第四章 ~『超えられたランキング』~
翌日、アリアは魔物狩りを継続していた。バージルが逆転すると宣言した以上、必ず何か手を打ってくることは間違いないからだ。
(不安を解消するためには行動あるのみですからね)
夕日が差し込む石畳の道を歩きながら、アリアは手の平に乗った魔石を確認する。ランクDの魔物中心だ。そこにランクCの魔石はない。
(アイアンスライムなら倒せると思いますが、居場所が分かりませんからね)
昨日、討伐した個体は、カイトたちが事前に生息範囲を探り、その周辺で囮役が誘い出すことにより発見することができた。
だが今は一次調査の段階で手掛かりを得られていない。カイトたちが情報を探ってくれているが、締め切りまで間に合うかどうかは賭けになる。
(だから一体でも多くランクDの魔物を討伐しておかないとですね)
塵も積もれば山となる。立ち止まっている暇はないのだ。
アリアは焦るように早足で進み、冒険者組合に辿り着く。いつものように受付嬢が歓迎してくれる。
カウンターの上に魔石を並べると、ルーペでチェックを始める。すべての確認を終えると、少し残念そうに眉尻を下ろした。
「今回はランクCがないのね」
「発見できなかったんです」
「それは残念ね……言いにくいけど、あなたのランキングは二位に落ちているわ」
「え⁉」
受付嬢が提示してくれたリストの一位には、再びバージルの名前が記されていた。彼は宣言した通り、逆転の手を打ったのである。
「でもどうやって……」
ランクDの魔物を狩るだけでは一日で逆転されるはずがない。ランクCの魔物を討伐したのは間違いないが、その方法が分からなかった。
「説明しようか」
「バージル様!」
アリアの疑問に答えるように、柱の陰からバージルが姿を現す。彼はアリアがやってくるのを待っていたのだろう。勝ち誇った笑みを浮かべている。
「最初に伝えておく。僕が倒したのはアイアンスライムだ」
「で、ですが、バージル様との相性は最悪のはずです」
鏡に映すよりも前に逃げられてしまうため、超スピードを持つアイアンスライムに彼の魔術は通じないはずだった。
「簡単さ。僕はリスクを取ることにしたのさ」
「まさか……魔物の森に同行したのですか?」
「ご明察。鏡で映せないほど速い敵なら、直接目視で視認すればいい。安全圏に引きこもるのを止めたことで討伐を果たしたのさ」
今までのバージルはリスクなしでもランキング一位の座を維持できた。しかしアリアに順位を抜かれたことで外壁の外に出る覚悟を決めたのだ。
(きっとアイアンスライムの生息地も、もしもの時のために把握していたのでしょうね)
バージルには長い討伐で積み重ねた情報の蓄積がある。情報戦では彼の方が一枚上手だと認めるしかなかった。
「これで勝負はついた。君も諦める気になったかい?」
「まだ決着まで時間があります。私は最後まで戦いますから」
諦めたらそこですべてが終わる。心が折れない限り、まだチャンスは巡ってくると信じていた。
「さすが僕のお気に入りだ。君のような味方がいてシンが羨ましいよ」
「弟子のために努力するのも師匠の務めですから♪」
世話になったシンの助けになれるなら、努力も苦にはならない。むしろ、やりがいに繋がっているとさえ感じられた。
「ふふ、君は本当に良い人だね」
「バージル様も十分に優しいではありませんか」
「はぁ? 僕はシンを呪っているんだよ」
「それも領地の人たちを幸せにするために仕方なくですよね……シン様にかけている呪いも時間経過と共に耐えられるくらいの威力に抑えられていましたし、本当に非情な人ならあんな風に人を呪ったりしませんから」
魔力消費量を増やせば、後遺症が残るレベルの呪いをかけることもできたはずだ。だが彼はそれをしなかったのだ。
「まぁ、弟だからね……それに傷つけることが目的ではなく、魔物討伐を阻止することが狙いだった。無駄な魔力を消費するのは勿体ないからね」
「ふふ、素直じゃありませんね」
「でも勝負に加減はしない。僕はシンに勝つ。そこに甘えは期待しないことだね」
それだけ言い残して、バージルは立ち去ってしまう。決着までの時間は残り僅か。アリアも負けるつもりはないと視線で訴えるのだった。
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