第五章 ~『シンと温泉』~
シャムニアを倒し、転移魔術を習得したアリアは、さっそく、その効果を確認していた。
(できることは二つみたいですね)
一つは視界のどこかに移動できる短距離転移だ。シャムニアがギンの背後に回り込んだのもこの力だ。
もう一つは登録しておいた場所に移動する遠距離転移だ。予めスポット登録をしておかないと転移できないが、それでも十分すぎるほど汎用性の高い能力だった。
アリアは再び温泉に戻る。周囲は月灯りが照らすのみで、森も静かになっていた。
(これでスポット登録は完了ですね。あとは屋敷さえ登録すれば、いつでも温泉に浸かりたい放題です♪)
これからの毎日を想像しながら、アリアは屋敷に引き返そうとする。そんな時である。湯気の向こう側で人影が動くのが見えたのだ。
「誰かいるのですか?」
問いかけると、影は大きく反応し、近づいてくる。その正体はこの温泉の存在を知るもう一人の人物――シンだった。湯気と温泉で身体は隠れているが、それでも鍛え抜かれていることが分かるほどに筋肉が隆起していた。
「その声はやっぱり師匠だったね」
「シン様がどうしてここに⁉」
「一日の疲れを癒すために温泉に入りたくてね。お忍びでやってきたんだ。師匠も同じかな?」
「まぁ、私も似たようなものですね」
これだけ立派な温泉だ。さすがのシンも我慢できなかったのだと知り、微笑ましく思う。
「でも本当の目的を果たせなかったのが心残りだよ」
「目的ですか?」
「シャムニアの討伐さ。そのために夜の森にやってきたんだ」
「それなら私が倒しましたよ」
「師匠がかい⁉」
「つい先ほどのことです」
「さすが師匠だ。頭が上がらないよ」
シンが成果を称えてくれる。これだけでシャムニアを討伐した甲斐があった。
「シャムニアさえいなければ森の開拓を再開できる。安全に仕事ができることに、きっと皆も喜ぶよ」
「ふふ、役に立てたようで嬉しいです」
「やっぱり師匠は頼りになる……このまま私の傍に居続けて欲しいと願うほどにね」
「いますよ。少なくとも私はそのつもりです」
「ただ師匠もいずれ誰かと結婚するだろ。それが王国の人間なら、皇国を去ることになる。もし離れ離れになったらと思うと怖くてね」
シンの元で世話になり始めてから、月日が経過した。二人は互いを家族と認め合っている。だからこそ無意識の内に傍から消えることに怯えていたのだ。
だがアリアは首を横に振った。
「結婚なんてしませんよ。だって私、いまとっても幸せですから」
アリアは上空を見上げて、そう答える。
暗闇を照らしていた月は満月だった。彼女は真っ暗なブラック職場に戻るつもりはない。スローライフを満喫しながら、幸せに過ごすのだと、シンに想いを伝えるのだった。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
五章完結です!!第六章を書き貯めてますので、少々お待ちください
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