4.妹は奮闘する

「どうしたの、シャーリー?」


「た、た、大変だわ。あ、悪魔がいるわ!」


「え?あ、悪魔?」


 悪女に悪魔も出て来るなんてどんな物語なのかしら?

 あとで私も読んでみましょう。


 さほど驚かずに妹の指さす方におっとりと振り向いたリリーベルは、そこにいつも通り優しく微笑むジークハルトを見て取った。


「まぁ、うふふ。ジークさまは悪魔役でしたのね?」


「や、役じゃないのよ。本当に──っ!」


 妹に向き直ったリリーベルは聖女の如く麗しい微笑みを浮かべ、妹シャーリー小さな手を取った。


「駄目よ、シャーリー。淑女のお勉強で習ったでしょう?人を指さしてはいけないわ」


「は、はい。でもぉ」


「うふふ。怒ってはいないのよ。これからは気を付けましょうね」


 涙目で頷いたシャーリーは、我慢ならないと姉に抱き着いた。


「まぁまぁ、どうしたのかしら?今日は甘えん坊さんね。眠たくなってきたのかしら?」


「そんなことありませんわ!私はもうお昼寝をするような子どもではありませんもの!」


 覚えたての淑女言葉を駆使して宣言したシャーリーは、そう言いながらも姉の温もりといい香りに包まれてうとうとと瞼が落ちていく。

 しかし悪魔の声がシャーリーを幸福な眠りの淵から引きずり上げた。


「ふぅん。この本は誰が与えたのかな、アルマ?」


「シャーリーお嬢さまがお友だちのご令嬢からお借りしたものにございます。そちらのご領地の庶民の間で流行っているそうです」


「そう。それは交友関係を見直さないといけないね。お友だち選びもシャーリーが立派な淑女になるためには大事なことだ」


 一気に目が覚めたシャーリーは、姉の胸に頬ずりしながら叫ぶ。

 姉にくっ付いているシャーリーには怖いものがなくなるのだ。

 それがむしろ逆効果になることも知らず……。


「レイラは私の大事なお友だちですわ!文通もしておりますのよ!」




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