第13話 結成されたハーレムパーティの最悪な空気感

 糞。糞。糞。

 なんでこう上手くいかない。城の空気がひたすら悪い。俺の評判は再び地に落ちていた。確かにメンバーをチェンジして進行の効率は落ちた。それは大剣士ハンナ、僧侶カリーナの進度が俺たちに比べてまだ低いからだ。だから浅い地点から潜り直さなければならない。

 最初はそう思っていた。確かに進度の問題もあったのだろう。

 いや、考えてもしかたない。ダンジョンの攻略深度を従前に戻せばこんな悪評なんてどうとでも吹き飛ばせる。だってそれまで、順調に俺の評判は回復していたんだから。


「マリー、今日も綺麗だよ。早く良くなってね」

「はい、ウォルター様のご無事をお祈りしております」


 王子様らしい表情でそう言って扉を閉める。

 モブ女の反応はいつもと同じでつまらない。どうせ中身は何も考えていないのだろう。主人公なんてプレイヤーがいない限りただのメタ、むしろ個性なんかあっちゃ駄目なんだから。


 朝にマリオンと挨拶を終えたら俺はダンジョンに潜る。けれどもパーティはギスギスしていた。

 俺がハンナとカリーナに会いに行ったその翌日。ダンジョン前にアレクとソルの2人は現れず、パーティーから離脱するという伝言を携えた使者が待っていた。使者を問い詰めても、ただ伝言を預かっただけだと言われて埒があかない。

 急いで2人の宿に向かったが、俺が第一王子であると言っても約束がない方に取り次げないと取り合ってももらえなかった。

 誰かが垂れ込んだのかと思ってギルド職員を問い詰めたが、誰も勤務中に抜け出していないと言い張った。証明書も提出された。酒場で飲んでいた男たちかと思ったが、アレクとソルがあの下品な男たちと親交があるとも思えないしあの男たちがアレクとソルにわざわざ連絡をとるとも思えない。

 けれども流石に魔法使いと2人じゃダンジョン攻略は不可能だ。仕方がないからハンナとカリーナをパーティメンバーに加えよう、そうザビーネを説得した。ザビーネとしても攻略ができないのであれば話にならないだろう。だから渋々といった感じで了承した。


 結論から言うと、新パーティはうまく行かなかった。

 カリーナとハンナ、それから俺とザビーネでは価値観のずれが顕著すぎたのだ。

 そもそもだ。出会いから失敗していた。

 カリーナとハンナが住む場所は冒険者用のアパートメントだった。複数の冒険を生業とする者たちが共同生活を送っている。訪れたその建物は妙に薄汚れ、全体的に掃除も満足に行われていないのではないかと思われた。


「あなた方が『月下の花』を欲しがっていると噂を聞いた。今もそうだろうか」

「そうだが……」

「俺なら入手できる」


 初めて出会った2人は胡乱げに俺を見た。この時点でゲームでの加入イベントとずれが生じている。

 ゲームでは確か20階層を超えたタイミングで主人公が酒場で2人と偶然出会い、『月下の花』を探しているという話になる。『月下の花』を手に入れてくるという主人公に2人は半信半疑だったけれども、手に入れられたら協力すると約束して別れる。その後にイベントを進めなければ、二人とは再び出会うこともなくそのままだ。


 そして俺はもう、イベントを進めるより方法はなかった。

 ザビーネは直接何も言わなかったが、その表情から難色を示しているのは理解している。けれどもそれじゃあ、それじゃあ一体どうすればいいっていうんだよ。2人で攻略できるはずがない。

 俺たちは『月下の花』を携えて再び2人のアパートに挑んだ。

 イベントとしては簡単なものだった。『月下の花』を渡してパーティ加入を求める。けれどもそれはゲーム中のイベント進行とは雲泥の差だった。


「ありがとう。これで友人が助かる」

「報酬はどのようにすればよろしいでしょうか」

「2人の腕を見込んで俺のパーティに加入してほしい」

「加入、ですか」


 2人は困惑の視線を俺に送る。何か不自然だっただろうか。イベントとしてはこれで申し分はないはずだ。


「俺たちは30階層まで進んでいる。君たちより多分先だ。だから君たちの20階層まで戻って攻略をし直すつもりだ」

「それは……結構ですが……。では契約書の作成にギルドに向かいましょう」

「契約書?」

「ええ。あなたが私を雇うのであればその雇用条件を明確にしなければなりません。取り分については通常より低くても結構です」


 契約書?

 何をいっているんだ?

 これまでパーティを組むにあたって契約書など作成したことはなかった。今世で主人公とパーティーを組むときもだ。契約書?

 状況が飲み込めないままギルドに向かい、再び冷たい視線が突き刺さる。酒場で飲んでいた者たちのうち、女冒険者がカリーナに走りより、何事かを耳打ちした途端、2人は顔色を変えた。騙されてるの、とか弱みを握られているの、とかそんな声が聞こえる。

 反論しようとしてザビーネに止められた。何故だ⁉

 そうこうしているうちにギルド職員が現れ会議室に誘われる。

 どうしたらよいのかさっぱりわからないうちに、ザビーネと2人がそれぞれギルド職員に希望する内容を話し、いつのまにやら作成された契約書に俺はサインをした。これで契約が成り立ったから明日から同じダンジョンに潜ることになる、そうだ。

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