第25話 たくさんの思い出

コリウスの花が咲き始めてから数日がたった。


真っ白な部屋に来てからも、アマリリスの花をもって彼女はここを訪れる。

だけど今日は、どこかで見た事のある花を一緒に持ってきた。

鮮やかな赤色で大ぶりの花を咲かせる、今私が1番見たくない花。

「ねえ、この花どこに咲いてるかしってる?」

「…しってるよ、見たことあるよ。」

「ほんと!ねえ一緒につみにいってほしいの、私一人じゃどこにあるのか分からなくて迷子になっちゃうし」

「ええやだよ一人で行って来てよ…それか別の子と行ってきなよ」

「約束、破るの?」

「…わかったいこう」


運転をしなければいけないところにその花は咲いている。

彼女は運転をすることが出来ないから一緒に行こうねと言う約束、2年経ったけど忘れてなかったのか…時々彼女の記憶のよさにこわくなることがある。

嘘、ちゃんと私も覚えてるよ。

約束破るのは私の信条に反するし、うん、いこう。


「なんでその花?」

「ん〜、なんかね、起きたら手に1輪だけ持ってたの!だからちゃんと咲いているところをみたくて」

「…なるほどね笑」

彼女の所には長らく台風が住み着いていた。周りのみんなは早く追っ払ってしまえと言ったけど彼女は耳を貸さなかった。台風は花を荒らしていくからみんなに嫌われているけれど、彼女は違った。なんど花を散らされてもめげなかった。今なら何故彼女が台風を追い払わなかったかわかる。

最近台風とお別れしたことは何となく聞いていた。

よくある事だ、季節の変化や何かををきっかけに新しい花が生まれるのは。


「その花はどうしたの?君らしくない色だね」

「ああ、この子はここに来た時に咲いたみたい、咲かせたつもりは無いんだけどね笑」

「元々君は何の話を咲かせてたの?」

「カモミール。高校の時に全て枯れちゃったけど」


「思い出もあるじゃん、すごいね幼児期から全部揃ってるの初めて見た!私なんて中学あたりから記憶怪しいよ」

「見たらびっくりするよ笑今の私と真反対」

「高校の時の思い出はないんだね」

「この部屋に閉じこもってたから、その時に全部消しちゃったみたい笑」


元々私も彼女らの様に自分の島を持っていた。

カモミールの花だけじゃなくて色んな花を咲かせていた

誰よりも綺麗に花を咲かせている自信があった。

高校生の時、この部屋に来るまでは。

断片的にしか覚えてない記憶、あの時も今と同じくらい苦しかった


「たくさん思い出があるの、この部屋に来るまでの半年ちょっと、1番輝いて思い出たちが生まれたの。蕾は呆気なく無くなってしまったけれどこの子達はどれだけ色あせても持っていたい、けど勝手に消えていってしまうようで怖いの」


「ねえ、この花をつみにいくとき案内してよ、行ったことあるんでしょ?…きっとその頃には君のところにも春が来るよ。1度この部屋から抜け出せたんだから抜け出せるよ」

「…私も、また花を咲かせたい。この思い出たちと一緒にきれいな花を咲かせたいの、自分の好きな色で、好きな形の花。コリウスの花を枯らしたいの」

「そうだね。いっその事除草剤まくとか!」

「そんなのこの世界にないよ笑」


前向きになれる時となれない時がある、人間の心理はそんなに柔なものではない

人によるけれど、少なくとも私の心は違う

彼女がこの部屋を去ってから、また暗がりが訪れた

どうにかして乗り切らなければいけない


月が目を覚ましたようだ

狂気的な、それでいて穏やかな笑みを浮かべながら今日も生きる私たちのことを柔らかな光で照らし続ける。

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