ママ特性 シンプルプルプルプリン
琥珀 忘私
私のおやつ
壁にもたれかかっている柱時計が15時を知らせるチャイムを鳴らした。
15時は私の一番好きな時間だ。なぜなら、
「おやつー、おやつー、おやつのじかんー♪」
今日のおやつは、お母さんの作ってくれたプリン。私の大好物だ。
私は冷蔵庫を開き、プリンを取り出そうとした。……が、できなかった。冷蔵庫の中にプリンが入っていなかったからだ。
「なんで!? どうして!?」
あまりのことに私は冷蔵庫の扉を開けたまま、床へと座り込んでしまった。
私の声が聞こえたのか、お母さんが着物の裾をたくし上げ、急いでキッチンの中に入って来た。
「どうしたの? さっちゃん」
さっちゃんというのは私、滝本 さつきのことだ。お母さんとお父さんは私のことを小さい頃から「さっちゃん、さっちゃん」と呼んでいて、高校三年生になった今でもその呼び方で私のことを呼んでくる。いつもならここで「もう、さっちゃんって呼ぶのやめてよ~」と、反発するのだが、今はそれどころではない。私の大事なプリンちゃんが無くなってしまったのだから!
「わた、わわわわ私のぷ、プリンがががが……」
動揺しすぎてうまく口が回らない。しかし、私が何を言ったか分かったらしいお母さんは冷蔵庫の中を見て、
「あらやだ、私ったらうっかりプリンを作り忘れちゃったのね。ごめんねさっちゃん」
(……へ?)
ぽかんと口を開けている私に、「てへっ」と舌を出して謝ってくる母にイラ立ちを覚えた。それも過去最高の。
私の怒っている顔を見て、
「すぐ作るから待っててねー」
と、お母さんは急いでプリンを作る支度を始めた。
私はリビングにある椅子に座って、料理をしているお母さんをじっと見つめた。はじめは、プリン作りから逃げないように見張っている警察官のような感じで見つめていた。
だが、いつの間にか私は一人の娘としてお母さんの姿を目に焼き付けていた。料理している姿には、さっきまでのおちゃらけた雰囲気は一切ない。お姫様である私に美味しいプリンを食べさせるために一生懸命になっている宮廷料理人のような顔つきになっている。
お母さんの作るプリンはいたってシンプルなものだが、高級店で出されているようなプリント一切遜色がない。なんなら、それ以上に感じる。それだけお母さんのプリンは最強なのだ。
そんなことを考えていると、いつの間にか甘いカラメルのにおいが私のもとまで届いてきた。
「もう少しでできるわよー」
その言葉に私は胸を躍らせた。
「はい、お待たせいたしました。こちら「ママ特性 シンプルプルプルプリン」になります」
そういわれて私の前に置かれたプリンは、いつも以上にきらきら輝いて見えた。
やさしい黄色っぽい色の富士山に、溶けた雪のようにかけられたカラメル。
「おいしそう……」
「おいしそうじゃなくて、おいしいのよ!」
「知ってる!」
出来立てのプリンが出てきた時のいつものやり取りだ。
「いただきまーす!」
ママ特性 シンプルプルプルプリン 琥珀 忘私 @kohaku_kun
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