短編77‐2話 数ある盤賽友愛! ~よろしくと団体ギャモろうぜ~
帝王Tsuyamasama
短編77‐2話 数ある盤賽友愛! ~よろしくと団体ギャモろうぜ~
(お、あの電車で来たんだろうか?)
俺は朝から一人、長そでカッターシャツ装備で、白いつやつやなイスに、手をひざ辺りへ置きながら座っていた。
お馴染みな最寄り駅の改札前にて、座りながらホームの方を見ていたら、これまたお馴染みの赤い電車がやってきた。車内のイスが赤かったっしょ? 車体も赤。
この駅は俺の住んでいるところから四駅先の駅。俺のとこの駅より大きくて、改札の中でも売店や立ち食いそば屋さんなんかもある。うらやましっ。
今日は土曜日で、学校は休み……なんだけれども、部活はある。
バックギャモン部は、普段は休みであることが多いけど、大会が近いと土曜日にも部活が入るらしい。
他にも、この前あった他の学校との交流会だとか、大会じゃないイベント、例えば地域でボードゲームを紹介するイベントに参加する~とか、公民館とかでおじいちゃんおばあちゃんたちとの対決~なんてこともあるらしく、そういうときも学校が休みの日に部活がある。ってことになるとのこと。
じゃあ今日はなんぞや。交流会である。佐遊希んとことは違う、別の高校と。
夏休みの間に、全国に散らばるバックギャモン部たちが
今日の交流会は、俺たちが行くんじゃなく向こうから来てくれるもの。今日来る高校は、女子部員が二人しかいないらしいので、男子団体と男女混合タッグの練習が予定されている。
個人戦の練習については、フリーギャモンタイムのときにどうぞって感じ。
(バリバリ暑くなってきて、大会が近づいてきたって感じだな~)
なんかこう、全国大会! って、やっぱ夏のイメージっスよね!?
(ちらっちらっ)
ところで、なんで部活のある朝に、一人で駅の中で座ってんだって? まぁまぁさっき到着した電車から降りてきた人たちの波を、じっくり見届けておきましょうや。
(ちらっちらきたぁーっ!!)
「おはよう、雪くんっ」
う~ん本日も朝からいい笑顔ですね星川佐遊希さん。
白い長そでブラウス。赤いリボン。深い緑っぽいチェック柄スカート。かばんもうちの学校の女子が使ってそうな長方形っぽいやつだが、色はブレザーに似た深い赤茶色で校章が小さく入ってるやつ。(←女子たちが校章入りかっこいいと言っていた)
この前の交流会ではブレザー装備だった星川佐遊希さんも、七月である本日はブラウス装備星川佐遊希で登場。
他の乗客に混じって改札を通った佐遊希は、俺を見つけるなり速攻で俺の右隣のつやつや白イスに座った。
(近い)
「おっは佐遊希っ」
ん? 佐遊希んとこの学校が来るわけちゃうのに、なんで佐遊希が来てんだって? いくつかの要素がありましてね?
・より多くの学校のバックギャモン部の人と交流してみたい
・他の学校のバックギャモン部を見てみたい
・昔住んでた地域もっかい見たい
などなどの理由が並べられており、向こうの先生もこっちの弥生先生も、今回の交流会相手である学校の先生からも許可が下りたため、佐遊希が単独でやってきた、というわけである。そして俺の右横に座り現在に至るっ。
「懐かしいな~この駅っ」
「一度くらいそば食べてみたいものである」
「えっ、雪くん食べたことないの?」
「え、佐遊希あんの?!」
「うんうん、おいしかったよっ。お揚げがおっきいのっ」
「ぐぬぬ」
知られざる佐遊希伝説が、またひとつ発見されました。
駅を出てからもあっちこっちきょろきょろしながら歩く佐遊希。引き続き俺の右隣をポジショニング。
(あぁ俺~、佐遊希と一緒にここ歩いてんだよな~)
ここは高校近辺だが、真の地元である小学校やらおうち付近やらを歩いたら、もっとキャッキャするかもしれない。本日はその予定があるのかって? 部活が終わった後、バリバリあるらしい。
「雪くんは、いつもこの辺りを歩いて通っているんだね」
「ああ」
駅から徒歩十分。三年間通う道である。
駅前は当然賑わっているとして、学校までの道にも、喫茶店や貸し駐車場やレンタカー屋さんなどがある。学校は大きな通りに面しているので、その辺りになるともっと賑やかでいろんな店が並んでる。
「私もこっちの学校にしたら、よかったかなぁ?」
そんなセリフを笑顔で言ってまっせ佐遊希さん。
「なぜっ」
「だって、雪くんたちがいるんだもん」
(じーん)
引っ越しかぁ。どんな感じなんだろうか。俺はまだ人生で、一度も引っ越したことないからなぁ。
「ブレザーじゃないぞ~学生服だぞ~女子はセーラーだぞ~」
「着るのはなんでもいいよぉ」
もいっちょ笑う佐遊希。
「佐遊希のブレザー姿かっちょよかったなー」
「そう~?」
「今もスカートとかかばんとかかっちょいいし」
「そう? ありがとうっ」
佐遊希のありがとういただきました。本日まで生きることができてよかったぜ。
「雪くんがそんなに言ってくれるのなら、私、頑張るっ」
「おうよっ」
佐遊希のやる気パワーが充填された模様。
「雪くんだって、かっこいいよっ」
(なっ)
そ、そそそりゃまぁ佐遊希かっちょいい説を最初に唱えたのは俺なんだが、んな電柱ぶつかるんじゃねってくらいまっすぐこっち見ながら、んなセリフお届けされましてもっ……。
「お、おうよっ」
とりあえず口から出たのは、実に無難な返事だった。
それからは、主に俺の学校のことをしゃべりながら歩いていたら、いよいよやってきたぜ俺たちの高校。
「雪くんの高校に来ちゃった~」
「おいでやす」
交流会でやってくる軍団は、十時半にバスで来るって言ってたな。高い柱に備え付けられている時計を見たら、まだ十時五分といったところ。
門はふたつあるんだが、ここは正門側。もいっこの門側の様子は知らないが、ぱっと見た感じでは、まだバス来てないっぽい?
ちなみに佐遊希んとこの交流会のときは、部長&先生の手厚い出迎えを受けたが、単独佐遊希の案内役は、俺ただ一人に任されている。
バス到着前になると、部長・副部長・先生による手厚い出迎えの予定。
「じゃ、佐遊希んとこみたいに、軽い手続きを事務室でな」
「うん」
……ほんとに佐遊希が俺の高校に来ちゃったー。
俺の付き添いで、事務室にて手続きを完了させた佐遊希。白いかごの中に無造作に重ねられた番号付きストラップたちの中から、佐遊希が選んだのは5番だった。理由は『
お互いの
ちなみにゴール直前の1ポイントはエースポイントらしい。名前的にはかっこいいけど、バックギャモンは進むと戻れないし、ダイスの目には従わなければならないから、攻め側的にはあんまりここへは動かさないようにするのが、オーソドックスな戦い方とのこと。
風次郎は容赦なく、ひとりぼっちで復活したての駒を攻撃しにいってたけど。
「俺なら、すぐ下にあった1を取ってた」
「64を探してもよかったかな?」
64とは、ダブリングキューブに書かれてある数字の中、2・4・8・16・32・64のうち、最も大きい数字。
勝負が始まったときは、場の点数は1倍なんだけど、便宜上64の面を表示させる。先輩たちによると、8ですらそうそうめったにお目にかかれないらしい。
「そんなでかい数字あんのだろうか? 六十四枚もあのストラップなさそうじゃね?」
「あ、それもそうだねっ」
ああんもうほんとに佐遊希はあっちでもこっちでも笑顔振りまきまくりやがってこんにゃろっ!
今日の交流会は、会議室を使えるらしい。この学校内においては、最もバックギャモンをするのに適した場所だと、睦音先輩が教えてくれた。
今は七月ということで、交流会には
土曜日ということもあってか、特に大きな会議などの予定もないらしいし、先生が早めにばっちり押さえてくれていた。
普段の練習は、会議室がもし空いているなら会議室。そうでないなら、家庭科教室・調理実習室・理科教室・普通の教室なんかでやることが多い。たまに木工室や視聴覚教室も。調理実習室や理科教室とからへんは、家庭部や科学部とかの使用状況によりけり。あぁあと他のボードゲーム系の部活と交流するときは、そっちへ出向くこともあるか。
てことは先生は、結構いろんな部活と教室どの日使えますか~的な話をしてる、ってことなるんだろうか? あれ、弥生先生って結構すごくね? 『あらぁサイコロ飛んでいっちゃったわぁ~』とかそんなキャラなのに。
美術部(美術教室)やら吹奏楽部(音楽教室)やら茶道部(茶室)やらの特殊な例は、それぞれの場所が部室みたいな感じの扱いになってるけど、それらとは別に、部室棟っていう部活に関する専用の棟がある。
そこには各部活に専用の部室が与えられてるけど、大会でも使われるような
練習するときは、部室にいてる人を少し残し、それ以外の人たちは部室を飛び出し、様々なギャモンボードや対局時計やら細々とした道具などを持ち歩き、校舎を練り歩いているのである。
ちなみに部室棟にもミーティングルームがふたつあるけど、だいたい他の部活が使うので、バックギャモン部としては、そこを使うのは遠慮しているらしい。
「いつもはこの校舎のあちこちで練習してるんだぜ」
「そうなんだぁ。人数が多いから?」
「バックギャモン部に十四人は多いんだろうか? 少なくとも部室じゃ全員Lボードで対局とかは難しそうだな」
「いいなぁ。私のところは八人だよ? 一年生なのに、女子団体戦に出ることになりそうだし」
そう。佐遊希んところのバックギャモン部は、男子三人女子五人の合計八人。芸術系の部活は人数が多いのに対して、それ以外の文化部はどこも人数が少なめらしい。新聞部はたったの三人らしい。
「こっちの部活も女子は五人で、一年生も団体戦に出るんだ」
「そうなの? この前は、そんなお話聞いてなかったよ?」
「んお? その話にならなかったのか?」
「えっ、だって~……」
なんかこっち見てます。
「……雪くんの横で、他の人の戦いを見てたもん」
「せ、せやな」
盤面の解説を、お互いの学校の先輩がしてくれたけど、俺たち同士は今度の大会がどうの~っていう話は、してなかったなぁ。
その交流会の後で電話したときや、会ったときは、昔の話が盛りだくさんで、やっぱり大会の話にはならなかったし。
「あ、じゃあさ。ひょっとして~……この情報もまだだっけ?」
「情報? なに?」
こほん。
「夏の大会。団体戦に、俺も出ることになりそうなんだ」
うぉ、おめめがさらに開かれたぞっ。
「そうなのっ? 頑張ってね! あ、私も頑張るから、一緒に頑張ろうねっ!」
両手ぐーで気合入った佐遊希。戦っているときも、たまにぐーしてる印象はあった。
気合のこもった応援を受け、俺の返事はもちろん。
「おうよっ!」
時間もあったし、学校の紹介も兼ねて、ちょっとだけ遠回りをしながら部室棟にやってきた。
交流会自体は会議室で、部員も大半がそっちの準備に回ってるけど、佐遊希には先に部室へ来てもらうことにした。
部活に来たであろうエキストラたちが、見慣れない装備である佐遊希と、それに付き添う俺のことを見てきたが、佐遊希は目が合ったら会釈をするというスタイルで切り抜けていった。
「そういや、ここには俺らの小学校から進学したやつも何人かはいるから、佐遊希も知ってるやつがいるんじゃないか?」
「わあ、そうだね! 友達いるかな~」
部室棟内できょろきょろする佐遊希。壁に手を当ててへばりついてるなんてわけないので、不審者にはまず思われないだろう。
俺らの学年は、同じ小学校出身者って何人かしかいないけど、他の学年はどうなんだろ? って、佐遊希の年上お友達さん情報なんて持ってないが。
「ああ、来たか」
「おはようございまーす」
現れたのは明純先輩だ。バックギャモンに関する本を五冊抱えている。明純先輩は、男子の中ではやや髪が長い方だろうか。女子に間違われるようなことはない長さだろうけど。
我が部のクール系担当。次の大会では男子個人戦に出る。ルール上は、団体戦と、それ以外の形式ひとつであれば、掛け持ちができるらしい。
対戦形式は、個人戦・タッグ戦・団体戦がそれぞれ男女別にあるのと、男女混合タッグ戦の、全部で七種類。
団体戦の日と、団体戦以外の日に、大会日程が分けられているんだ。団体戦はポイントマッチの勝利ポイントが少し多い。
「おはようございます。私も見学させていただいていいなんて、ありがとうございます」
軽く頭を下げる佐遊希。
(俺も、佐遊希んとこの人たちに、このくらい丁寧にしゃべるべきだったのかっ……?!)
「気にしなくていいと思うよ。雪之進くん、お茶出してあげて」
「承知っ」
「本日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
いたってノーマルな表情のまま、受け答えが行われ、やはりそのままの表情で、俺たちの前から去っていった明純先輩。
俺も二年になったら、個人戦に出るんだろうか……?
「なんだか強そうだねっ」
うんうん、俺の知ってる佐遊希はこっちなんだよなぁ。
「勝率っていうことだけなら、二年では明純先輩が最も強いらしいけど、二年のみんなはそれぞれに個性が強いから、敵との相性や戦況によってそれぞれに強い持ち味がある、って徳真先輩が言ってたな」
「ふう~ん」
一体何の話だったら、佐遊希は笑顔じゃなくなるんだろうか?
「おはよう」
「おはようございまーす」
部室が見えてきたときに、部室から……ノートや資料が入っているケースやらを持って出てきたのは、副部長・七恵先輩。本日も肩に届くかどうかの絶妙なラインで切りそろえられている髪。
「おはようございます。突然なのにも関わらず、受け入れてくださって、ありがとうございます」
……佐遊希は、一体どこでそんなおしゃべりを身に付けたんだ?
「ようこそ。遠かったでしょう? こちらとしても、交流の機会が増えるのはありがたいから、お互い仲良くしていきましょう」
「はいっ。ありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
またちょこっと頭を下げる佐遊希。高校で習ったのか、中学で習ったのか。
「こちらこそ、よろしくね」
副部長がいなかったら、うちのバックギャモン部はどうなってたんだろう?
(部長は特攻隊長タイプだしなぁ)
「先生も部室にいるわ。準備はうちたちが進めるから、雪之進くんは佐遊希さんに付き添ってあげて」
「承知っ」
「わ、私の名前、覚えてくれていたのですか?」
「資料に目を通し、把握して、場が円滑に進めるようにするのが、副部長の仕事なの」
(かっちょえ)
お、いつもよりほんのちょっときりっ度が増してるかも。
「ありがとうございますっ」
再び頭を下げる佐遊希。あれ、でもちょっと笑ったぞ副部長っ。
「ふふっ、ちょっとかっこつけすぎちゃったわね。それじゃあ雪之進くん、よろしくね」
「承知っ」
俺も応えるように、いつもよりきりっと承知っを言った。
「三年生で副部長の、七恵先輩だ」
「強そうだね。やっぱり強いの?」
「それが俺もよくわからないんだよ。俺たちの棋譜を記録したり、なんかのデータらしき資料とにらめっこしたり、バックギャモン関係の本を読んでいたり、他の学校のバックギャモン部に手紙書いたり、果てはどこかの大会の棋譜を取り寄せて分析までしてるから、戦ってる姿はほとんど見たことがないんだ」
「す、すごい……」
思わず振り返って、副部長の背中を眺める佐遊希。俺も眺めてみた。俺、二年後どころか、二十年後でもあんな凛々しい姿になってる自信ねぇ。
「顧問の弥生先生はバックギャモンに詳しくないんだけど、その先生に教える役目も副部長だ」
「なんでもこなしちゃうんだね……」
本日も副部長のおかげで、我がバックギャモン部は安泰です。
「てことで、ここが俺たちバックギャモン部の部室だ」
「わあ~っ」
俺が先行して部室のドアノブをひねって、ドアを引いて開けた。そんな扉の枠とか眺めてないで、どうぞどうぞ中へと誘った。
「おはようございまー……す!?」
「おはよう諸君!」
え、一体いつから仁王立ちしてたんスか部長!?
身長はさほど高くないのに、この圧倒的オーラ。我がバックギャモン部部長、三年生の蓮太先輩以外有り得ぬ。
「お、おはようございます! 本日はよろしくお願いしますっ」
佐遊希の緊張度マッシマシ。
「よく来てくれた! さあ、入りたまえ」
「し、失礼しますっ」
あ、俺から入った方がいいのか? ああでも扉閉めるの俺か。じゃ佐遊希お先にどぞどぞ。
「ようこそいらっしゃ~い!」
佐遊希を中に入れていると、奥にいた弥生先生もこっち向いてウェルカム体勢をしてくれた。
「あっ。本日は突然のことなのに、受け入れていただき、ありがとうございます」
立ち止まって頭を下げる佐遊希。俺も中に入ろ。
「いいのよそんな、遠慮しないで。青春していってね~」
「せ、青春……? はい、ありがとうございます」
そういえば、前の先生の話は、まだそんなに詳しく聞いたことなかったなぁ。今度だれかに聞いてみようかな。
「で、いつまで仁王立ちしてるんスか!?」
「部長であるオレ様の勇姿を、とくとその目に焼き付けておくがいい!」
「は、はいっ」
副部長の強さもなかなか謎めいてるけど、それでも戦ってるシーンは見たことがないわけではない。ところが部長は、たった一度たりとも戦ってるシーンを見たことがないんだ。謎すぎる。
「どうぞ座ってっ。ああ荷物はこのバスケットに、はいどうぞっ」
「ありがとうございます」
何の植物なのかは俺にはよくわからないけど、薄い黄色で編み編みなバスケットを、教室で使ってるのと同型のイスの横へ、先生が持ってきてくれた。
「はい、桐峰くんも」
「あ、あざすっ」
ふたつ重ねられてあったようで、俺が入れておく分も置いてくれた。ああいやありがたいんだけど、部員がかばん入れておく棚があるんだよぉ……でもバスケットを使わせてもらおう。
今日はかばんは、交流会の会場である会議室で置いておくことになってるから、今は棚に置かれているかばんは……ふたつしかない。
中央に置かれている、この濃い目の赤茶色系木目調な机は、結構大きいもので、対戦場所をふたつ並べて作れるほど。
でも資料の棚やら先生や副部長が使う事務的な机、バックギャモン関係の道具を入れておく棚や、本棚やら重ねられたパイプ系の丸型イスなんかもこの部室内にあるから、Lボードでギャモれるのは中央の机での二組だけ、ってことになる。
一応キャンプとかで使うような、折り畳みの机もあるけど、今は出されていない。
壁には歴代この部のギャモラーたちの写真や、バックギャモン関係のイベント案内、バックギャモン用品店の価格表などが、画鋲使わなくても飾れるシール系のやつで貼られている。
他にも、カレンダーや今月の予定が書かれた大きなホワイトボード、これまた大きな黒板、もちろん時計や校内放送用のスピーカー、夏は扇風機・冬はストーブ、おっきな円形型タンクなど、お茶補給基地設備もある。
この部室棟、全部室に小型の洗面台が窓際に設置されていて、うちの部の場合は、色もデザインも様々な
様々~っていうのは、部員それぞれがひとつずつ、
紙コップとかじゃなく、重量のある湯呑なのは、対戦中にばっしゃーんでギャモンアイテムを汚さないようにするための予防。冬場も、お茶はあんまり熱すぎないように気をつけるって聞いた。
とまぁ、その辺の設備について、佐遊希から質問があれば答えて、また部室内を眺めて~ってしていたら、先生が一枚の紙っぺら。大きさはそんなに大きくないな。漢字のミニテストとかよりちょこっと大きいかな程度。
「これね、よかったら今日の感想、書いてねっ」
「はいっ」
おお、来客向けにはそういうシステムあったんかっ。
なになに、日付・名前・学校名・お気に入りの戦術・学んだこと・自由に感想……よく見たら、印刷されてるっぽいけど、手書きの文字じゃないか?
やや丸文字系。周りにはバックギャモン系の道具のイラストがちょこちょこ。
(まっ。まさかこのデザインも、副部長?!)
あの人一体どんだけ仕事抱えてんの……。
「ああでも堅苦しいのじゃないのよ、記録みたいな~記念みたいな? 瀬路さんから頼まれたのよぉ。事務的な手続きは済ませてあるから、リラックスリラックス~」
「ありがとうございます」
さすが副部長。さすが先生。
「って部長はそろそろ動かないんですかっ?!」
「む。弥生ちゃん、そろそろ行くか」
「あら、そうねぇ。瀬路さんが戻ってくるまで、桐峰くん、お留守番を頼めるかしら?」
「承知っ」
なるほど、副部長は戻ってくるんだな。
「それじゃ星川さん、桐峰くんと仲良くねっ」
「ふぁ?!」
ぁ、なんか変な声出してもーた。
「はいっ」
佐遊希も佐遊希で、そこははっきり返事したなぁおいっ。
「バックギャモン部の素晴らしさを、とくと紹介しておきたまえ」
「しょ、承知」
部長のベクトルと同じ線上にあるのかわかんないが、承知。
先生と部長が、部室を出ていった。あれ? じゃあ副部長のかばんと、もいっこはだれのだろうか? ここからじゃちょっとわかんないな。てか女子たちのかばんそんなじろじろ見たことないしなぁ。
(…………てか。てかてかてか)
静かになったこの時間差で、こ、この部室に、佐遊希と、ふ、ふたーりってことに気づいてしまったぞ!!
窓は開いてるから、遠くから部活動を勤しむ、エキストラたちの音声や効果音が聞こえはするが、でも、なんか、こう……
(そわそわっ)
佐遊希は、とりあえず感想シート? に記入を始めているようd
「ぶはっ!! それ一体いつの鉛筆だ! てかその筆箱まだ使ってたんか!!」
「えへっ」
おーおーそのアニメなキャラクターものの鉛筆よく見たわぁ。
小型で薄ピンク色ベースで、ちっちゃい赤や黄色の花柄が散りばめられてての、箱っていうかへにゃへにゃ系ペンケースって感じのやつ。
「今日はこれ、持ってきちゃったっ」
「フッフッフ……」
てへな佐遊希のこの流れ。ならばとこちらも自分のかばんから……
「召喚!」
ででんと机の上に出したのは、多機能筆箱!
「わあ~! あったねこれ~!」
佐遊希がもう鉛筆を置いて、俺の四角くて長くて分厚いフォーミュラカー筆箱を手に取った。
傷やかすれてるところも多いが、まだまだ現役ばりばりだぜ!
「開けていい?」
「とくとご覧あれ」
佐遊希のおててによりオープン。わあ~って言いながら、ボタンを押して鉛筆入れてるところが稼働して持ち上がったり、温度計を展開させたり、横から鉛筆削りを出現させたりしている。
いったん全部閉じて裏返し、裏側からも開けると、15cm定規や分度器を入れてある。そこのふたの裏に挟まれてある時間割は、母さんが書いてくれた小学一年生時のものだが。
さすがに高校生にもなってこういうタイプの筆箱を使ってるのは、俺以外に見たことないが、周りがこれを見ると、みんな現役すげーすげー言ってくれるうへへのへ。
もちろんバックギャモン部のみんなからも注目を浴びた代物。
「おあっと、お茶出せって言われてたなっ」
「ありがとう、いいの?」
「いいの。てか出してないと怒られそうだ」
さてさておちゃちゃ~っとっ。
来客用無難湯呑と無難
「
「いただきます。なんだろうねっ」
国語辞典は、本棚にはなさそうだ。バックギャモン用語辞典ならあるけど。
……で。今書ける項目は書き終えた佐遊希。筆箱タイムも終わり、また静かな部室が訪れた。
「雪くん」
「なんか八日九日十日!」
「あはっ、懐かしい~」
昔流行ったんだよ。
「雪くんは、バックギャモン部、楽しい?」
お。バックギャモン部らしいご質問。
「楽しめてるんじゃないかな? 思ってたより交流ってのが多くて、そこはちょっとびっくりだが」
「そうだよね。私のところもこの前、中学生と交流したよ」
「あーそんな予定があるってのは言ってたっけ。どうだった?」
向こうで会ってるときに、ちょろっと聞いた。
「楽しかったよ。でも私、いっぱい負けちゃったよぉ」
すまん。その肩をちょっとすくめてる感じ。風次郎とのタッグで倒したときにも披露してくれてたな。
「こっちには、中学校にバックギャモン部なんて、なかったなぁ」
「私の中学校にもなかったよ」
やはりまだまだ普及率は足りないのか?!
「佐遊希は部活、楽しめてるのか?」
俺からも聞いてみた。
「うんっ。勝負は弱いけど、いろんな人との交流がこれからもあるみたいだから、楽しみっ」
よかたいよかたい。って、改めてこっち見てきた。
(よく考えたら……近いっ)
「友達とバックギャモンをする楽しさを教えてくれたのは、雪くんだもん。雪くんには……いっぱい感謝、だねっ」
ぐはあっ……俺の弱点耐性、星川佐遊希だっつーのに、その強烈な一撃は…………くはっ。
「ど、どういたまして」
「いたまして?」
「どういたしまして」
「あはっ、ふふっ」
なんか俺も、佐遊希と一緒の学校だったらえがったな感、増えてきたやも。
と、ここでドアノブを操作する音が。
俺たちが部室のドアの方向へ振り向くと、ドアを開けて登場したのは、あれ、副部長じゃなくて陽和だ。
「あっ……おはようございます」
佐遊希はすぐさま立って、
「おはようございます。受け入れてくださり、ありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
……逆に考えよう。副部長が家では『てゆーかーマヂ
陽和も夏服仕様の長そでカッターシャツ装備。髪は最近、ひとつ後ろにくくって来ている。それも夏仕様なんだろうか?
「よろしくお願いします……」
ってやり取りの間、ずっとドアノブさん握られっぱなし。しばし静かな時間。視線の電撃ばちばちとかは一切ない。
「入らないの?」
という声は、副部長だ。二人で戻ってきたということか。
「あ、すいません、入ります」
陽和と副部長が、部室に入ってきた。
「ここが私たちのバックギャモン部の部室よ」
副部長が陽和の前に出て、佐遊希に聞いてきた。陽和は自分のかばんを取ったようだ。それ陽和のだったのか。
「すてきな部室だと思います。この様子を先生に伝えようと思います」
ホメッホメ。
「ありがとう。でもちょっと狭くない?」
副部長は俺たちの横を通り過ぎながらおしゃべり。あれ、陽和またかばん棚に戻したぞ?
「全員が集まると、狭いのですか?」
陽和も頭を少し下げながら横を通り過ぎ~って、そうか戸締りかっ。
「ちょっと狭いわね。でも部員が少ないよりかは、狭い方がもちろんいいわ」
二人が向こう向いているすきに、佐遊希にお茶飲み干せアピールをした。うんうんうなずいて、残りちょっとだったお茶をすぐに飲み干した。
俺はすぐにその湯呑と茶托を受け取り
(佐遊希が飲んだやつ……)
なんか一瞬思考が停止していたが、それを持って洗面台のところへ。
「私のところは八人で、三年生が引退すると、五人になっちゃうんです」
引退、かあ……て、この湯呑。持ってきたはいいが、洗うの、俺……だよな?
(ゆ、湯呑と茶托洗うだけだぜ?!)
「五人は少ないわね。来年たくさん入ってもらえるように、頑張ってね」
「はいっ」
スポンジをほんのちょこっと洗剤つけて、あわあわにして……いざっ。
「陽和ちゃんたちも、頑張ってね」
そっか。副部長も引退が近いもんな。
文化部は、秋にある文化祭で引退する部もあれば、夏の大会で引退する部もあるらしく、バックギャモン部は夏で引退らしい。
「……七恵先輩、もっと教えてほしいです」
蛇口から排水口へと流れていく水の音が聞こえながらも、そのセリフに陽和の内に秘めたる闘志を強く感じた。
「……ここだけの話、するわね。みんなには秘密よ?」
お? 秘密? 俺も対象なんだろうけど、よその学校な佐遊希も聴いてていいんだろうか?
「次の副部長は、鈴穂ちゃんを考えているのよ」
「
ぁいや、鈴穂先輩が副部長としてどうのこうのってことじゃなく、それ結構機密事項的な情報じゃね?!
洗ったから、ざる……って言い方じゃないよな、この洗ったやつを置いておくとこ。名前なんだっけこいつ……ってそんなことよりっ。
「部長は蓮太が決めて、副部長はうちが決めることになってるの。もちろん、睦音や徳真の意見も聴くけどね」
白地に赤紫色の文字で『We Love BACK GAMMON』と描かれた、手を拭くタオルがすぐ横の壁に掛けられているので、それでふきふき。
戸締り作業は完了したのか、副部長が鍵を持っている。赤いタグが付いてるやつ。陽和はまたもやかばんの方へ。
「次の部長と副部長が発表されたら、鈴穂ちゃんにもいろいろと事務作業のことを教えるけど……」
副部長は、改めて陽和を見た。かばんの近くにいる陽和は、かばんを取ろうと手を伸ばしたまま、立ち止まっている。
「陽和ちゃん。一緒にあなたにも、いろいろと教えてあげようと思っているの。どう?」
てことはつまり、二年先の人事まで見据えてんのか副部長ぉー?!
「わ、私、ですかっ……?」
「断るなら、雪之進くんでもいいけど」
「ぉ俺ぇ?!」
おいこら佐遊希、今ちょっと笑ったろ。
「……私、七恵先輩みたいに、てきぱきできません……」
うん。それは俺も無理寄りの無理。
「もちろん、無理強いはしないわ。気が向いたら、声をかけてちょうだいね」
「てだから俺ぇ?!」
佐遊希。たぶん副部長にはばれてるぞ、笑ってること。
でも陽和は一時停止のポーズから動き出し、かばんを取って、持ち手を両手で持ちながら、副部長の前まで来た。
「ほ、本当に、私……七恵先輩みたいに、なんでもできません……」
「そんなにうちって、なんでもしていた?」
「は、はいっ」
「はい」
俺も追撃しといた。きっと心の中で佐遊希もさらに追撃しているさっ。
「結構、他の人たちにも任せていたつもりよ? 一年生にルールを教えることや、質問に答えるのは睦音。戦略の解説や、黒板を使っての説明とかは徳真の出番だし。蓮太は……言うまでもないでしょう?」
広告塔兼特攻隊長。
「だれかに任せたいことは、だれかに任せちゃっていいのよ。弥生先生や、他の二年生の先輩、もちろん雪之進くんもいるし」
「やっぱ俺ぇ?!」
佐遊希のツボを、ひとつ習得しました。
「黒板で説明とか、ルール教えるのとかはまだしも、腰に手を当てて『やあやあ諸君』なんて、まっぴらごめんよ」
陽和のくすっと一緒に、俺もちょっとぷってなった。
「まだ次の部長副部長の発表もしていないから、その後にでも気が向いたら、声をかけて」
「……はいっ」
少しだけ間があったが、緊張しぃ陽和にしては、はっきりめの返事だった。
「それじゃあ、部室を出ましょう」
副部長の呼びかけに対し、俺らは移動を開……始の前に、俺の分のバスケットを、佐遊希が使ってたとこに重ねとこ。もしかしたら、佐遊希がまたここに戻ることがあったら、使うかもしれないし。
「えー本日は、お招きいただきありがとうーございます。一年生のみなさんははじめましてになりますな。わしが顧問の
会議室には、俺たちのバックギャモン部・交流会として来てくれた学校のバックギャモン部・に佐遊希も集まった。
体育会系の顧問じゃないのと思うようながたいのいい、向こうの男の顧問の先生。
そんな向こうの学校のバックギャモン部ギャモニストは、男子が十人らしい。他に女子が二人いるらしいのだが、そのうちの一人は、今日はかぜでおやすみとのこと。お大事にっ。
交流会恒例の自己紹介タイムがあったのだがっ。
「オレは二年の
身長がちょっと高いこの人が、先鋒。
「オレは
身長が俺と同じくらい? なこの人が、次鋒。
「僕は三年生の
最初の先鋒の人と同じくらいの身長なこの人が、中堅。
「僕は
もう少し身長が高いこの人が、副将。
「ども、三年生の
副将と同じくらいの身長のこの人が、大将。
今日は実践形式で戦うことになっていて、俺は次鋒で組まれている。
大会では、届出した順番を、止むを得ない事情以外では、連戦中での変更が認められない。
例えば、一回戦を中堅で勝ったら、二回戦は副将の人からスタートする。相手も相手で一回戦を決着させた人の次の人が、二回戦で最初に戦ってくる。
ということで、今回もそれを想定して、順番はお互いのチームが事前に決めており、チーム全員がダイスを振って出た数値のうち、最も大きかった人が一発目の勝負に出る、っていうことになった。
バックギャモンでのポイントマッチは、1ポイントや2ポイントとかのじわじわ点数を積み重ねていくこともあれば、8ポイントくらい一気にどかーんと入るときもあるので、早く決着がつくのかどうかは本当にわからない。
なお、こちらのオーダーはこんな感じ。
先鋒:三年 蓮太先輩
次鋒:一年 俺
中堅:二年 昇先輩
副将:一年 湧典
大将:二年 海斗先輩
……そう。もう一度、確認のため言うが……先鋒は、我らが部長、蓮太先輩である。
いやまぁ男子団体戦のメンバーが、三年生の先輩による会議や、面談みたいなのを経て決まってさ。そして蓮太先輩自身によるオーダー発表がされたとき『やはり部長たるオレ様が先陣切って、ポイントを先に奪うのは、当然の責務だろう!』とかなんとか言ってたけど…………
(……なるほど。これはまさしく、部の
そして最大の注目ポイント。あの部長の戦闘シーンを、ついに拝見できることである。
他のボードゲーム部との交流や、佐遊希んとこの交流会でも本のところにいて、向こうの人としゃべりはしていたが、戦闘はせず。
副部長も、部長の棋譜は部長の許可が下りないと見せられないとのことで、棋譜すらも謎のヴェールまみれ。
そして、チームの第一戦闘者を決めるダイス振りでも、部長が合計値11をたたき出し、こちらはオーダーどおりの順番で戦うことになった。
てか向こうも先鋒からかーいって、ちょっとわははと会場が盛り上がった。これもまたバックギャモンのいいところさっ。
「なぁ雪之進。部長、マジで戦うんか?」
風次郎が、少し俺に寄って聞いてきた。
「
わかる。わかるぜ風次郎。そりゃ目をいつもより開いちゃうよな。
「先輩、マジで部長戦うんスか?」
俺に聞いてきたのに、今度は睦音先輩にも聞いてる。
普通なら、さっき俺に聞いてきたやないかーいとツッコミを入れる場面だが、さすがにこれは別格だろう。
「本人は、やる気充分のようね」
向こうの学校が、Lボードよりもさらに少し大きいギャモンボードを持ってきてくれたので、それを会議室用の長机をふたつ並べたところに置かれている。
外側は黒色ながら、内側は黄色い生地に白と黒のポイントだ。
その対戦者席に、あの部長が座っている。てか戦いのシーンどころか、対戦者席に座っているシーンも、見るの初なんじゃ。
「見てなさい。三年生が三人いて、部長がなぜ蓮太なのか。たったこの一勝負だけで、よくわかるはずよ」
睦音先輩は、優雅さの中にもかっこよさを混じえながら、バトルフィールドを眺めつつ、そう言ってくれた。
「おー蓮太先輩座ってるとこ久々だねぇ~」
「前の交流会では、戦ってなかったな」
「くぅー! オレも蓮太先輩みたいに、かっこよくなりてぇーぜぇー!」
「おいら、どうやったら先輩に勝てんだぁ……?」
二年生勢も注目。棋譜係もお互いの学校から一人ずつ座ってる。もちろんこちらは副部長。
徳真先輩は、あえて敵側の位置から腕を組んで立ち見。基本的に、対局のじゃまにならなければ、どこから見てもいいことになってる。
「ひよちゃん、もうちょっと前で見よーよ!」
いつの間にか、淋は陽和をひよちゃん呼びにしていた。
(そういや交流会のとき、佐遊希も横の友達からさゆちゃん呼びされてたな)
さゆちゃん………………お、俺はまだいいかな。うん。
「えっ? い、いいのかな……」
「ほらいこいこっ! 眞央もほらほら!」
「えあぼ僕もっ!? ちょ、引っ張っ」
あ、陽和と眞央が、淋に連れ去られた。
「部長って、どんくらい強いんスか?」
湧典が睦音先輩に聞いたみたいだ。
「この部で彼に勝てるのは、だれもいない。そのくらい強いわ」
「どしぇ~!」
似たセリフを俺も前に聴いた。ごくり。佐遊希見てみよ。ボード見てる。俺もボード見よ。
一際大きいよろしくな! が会議室に響き渡り、ダイスカップに入れられしダイスによるカコカコが鳴り響き、そしてオープニングロール。
2・4で部長からだ。そのダイスの目を見るやいなや、迷うことなく動かされた、前線の2駒。いきなり敵の復活ポイントの占拠を追加。
自信あふれまくりの手さばきで、ダイスを回収。今回は試合を意識されているので、制限時間もあるため、対局時計を押す動作も追加される。
こちらが対局時計を押すと、向こうの針が動き出し、向こうが押すとこっちが動き~っていうやつ。将棋とかで見かけるあれ。
表情は……いつもの先輩っぽく見える。そのまっすぐな眼差しももちろん。
敵復活拠点占拠に向けての準備の進め方。的確な攻撃のタイミング。敵が復活できたときには、不思議と再び防御能力が構築されている。俺が見てもわかるくらい有利な状況でも、あえてダブリングキューブは使わず、ギャモン勝ちで2点をもぎとる。
俺らが一年生同士でやってるときや、睦音先輩とかに教えてもらいながらやってるときと、同じボードゲームとは思えないくらい、恐ろしいスピードで勝負は展開。
ありがとな! の声と表情は、確かにいつもの部長だ。
(だが……)
……圧倒的だった。圧倒的すぎた。ギャラリーも、全体的には割と盛り上がりはしているが、俺ら、特に一年生軍団は、その圧倒的すぎる力に……こう…………
「ぶ……部、長……」
「マジかよおぉ……」
風次郎も湧典も、そして俺も。同じような表情だろう。
「雪之進くん。頑張りなさい。すでに2点のアドバンテージがあるわ」
おあっと! そうだ次鋒俺だ!
「い、いってきますっ」
みんなから頑張れーいってこーいやれやれーな応援を受けた。そして、席を立った部長からも、
(うおっ)
俺の右肩に手をがしっ! と置かれ、
「オレ様の
あ、部長です。うん。間違いなく、俺たちのバックギャモン部の部長は、仁越蓮太先輩です。
「……承知っ!!」
本日一番の気合を、部長に見せてやる!!
短編77‐2話 数ある盤賽友愛! ~よろしくと団体ギャモろうぜ~ 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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