第32話 雪を待つ

雪を待つ

都心に住んでいる私は、ちゃんとした雪が降るのをあまり見た事がない。だから冬になると雪が降るのを待っている。

雪が降ると、周りの音を全部吸い込んで1面静かになる。

空気中のホコリも一緒に取り込むからか、空気が一段と冷たく、澄む。

本当に静かで冷たい世界が広がっていくのがどうしようもなく好きで、それでいてどうしようもなく怖い


「雪うさぎって、知ってる?」

「なにそれ、始めてきいた」

「同じうさぎだから知ってると思ったんだけどな笑

昔ね、月の世界で大勢の王子さまが雪合戦をしていたんだって。そんな時、一つの雪の玉が、地上へ落ちちゃって、やがて日光に溶けてなくなってしまったの。

それを見ていた神様は、せっかくきれいな白い雪の玉が消えてしまうのが惜しいと思った。だから飛んできた雪玉に、目と鼻と口、それに長い耳、四本の足と尻尾をつけたの。これが雪うさぎ。

雪うさぎはいつの頃からかそのまま地上に住みつくことになったの。それがきみ、うさぎだよ。」

「へえ、そうなんだ笑でもちがうよ、うさぎの始祖はうさぎだよ。物語のお話なんだね」

「もう面白くないな〜、そのうさぎの耳はね、南天って葉っぱからできてるの。冬でも枯れないから難を転じる縁起物とされてるんだよ」

「僕は縁起物だったのか」

「違う君は縁起物じゃない笑」


そんな話をしながら、今年も雪を待つ。

少しだけ暖かくて、それでいて少しだけ寒いふゆを迎えながら。

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