第4話 青春トラブル対策係
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「多数決の結果クラス委員は中村で決まり。ここからの進行は中村に任せる。中村前に出てこい」
担任の
新クラスになって初めにすることと言えば自己紹介と委員会決めだ。
自己紹介は自分の名前と所属している部活、趣味を言うだけの簡単なものだった。
オレの場合は帰宅部で趣味は散歩と寝ることと答えておいた。
クラスメイトの女子から「散歩?」「寝ること?」「おじいちゃん?」などという声が聞こえてきたがこれ以外に趣味が無いのだから仕方ない。
ただ平凡な日常が流れていく。それだけでオレは幸せだ。
「えー2年6組のクラス委員になった
爽やか系のイケメン、中村の進行で委員会決めが進んでいく。
中村が黒板に保健委員、美化委員、図書委員、放送委員、体育祭実行委員、文化祭実行委員、生き物係、黒板係、号令係など委員会からクラス内の係まで次々と書いていく。
「ねぇねぇ、道長くんは委員会に入るの?」
横から灯が声を掛けてきた。
普通に声を掛けてくれればいいのにシャープペンの先を腕にブスブスと刺してくるもんだから変な声が出てしまった。
頼むからみんなオレを変な目で見ないでくれ。犯人はこいつだ。全てこいつが悪い。
「できることなら避けたいな」
「そんなこと言わないで何か入ったらいいんじゃない? 帰宅部なんでしょ?」
「帰宅部=暇だと思わないでくれ」
「でも自己紹介で散歩と寝ることが趣味って言ってたじゃん」
「散歩と寝るので忙しいんだ」
「ふーん、百歩譲って散歩はいいとして寝るのに忙しいも何もないんじゃない?」
「うるさいな。人の趣味なんだから好きにさせてくれよ。てかなんでよりにもよってお前が隣の席なんだよ」
朝のガチャガチャ騒動から始まり、同じクラスで隣の席ときた。
確率で考えたら天文学的な数字になるのではないだろうか。
「
灯が「何言ってるの? 当然でしょ」みたいな口振りで答えた。
教室の席は五十音順が採用されている。
『さ』と『こ』では隣の席になるのも頷ける。
だがオレが言っているのはそういうことではない。
「号令係は
灯とやり取りをしている間に委員会決めも終盤に差し掛かったようで黒板にクラスメイトの名前があらかた出揃っていた。
「はい! 私やります!」
灯が手を高く挙げてひらひらと振ってアピールをする。
「児玉さんだよね? ありがとう。もう1人誰かいないかな?」
中村が『青春トラブル対策係』の下に『児玉灯』と書いた。
『青春トラブル対策係』通称・青トラの主な活動内容は『青春特異体質』で悩む生徒のサポートをすることだ。
『青春特異体質』とは思春期で精神状況が不安定になる13歳〜18歳の時期に見られる症状だ。
一昔前では超能力と呼ばれていたが現代では呼び方が変わり病気の一種として扱われている。
他人の心の声が聞こえる、他の人格と自由に入れ替わることができるなど、複数の報告例がある。
精神的な負荷が掛かることが原因で発症すると言われているが現代医学を持ってしても未だ何も解明されていないのが現状だ。
「まだどこにも所属していない人で誰かいませんか?」
他の委員会とは違い青トラはある程度の責任が生じるため、なかなか手が上がらない。
なるべく中村と目が合わないように視線を伏せている消極的な生徒が目立つ。
かく言うオレもその1人だが。
「中村くん! 佐伯くんもやります!!」
灯がオレの腕を掴んで無理矢理頭の上まで持ち上げた。
「な!? 誰もやるって言ってないだろ」
「このままじゃいつまで経っても決まらないでしょ? パパッと終わらせて他のことに時間を使った方が有意義だと思わない?」
灯がニッと白い歯を見せる。
言っていることは何も間違ってないけど、別にオレじゃなくてもよかったような気もする。
だが、児玉灯という人間と出会ってしまったことが運の尽き。
どうせ巻き込まれるなら抵抗するだけ無駄、か。
「佐伯くん、いいのかな?」
「分かったよ。オレが青春トラブル対策係をやります」
『児玉灯』の隣に『佐伯道長』の文字が並んだ。
オレの趣味である散歩と睡眠はしばらくお預けになりそうだ。
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