高校生は秘密を抱える。

真夜依

衝撃は突然に




おい待て今なんつった?













早坂美香は混乱していた。


それは、1人の教師の発言がきっかけだった。


私はごくごく普通の高校生。物語で言えばモブ。勉強も運動も平均、クラスでもあまり目立つ方ではない、ただのアニメや漫画を愛するオタクだ。

今は現代文の授業中だが、睡魔が襲ってきていた。授業中に寝るのは良くない。そんなことは知っているが、昨日は私の愛する作品の最終回をリアタイしなくてはならなかったのだ。必死に板書をしながら意識を保っていた。

しかし、結局は睡魔には抗えず、先生の声も遠くに聞こえるBGMとなっていた。

そう。だから、なぜそういう話の流れになったのかは全く分からない。

だが、私は確かに聞いたのだ、


「まぁ俺ってアニオタだしなぁ」


という声を。

あの人が自分のことを指して言った言葉。

眠気を誘う声に定評があり、性格は真面目。趣味を聞けば読書と答え、オススメを聞かれれば高校生が読むにはレベルの高い本ばかりを勧めてくるあの堅物現代文教師、が。本の虫として有名な羽山先生が自分を「アニオタ」と!!

正直、その近寄りがたい感じから苦手意識を持っていた先生がまさかの同志かもしれないだと!?

いや、でも待て……少し冷静になるのだ、私。先生がどの程度のアニメ好きかなんて分からないではないか。

私は一応隠れオタクだ。世の中のオタクに対する目が優しくなってきたと言っても、平凡な学校生活のために隠すべきなのがアニメ漫画オタクだと私は考える。

何より、私の周りには趣味を理解してくれそうな人はほぼいないし……。

ほら、現にクラスがざわついている。

このクラスではオタクはあまりいい印象を持たれないらしい。

そんな考えを巡らせていると……「えーじゃあ先生何見てんのー?」と、ある男子が問いかけた。

……先生答えるのか?普段は雑談なんてロクにしない先生のことだ。「話が逸れた。授業に戻る」とか言いそうだな。


「今期かー?今期だと『〇〇〇〇』が結構気に入ってるな」


……おいそれマイナーな深夜アニメじゃないか?ライトノベルが原作の作品!!

いつも難しい本の題名しか発さないあの口から私のお気に入りの作品の名前が飛び出してきたのだが?

いや、クラスのみんなのが「ぽかーん」としてますけど!?そりゃそうだよね、夜遅くにやってるアニメだしね、認知度あまりなくてもしょうがないか……。

危ない危ないあやうく反応してしまうところだった……。

でも先生どうしたんだ?急にそんなこと言い出すなんて……。今まで隠してたのではないの?



「先生、それ好きなら『△△△△』も見たことある?」



えーっと、すいません。

今、またマイナーなアニメの名前が飛び出しましたが、誰が言ったんだ……?

このクラスにアニメ好きが存在した?私と同じで隠れオタクがいるのか……!いったい誰!?

ゆっくり私が振り返るとそこには「仲間見つけたかも!!」みたいなキラキラした顔して質問の答えを待つ委員長の姿が……。





いいんちょーのすがたが……。





……委員長!?





あの真面目で休み時間は難しい小説を読むばかりで、絶対私とは趣味合わなそうって思ってたあの合田くん!?

え、なになになに私の周りには2人も隠れオタクがいたの????

しかも2人とも小説大好き設定はアニオタ隠すための盾だったの?

何がどうなってんのー!?


「あれか、もちろん『履修』済みだ」

いや、先生さりげなくオタク用語使ってるし!!「履修」ってパッと出てくる言葉じゃないから!!普段からオタク用語使い慣れてるな!?

「さすが先生。素晴らしいです」

「この作品の素晴らしいところはだなぁ」

いや、なんか先生と委員長の間に絆生まれてない!?めっちゃ語り始めたんだけど。

他のクラスメイトみんな着いて行けてないけど大丈夫なの!?何がどうなったらこうなるのよ!!!!


「お、なんだ早坂さんも仲間か?」

「へ?」

「みんなが理解不能って顔してる中、1人だけ違う顔をしてたからな。俺が深夜アニメを知ってることにびっくりしてるって感じだったし」

「え!?そうなの早坂さん!!」

「え、いや、わ、私は違います!!」

「隠さなくてもいいだろう」

「そうだよ、語ろうよ!」



っっ!!

なんで私までオタバレするのよーーーー!?








 





















ハッ!!!!!!!!!!!!

















目の前に広がるのは……私の部屋……?

びっくりしたー、夢か。……そうだよね、あの2人がアニメ好きなわけないし。

授業中にオタバレするなんてそれこそアニメじゃあるまい。なんか朝から気分微妙だなー。

よし!さっさと準備してアニメ見てから出かけよう!!

























……その日の現代文の授業中、話し合い活動の最中に週末に見てきたアニメ映画のことを話始めた男子たちに先生が「授業中に私語はするな」と注意。それに逆ギレした男子が「小説しか読まねー先生がアニメのこと分からないだろう!!」という少しズレた返答をした。

すると……

「たしかに俺は小説を好む。だがなアニメだって見るし、愛してるぞ?」

ん?ちょい待て……うそだろ……
















「それに言っちゃえば……『俺ってアニオタだしなぁ』」








「あーーーーーー!!!!!!!」

こうして先生の衝撃のアニオタ宣言は、私の絶叫によってかき消されましたとさ。




「ん?どしたんだ早坂?突然叫んだりして?」




あんたのせいだよ!!!!

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