの意味はわかりませんが」

「なんでそんな余裕なの?」

「旦那様に退職金でも頂いて、実家に帰ろうかと」

 え、とちょっとびっくりした声が出る。

「……え? 辞めるの?」

 困惑した俺の声に、困った顔で俺を見下ろすアシュリー。

「流石にレオンハルト様とのお子がデキたなんて奥様にバレたらお腹のお子ともども殺されてしまいますよ?」

「あー。まぁ、な……」

 兄貴であるシヴィル・ヴィクターでさえまだ子供はできていない。

 というか、兄貴であるシヴィルはまだ零細男爵家の十四歳のガキでしかない。

 婚約者は近隣の男爵家の令嬢と聞くが、たかだか男爵家の令息が結婚もしていないのに下女に子供を産ませていたなどと噂が立てばそれだけで婚約は破談になる。だからシヴィルのクソガキは屋敷のメイドに手を出すことはなかったし、その隙を俺は突いて、メイドたちに手を出していたのだ。

 ちなみにガキだとか零細だとか外から見たような口で身内を語っているが、それは俺が元日本人の転生者だからだ。中身が成人済みの男なのだ。

 子供ができてしまったのか、とちょっとした驚きもあるので、改めて自分で自分の存在・・を確認する。

 俺の名前はレオンハルト・ヴィクター。魔の森に隣接する弱小零細男爵家の当主、ノーマン・ヴィクター男爵がうっかり妾に産ませてしまったこの家の次男坊。

 しかし、それは外側だけで中身は令和の日本からやってきた転生者、元の名前は■■■■、生前の記憶は大半が塗りつぶされていてろくに思い出せないが、日本人男性だった存在だ。

 ちなみに、裏ではいろいろとやりたい放題やっているものの、現在の境遇はあまり良いものではなかった。

 父親からは長男であるシヴィルのスペア扱いされ、そこそこ大事にされているものの、ノーマンの正妻であるアレクシア・ヴィクターからは目の敵にされており、館での居心地は悪い。

 メイドをやってた母親も俺を産んですぐに追い出されたらしいしな。ただ、俺への嫌がらせから考えても母親はアレクシアに殺されているだろうと予想はできている。

 ちなみに貴族の子供で、スペア扱いされているものの、本妻に睨まれているせいで、俺はこの世界に来てからまともな貴族教育はほとんど受けていない。そして庶子とはいえ、貴族の子供だし、そもそも子供だからか仕事もないし、暇なものだった。

 で、そういうストレスや暇を精通が来てからセックスで発散していたのだが、まぁ、なんだ、あー、ヤッちまったなほんと。子供かよ。

 メイドのアシュリーの言葉を寝転がったまま咀嚼して、彼女が出ていく理由を口にしてみる。

「あー、俺も一応継承権あるから、そんな俺の子供だったらまぁ、継承権発生しちゃうって奴か?」

「継承権と言っても、ほとんど意味はないものですが、そうなります。まぁそういうわけで若手メイド一同、お暇を頂いて奥様から逃げようかと」

「そもそも、なんでお前ら避妊しなかったの?」

「避妊って……レオンハルト様が遠慮なくドバドバ中に出せばできるものもできるのでは?」

 避妊って概念ないのかよ。いや、最初に豚の腸だか魚の水袋みたいなものを渡されて、それをつけてヤッてたけど感触が気持ち悪かったから即座にやめたんだよな。俺のせいか。俺のせいかー。

 ラノベでよくある生活魔法とかないもんなこの世界。あと避妊魔法とかもないし。

 いや、そもそも魔法使えるのは貴族だけだしこの世界。避妊魔法が存在してもメイドであるアシュリーたちは使えないのか。

(失念してたというか、いや、なんというか、もうちょっとそっち方面で便利に発展してると勘違いしてたか)

 ちなみに魔力は貴族しか持っていないので、貴族の種で庶民の腹を膨らませれば高い確率で魔力持ちの子供ができるが、貴族社会的にあまり歓迎されていない。

 魔力持ちを統制できる優秀な配下が多い伯爵家以上にもなればそういった方法で兵を増やす方法もなくはないが、男爵家規模でやたらと魔力持ちを領内にばらまくと、反乱のリスクばかりが増大するし、そういう流出した魔力持ちが種をばらまくことで魔力持ちが収拾不可能なまでに増えまくるからである。

 なお、それがあんまりにもひどい領地の場合は、その国の王がそういった汚染された領の民を一斉検査して老人だろうが赤ん坊だろうが関係なく魔力持ちだけを引き抜いていくらしい。

 魔法は身を守るためには便利だが、みんなが持っていたら逆に危険なのである。

 沈黙。

 手持ち無沙汰になったアシュリーが俺の上で腰をかすかに揺らしている。気持ちよさに脳が溶けそうになるが、少しだけ真面目に考える。

「……あー、まぁ。じゃあ、なんとかするわ」

「なんとかできるんですか?」

「成人したらやろうと思ってたことを前倒しにする」

 この世界では十五歳で成人だ。貴族というか、魔力持ち限定だが教会でスキルがもらえるらしいのである。

 このヴィクター領の当主であるノーマンも『剣術』という剣の扱いが達人並になるスキルを持っている。

 スキルの形質は高い確率で遺伝する。だから現在王都の貴族学園に通っている我が兄シヴィルも来年は血統から高い確率で得られるだろう『剣術』スキルを貰って、王都の学生生活で役立てるつもりらしい。

 俺に向かって自慢していたが、シヴィルはスキルを得たら貴族仲間や婚約者と一緒に王都にあるダンジョンに潜って、小遣いとレベルを稼ぎつつ、将来のための人脈コネを作るのだそうだ。

 ちなみにこの世界には魔物モンスターが存在する。

 もっとも弱いモンスターですら熊より強いので害獣というよりも災害に近いレベルの存在だ。

 そしてそんなモンスターを退治できるのは魔力を持った人間のみ。

 ゆえに領民たちは魔物から庇護してもらうために魔力を持つ貴族に従い、税を納めるのである。

 まぁ、そんな領民の中にもたまーに隔世遺伝とかで魔力を持ったまま産まれる領民とかがいて、そいつらが冒険者として活躍したりもするらしいのだが、貴族のように洗練された血統の魔力持ちよりだいぶ魔力は弱いし、効率的な訓練方法も知らないしで、そこまで強くはならないらしい。

 ちなみに、らしい・・・だとかだそうだ・・・・とかあやふやなのは俺の知識がメイドからの伝聞が多いからである。家から出してもらえないんだよな俺。所詮、妾の子だし。

 さぁて、それよりもまずは聞かないとな。俺だけで行動はできないし。

「あー、そうだ。アシュリーっていうか、お前らメイドたちって家から出るときに俺について来いって言ったらついてきてくれるのか?」

 きょとんとした顔のアシュリーは「ついて来いって、仰ってくれるんですか?」と全く期待してなかった、とばかりの言い草で俺に問う。

「そりゃ、ガキができたんなら、なんとかするしかないだろ」

「ご自分だってまだ十二歳じゃないですか」

「お前だって十四じゃないか」

 ちなみにどうでもいい話であるが、クソ兄貴ことシヴィルくん十四歳は、アシュリーとは幼馴染で、この屋敷で友人以上恋人未満のように育ったことで、身近な異性としてアシュリーのことを好きになっている。でも妾腹の弟に取られてやんの。僕が先に好きだったのにだ。ざまぁ。げらげらげら。

「私はまぁ、抱かれているうちにそれなりに覚悟してましたし。絶対これデキるなって」

 少しの不安と多くの諦めを飲み込み、それらを仕方ないとでも言うような微笑に変えているアシュリーの顔を見ているとほんの少しの罪悪感が湧いてくる。

 だが、俺とアシュリーのこの関係は朝勃ちを「ちんちんがおかしい! こ、こんな妙な症状。義母に知られたら殺される。どうしようアシュリー」といった感じで処理させたことから始まっている。なお最低な話だが、他の四人のメイドもこの作戦で抱いた。

 ちなみにこの館内では、俺が手を出した若いメイドたち五人は、年老いて現実を受け入れてしまった他のメイドたちと違って、庶子である俺が正妻と正妻の息子からいじめられている現状に対して同情心を持っていたし、俺もその同情心に付け込んで様々におねだりをしてきていた。

 そういう心の隙をついて好き勝手した結果がメイド五人組の妊娠であり、だからこそ俺も覚悟を決めなければならなかった。

「まぁ、なんだ。なんとかするよ。だからついてこい」

 俺のそんな締まらない言葉に、アシュリーは「はい。レオンハルト様」と微笑んでいた。


 しかし、なんだ。罪悪感やべーな。


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