第四章 ~『貴様のせい』~


 グリフォンの討伐に成功したアリアたちは冒険者組合へと向かう。シンの陣営が勝利したことは間違いないため、足取りも軽い。


(ふふ、私たちはランクCの魔物を二体討伐していますが、バージル様は一体だけですからね♪)


 ランキング表が更新されるのが楽しみだと、冒険者組合を訪れる。皇子たちの競争が最終日だと知っているのか、いつもより多くの人が集まっていた。


「君たちも来たようだね」

「バージル様……」


 彼は余裕の笑みを浮かべながら、受付嬢に魔石を渡していた。カウンターに積まれた魔石の山が目に入り、その中でも黒鉄色の魔石に視線が釘付けになる。


「その魔石はまさか……」

「気づいたようだね。これはアイアンスライムの魔石さ」

「まさか二体目を倒したのですか⁉」


 アリアたちが発見できなかった魔物を、彼は探し出したのだ。確実な勝利のはずが、勝負の行方が怪しくなる。


「これで僕らはランクCの魔物を二体討伐した実績になる。諦める気になったかい?」

「まさか。私たちも実績なら負けませんから」


 アリアはカウンターに薄茶色の魔石を置く。大粒の魔石を目にし、バージルは驚きで瞼を大きく開く。


「まさかグリフォンを倒したのか⁉」


 バージルの表情から余裕が消える。彼も互いの実績が五分の状況だと認識したのだ。


「二つの陣営の結果が出たわ」


 魔石の鑑定を終えた受付嬢がランキング表を更新する。緊張で空気が重くなったのを感じ、ゴクリと息を飲む。


「二陣営の差はほんの僅かだったわ。どちらが勝っても不思議ではない闘いだった……でも、グリフォンの討伐ポイントが大きかったわね」

「つまりは⁉」

「第八皇子陣営、つまりはあなたの勝ちよ」

「やりましたね、シン様!」

「ああ、夢のようだ!」


 勝者は歓喜し、敗者は落胆する。シンやカイトは互いの健闘を称える一方で、バージルは肩を落としていた。


(バージル様は可哀想ですが、勝負は残酷ですからね)


 敗者に慰めの言葉はいらない。彼は落胆した表情のまま立ち去ろうとするが、そんな彼を呼び止めるように、扉が勢いよく開かれた。


「その勝負、このハインリヒ公爵を待ってもらおうか!」


 自信に満ち溢れたハインリヒ公爵が、鼻息を荒くして近づいてくる。その顔はアリアを王宮から追放した時と同じで悪意に満ちている。


「絶望しろ、アリア。この勝負、貴様のせいで負けるのだ」


 ハインリヒ公爵は逆転の切札を用意していた。それを提示すべく、声を荒げるのだった。

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