第6話 力と制限と代償

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 高校から南に1キロ行った所に宮城県民なら馴染みのある地域密着型のスーパーがある。

 その店内の一角にあるハンバーガーショップがオレと灯の目的地だ。


 早速店内に足を運ぶとポテトが揚がったことを知らせるBGMが流れてきた。

 時刻は夕方4時30分。

 正直そこまでお腹は減っていなかったがこのBGMを聴いたら不思議と食欲が湧いてきた。


「道長くんは何食べるの? 私はこの限定のセットにする!」


 受付に置かれたメニュー表を見ながら灯が聞いてくる。

 灯が頼んだ季節限定と書かれたハンバーガーも気になるところだがオレはあまり冒険はしないタイプだ。

 無難にチーズバーガーとポテトMサイズとオレンジジュースを注文した。


 トレーで商品を受け取り、人を避けるように角席を確保する。

 店内にはオレたちと同じ名取東高校の制服を着た女子生徒3人と子連れの家族がいた。

 他人が視界に入っていると落ち着いて食事ができないので灯に壁側の席を譲った。


「んー美味い!」


「おい、口にソース付いてるぞ」


 豪快にハンバーガーにかぶりついた灯の口がソースで光る。


「どこ? 道長くん、取って」


「いや、それくらい自分で取れって」


 テーブルに身を乗り出して顔を近づけてきた灯にストップをかける。

 冷静に考えて距離感が近い。

 オレと灯が話したのは今日が初めてだ。

 口の汚れを拭くとかそういうことはカップルがやることだろう。

 灯はあまり気にしていないのかスマホを内カメラにしてティッシュで丁寧に拭いた。


 ほぼ初対面でそれも2人きりでハンバーガーを食べに来ている時点でおかしいのだが、今日1日でイベントが発生し過ぎて感覚が麻痺してしまった。

 そんなことを考えながらポテトの油をオレンジジュースで流し込む。


「お腹もいっぱいになったしそろそろ本題に入ろっか」


 灯が背筋を正して真っ直ぐオレの目を見た。

 基本的に気の抜けている灯だが、急にスイッチが入るんだよな。

 クラスメイトの結城とぶつかったときも真剣そのものだった。


「青トラの活動に関してか?」


「そう、青春特異体質を発症する人の多くは精神的苦痛を経験した人でしょ。苦しんでる人のサポートをするならお互いの得意不得意を把握しておいた方がいいと思うの」


「まあ、一理あるな」


「ちなみに道長くんは力を発現してたりするのかな?」


 デリケートな部分ということもあって灯が控え目に聞いてきた。

 そういう気遣いができるなら人に喝上げしたり、奢らせたりはしないと思うんだが。


「そうだな……」


「ごめん、言いたくないなら無理に言わなくてもいいよ」


「いや、まあ。オレはもう2度と力を使わないと決めたんだ。だから、ごめん」


「ううん、力は信頼できる相手に話せばいいと思うから大丈夫だよ」


 灯が優しい口調で首を横に振った。

 その表情が少し哀しげに見えた。


「私は去年とある出来事があって力を発現したんだ。道長くん、見てて!」


 視線を自分に集めた灯が突然目の前から消えた。

 代わりにオレの前には後ろの席で雑談をしていた女子生徒の1人が現れた。

 女子生徒も何が起きたかわかっておらず、首を左右に振って状況を確認している。


「見ての通り、私の力は自分と他人の位置を入れ替える能力だよ」


 振り向くと女子生徒が座っていた席に灯の姿があった。


「制限は自分の目に見えている対象だけ。代償は入れ替わってから5秒間動くことができない。話すことくらいはできるけどね!」


 話している間に5秒が経ち、灯が女子生徒に謝りながらこちらの席に戻ってきた。

 灯の力は『瞬間移動』といったところか。


 力には必ず制限と代償がある。

 制限は範囲や時間が関係しているケースが多い。

 灯のように自分の目に見えている範囲というのが良い例だ。


 代償は力を使用した対価だ。

 青春特異体質発症者は力の発動と引き換えに何かを失わなければならない。

 灯の場合は5秒間の行動停止がそれに当てはまる。

 

 力が強大になればなるほど代償が大きくなると言われているが、青春特異体質自体まだ謎が多いため確かではない。


「凄い力だな」


「ありがと。この力が役に立つかは分からないけど誰かを助けることができるなら私は迷わずに使うよ」


 へへっと自慢げに灯が笑った。


「青トラの役割は悩みを抱えている生徒のサポートをすることだろ?」


「うん」


「だとしたらクラスメイトと早く打ち解けて情報収集能力を高めた方がいいと思う」


「そうだね!」


「オレはこんな性格だからあまり人と関わることが得意じゃない。だからコミュニケーション能力の高い灯がクラスの中心になるべきだと思う」


 帰宅部で散歩と睡眠が趣味なオレに友達と呼べる相手はいない。

 春休みも誰とも会わずにほとんど引きこもっていたからな。

 自分で言っていてちょっと悲しい。


 明るい性格の灯がクラスの中心になって相談されやすいポジションを築く。

 コミュニケーションが苦手なオレは客観的にクラスメイトを観察する。

 表と裏から異変を察知しようという訳だ。


「道長くんがそう言うならわかった! 私みんなと仲良くなる!」


 翌日、灯はあっという間にクラスの人気者になるのだった。

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