第三章 ~『ご機嫌な朝食』~


 翌朝、アリアはいつもより早い時間に目を覚ました。コカトリスの卵を食べるのが楽しみで、早起きするために就寝時刻を早めたおかげである。


(コカ様は卵をたくさん産んでくれているでしょうか)


 裏庭の小屋に向かうと、コカが嬉しそうに出迎えてくれる。


「コカ様は今日も元気ですね♪」


 この調子なら卵も期待できそうだと、産卵箱を確認する。しかし卵は一つも見つからない。


(さすがに初日から期待しすぎでしたかね)


 諦めようとした時、小屋の中が綺麗に掃除されていたことに気が付いた。


(もしかしたらカイト様が!)


 掃除のついでに、卵も回収してくれたのではと期待して食堂へ向かう。


「おはようございます、アリアさん」

「カイト様もおはようございます」


 カイトは食卓に座りながらも、空の茶碗を前にしていた。


「もしかして私を待ってくれていたのですか」

「ええ。一緒に卵を食べようと思いましたので」


 食卓の上には籠が置かれ、その中には大量の卵が詰まれていた。赤茶色の珍しい色をした卵である。


「これがコカトリスの卵ですか」


 アリアは席に着くと、さっそく小皿の上に割った卵を落とす。濃い黄身と透明度の高い白身が食欲をそそる。


「美味しそうですね~」

「特に黄身の部分は味が濃く、鮮度も高いので箸で掴むこともできるんですよ」

「あ、本当ですね」


 アリアは米櫃から茶碗に白米をよそうと、その上に黄身を乗せる。王国の食文化で育ってきたアリアにとって、生の白身はまだ抵抗があるため、ひとまず黄身からのチャレンジだ。


「では、実食といきましょう」


 箸で卵をつつくと、白米の上を黄身が広がっていく。そこに醤油を垂らしてから口の中に放り込む。


 舌の上で黄身の甘さが広がっていく。醤油もまた卵の味を引き立てていた。


「生の黄身がこれほどに美味だとは思いませんでした……それに、この醤油も卵に合います」

「帆立の成分が入った特別な醤油ですから。市場に出かけた時、たまたま買えたんです」


 きっと今朝のために、わざわざ買ってきてくれたのだ。カイトの優しさに感謝しながら、もう一口、手をつける。美味しいと、改めて実感する。


「この醤油なら、黄身を一晩漬けても美味しくなりそうですね。他にも、この濃厚な味わいならプリンにしてもよさそうです」

「プリンとは、確か王国の菓子ですよね?」

「今度作って差し上げますね」

「楽しみにしています」


 仲が深まれば深まるほど、カイトの印象が変わっていく。プリンを楽しみにする彼の笑みは少年そのものだ。いつもムスッとしていても、仲間たちから好かれているのは、皆、本当の彼を知っていたからだろう。


「師匠、今日は早いね」

「シン様!」


 食堂にシンが顔を出す。続くように他の家臣たちも現れ、騒々しくなる。


「カイトと仲良くなったみたいだね」

「ふふ、友人になりました」

「カイトは誤解されがちだけど、悪い奴じゃないからね。師匠にも良さを知って貰えて嬉しいよ」


(シン様は変わらないですね)


 シンもまた、カイトに負けず劣らず昔から優しい子だった。自慢の弟子を誇りに感じながら、家臣の皆と食卓を囲む。朝食は一人で食べるよりも何倍も美味しく感じられたのだった。

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