僕は、君に。
@satsukixi
第1話 美しい人
ある日、間に合うかどうかも分からないギリギリの時間に起きて、すぐに家を出て仕事先の本屋に向かい、いつもどおり僕はテンション下がり気味に働いていた。ああ、今日もこのように意味のないことをして時間が過ぎていくんだな、でもこの仕事を辞めたからといってやりたいことや夢、希望も特に見つからない。段ボールにぎっしり詰め込まれた本の分類をしながら僕はそう思った。「あの、すみません。」若い女性の声だ。「この作家さんのこの本はありますか。」手に持っていたスマホの画面を見せてきた。僕は作業をしていた手を止め、そのスマホの画面を見て「ああ、この本は…」と、女性の方に目線を移すと、僕の中ではっ、と時が止まったような気がした。何故なら、その女性は絹糸のように艶やかで真っ直ぐな長い黒髪、雪のように神々しく陶器のように白い肌、ほんのりと桃色がかった可愛らしい頬、あまり主張することのない人形のようないじらしい唇。そして、どこか儚げで憂いを帯びた、黒いけれど澄んでいる悩ましげな瞳。まるで物語やアニメから出てきたかのような美しい人。そう、この女性は僕が思い描いていた理想の人、まさに女神だった。目が合って三秒もしないうちに、僕は名前も知らない初めて会った人に心を奪われた。おそらく、それはひとめぼれをした、恋をした、そういう類のものなのだろう。とりあえず今はこの美しい女性が探している本の場所を教えなければならない。女性が探しているこの本は喜劇系の恋愛小説だから、向こうのコーナーに置いてあっただろうと、女性に案内をした。「こちらのコーナーです。」と僕は緊張しながらも笑顔と平常心を保ちながら言った。女性は嬉しそうに「ありがとうございます。」と可愛らしい笑顔で言った。その笑顔を見たとき、僕の鼓動が早くなるのを感じ、頭が真っ白になるぐらいの幸福感に満たされた。その後女性はあまり悩むことなく、探していた本を手に取り会計を済ましてすぐに帰って行ってしまったが、僕はその女性のことを忘れることができなかった。
そう、この日から僕の生きる意味がその女性になっていったのだから。
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