第二章 ~『サラマンダーとの闘い』~


 シルフの案内のおかげで、追加でハーピー三体、オークを三体倒したアリアは戦績に満足していた。


 これだけの成果を得られたのは、上空から監視することで、空を飛ぶハーピーや巨体のオークを捕捉しやすくなったからである。


 このまま順調に進めば、ランクEの魔物を十体以上討伐することも不可能ではない。そんな期待を抱いていると、シルフからの念話が届く。


『マスター、新たな敵を発見しました』

「シルフ様の近くですか?」


 魔力を供給しているおかげで、召喚獣の大まかな位置をアリアは把握できる。向かおうとした矢先、シルフが彼女の元へと戻ってきた。


『マスター、標的はこの先にいます。ですが私の能力では、接近するのは危険な魔物と判断しました』

「シルフ様の敏捷性があっても逃げられないほどの強敵ですか」


 コボルトの能力値を引き継いでいるため、オークやハーピー相手なら難なく逃げられるはずだ。


 シルフはランクEの上位に位置する力がある。それよりも上となると、可能性は唯一つ。この先にいるのはランクDの魔物だ。


「お役目、ご苦労様です。シルフ様は魔石に戻ってください」


 召喚獣は命を落とすと、魔石が消滅してしまうため、二度と呼び出すことができなくなる。折角できた相棒をこんなところで失うリスクは負えないため、一旦、魔石へと戻し、収納袋に仕舞う。


(さぁ、鬼が出るか蛇が出るかですね……)


 警戒しながら茂みを掻き分けて進むと、岩場に佇む一匹の赤い蜥蜴が目に入る。炎を自由自在に操る魔物、サラマンダーである。


(やはりランクDの魔物でしたか)


 サラマンダーはランクE以下の魔物と異なり、肉体に大きな魔力を纏っている。それだけで今までとは比較にならないほど厄介な敵だと分かる。


(ですが、魔力よりも注意すべきは魔術を使える点ですね)


 ランクDより上の魔物は例外なく魔術を習得している。魔力を消費して、奇跡を体現する魔術は、相性によっては実力差をも覆すことがある。


(シルフ様を退避させたのは正解でしたね)


 シルフは機動力が高い分、耐久力が弱い。広範囲に炎を放たれれば、丸焼きにされていただろう。


「でもギン様なら勝てますよね」


 頭を撫でてあげると、ギンは自信ありげに咆哮をあげた。それが開戦の合図となる。


「行きますよ、ギン様」


 ギンが駆けだし、アリアは魔力を集め、いつでも回復魔術を発動できる準備を整える。前衛のギンを後衛のアリアがサポートする陣形だ。


 これに対し、サラマンダーは口の中に貯めた魔力を炎に変換する。近づいてくるギンにタイミングを合わせて、迎撃するために炎を放つ。広範囲に放たれた炎はギンを包み込むが、ギンは止まらない。


「頑張ってください、ギン様!」


 ギンが炎を苦に感じていないのは、アリアが火傷を瞬時に回復魔術で癒しているからだ。これは炎と治療、どちらが優れているかの競い合いでもあった。


(ギン様を守り抜くためにも、私は絶対に負けません!)


 アリアの回復魔術の勢いは次第に強くなる。一方、サラマンダーは魔力が切れ始めたのか、炎の勢いが落ちていき、ついには止まる。


「ギン様、いまです!」


 アリアの合図に反応し、ギンがサラマンダーに飛び掛かる。魔力が枯渇したサラマンダーはもう怖くない。爪が突き刺さったことで、魔石だけを残し、魔素となって霧散した。


「やりましたね、ギン様!」


 アリアは駆け寄ると、大切な相棒をギュッと抱きしめる。頭を撫でてあげると、甘えるように頬を摺り寄せてくる。こういう反応もまた愛らしいと感じた。


「これでサラマンダーの魔石も手に入りましたね」


 大きな収穫が得られたと満足していると、遠くに煙があがっていることに気づく。


「まだサラマンダーが残っているのかもしれませんね」


 ランクDの魔物を見過ごすわけにはいかない。アリアはギンと共に、煙の発火元へと向かうのだった。

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