第13話 ファーストキス

篠宮しのみや朱理あかり 視点】


 今日は坂田くんとデートした。


 彼と一緒に映画を観て、カフェで食事して、ゲームセンターでプリクラを撮った。


 えへへ、楽しかったなぁ~。


 スマホの画面に目を向けると、坂田くんとのツーショットが待ち受け画面になっていた。

 その待ち受け画面を見て、カッと顔が熱くなる。


 あはは……恥ずかしいっ。

 

 坂田くんと一緒にいると心がポカポカする。

 彼の顔が視界に入ると、胸の奥がキュンキュンってなる。

 やっぱり、アタシは坂田くんのことが好きだ。


 坂田くんに愛されたい。

 彼を独り占めしたい。

 彼の頭の中をアタシで埋め尽くしたい。


 けど、どうやったら彼と付き合えるんだろう……?

 恋愛経験ゼロのアタシには分かりません。


 ふと坂田くんの言葉を思い出す。


 ――気になる人はいるよ――


 坂田くんは誰のことが気になっているんだろう?

 アタシかな……?

 いや、流石にそれはないか。


「ん?」


 突如、誰かが電話をかけてきた。

 坂田くんかな……?

 気になったアタシは電話に出ると――


「よう、朱理」


 ――スマホのスピーカーから正人の声が聞こえてきた。

 なんだ、正人か……。


「今日、祐二とデートしたんだろ?」

「え? あっ、うん……したけど」

「楽しかったか?」

「うんっ、凄く楽しかったよ」

「そうか、そうか」


 今日のデートを思い出してニヤニヤが止まらない。

 えへ、えへへっ。


 また坂田くんとデートしたいなぁ~。


「で、告白したのか?」

「こ、告白っ!? そんなのしてないよっ!?」

「は? まだ告白してないのかよ……」

「う、うん……」

「早くした方がいいぞ?」

「え? どうして?」

祐二アイツは結構モテるんだ」


 坂田くんってモテるんだ。

 まぁそうだよね。

 坂田くん、凄くカッコいいもんっ……。


 ライバルが多いことに危機感を覚える。

 

「お前が思っている以上に祐二のこと好きな奴は多いんだよ。このままじゃ他の女に取られるぞ?」

「……ぇ……」


 他の女の子に坂田くんを取られる。

 そう思った途端、チクチクと胸が痛む。


「他の女に祐二を取られていいのか?」

「そんなのヤダよっ……」

「なら、早く告白しろ」

「……」

「わかったなぁ?」

「う、うん……」


 告白か……。

 

 



 ◇◇◇



【坂田祐二 視点】


 最近の僕は変だ。


 篠宮のことばっかり考えてしまう。

 今日は授業中も篠宮のことばっかり考えていた。


 もしかして、僕は篠宮のことが好きなのか?

 ははっ、まさかな……。


「ねぇ祐二くん」


 突如、横から女性の声が聞こえてきた。

 横を振り向くと、優衣の姿が目に映る。


 僕は口を開いて、優衣の言葉に返事した。


「なんだよ……?」

「私と勝負しない?」

「勝負……?」


 優衣の言葉に小首をかしげる。

 勝負だと……?

 視線で『どういう意味だ?』と問うと、優衣は答えた。


「ゲームで私に勝ったら、一回だけなんでも言うことを聞いてあげるわ」

「ほう」

「逆にアナタが負けたら、一回だけ私の言うことを聞いてもらうわよ」


 ゲームで僕が勝ったら、優衣に一回だけ命令できる。

 逆に優衣が勝ったら、一回だけ僕に命令できる。

 なるほど、面白そうだな。


「やめとく?」

「いや、やるよ」

「ふふ、わかったわ」


 テレビとゲーム機の電源を付けて、専用のコントローラーを手に持つ。

 好きなキャラクターを選んで、優衣と勝負する。


 5分後、決着がついた。

 勝者は優衣だ。

 僕は負けてしまった……。

 マジで悔しいっ。

 

 落ち込んでいる僕を見て、優衣は悪戯な笑みを浮かべる。


「ふふ、私の勝ちね」

「そうだな」


 勝負に勝った優衣は、一回だけ僕に命令できる。


「一回だけ私の言うこと聞いてもらうわよ」

「ああ、分かったよ」

「じゃあその……目を瞑ってくれる?」

「ん? 目を瞑ればいいのか?」

「うん……」


 優衣の命令に従い、僕はゆっくりと瞼を閉じる。

 視界が真っ暗になった。

 何も見えない。

 

 優衣のヤツ、何をするつもりだ……?


 突如、柔らかい感触が唇に押し付けられる。

 ゼラチンのような柔らかい感触だ……。

 レモンのような甘酸っぱい味もする。


 なんだこの感触は? 

 気になった僕は目を開けると――


「っ!?」


 優衣が僕の唇を奪っていた。

 

 おいおい、なんだこれは……。

 わけがわからん。


 僕は慌てて優衣の肩を掴んで、唇を離す。


 優衣と目が合う。

 彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

 耳と首まで真っ赤だ。

 おそらく、僕の顔も真っ赤になっているだろう。

 

「ゆ、優衣……今のは?」

「嫌だったかしら……?」

「嫌ではないけど……」


 正直、めちゃくちゃ嬉しい。

 だが、どうして優衣は僕にキスしたんだ?

 

 もしかして、優衣は僕のことが好きなのか?

 僕のことが好きだからキスしたのか……?

 

 気になった僕は疑問を口にした。


「なんでキスしたんだ……?」

「それは……」


 優衣は返事を窮する。

 黙り込んでいる優衣に、まっすぐ言葉を投げる。


「もしかして、僕のことが好きなのか……?」

「っ……」


 僕の質問に優衣は声にもならない声を上げる。

 動揺している様子だった。

 まさか、本当に優衣の好きな人は僕なのか……?


「――しないで……」

「え……?」

「か、勘違いしないで……私の好きな人はアナタじゃないわ」

「じゃあなんでキスしたんだよ?」

「それは……内緒よ」

「……」


 謎だ。

 なんで優衣は僕の唇を奪ったんだ?

 こいつは何を考えているんだ……?



 ◇◇◇



 



【坂田優衣 視点】

 

 

「もしかして、僕のことが好きなのか……?」

「っ……」


 義兄――祐二くんの言葉にビクッと体が震える。

 私は慌てて口を開いた。

 

「か、勘違いしないで……私の好きな人はアナタじゃないわ」

「じゃあなんでキスしたんだよ?」

「それは……内緒よ」

「……」

 

 祐二くんに嘘をついてしまった。

 私は何をやってるのっ? 

 

 本当は祐二くんのことが好きだ。

 けど、大好きな人に拒絶されるのが怖くて、反射的に『か、勘違いしないで……私の好きな人はアナタじゃないわ』と嘘を吐いてしまった。

 最悪だ。

 なんで嘘ついたんだろう……。

 大チャンスだったのにっ。

 私のバカ……。

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