第15話 深きモノども
《簡易召喚》シャーク・ソード!!
サメの尾の剣で迫ってきていたノーフェイス2体を切り払う。その隣ではレミーがスネーク・ウィップで牽制していた。俺らの足元には3人の子供たちが震えながらしゃがみ込んでいる。
一方、アリアは赤い泡をいくつか飛ばす。その泡がノーフェイスに当たると爆発した。
「それ、何なんだ?」
「《海底魔法》ヴォルカニック・オーブだよ。地上だとやっぱ勝手が違うけどね」
アリアはさらに爆発する泡を飛ばす。可愛い顔して中々エグい技を使う。
だけどこれなら任せても大丈夫だろう。
「アリア! レミー! 子供たちを先に逃すから、ちょっと任せた!」
2人は頷き、ノーフェイスたちの相手を続ける。
その間に俺は魔力を練り上げる。
「フィンさん……」
「大丈夫だ。安全な所まで逃してやるから」
不安そうにしている子供たちを安心させる為に笑みを浮かべる。ちょっと引き攣ってたかもだけど。
《通常召喚》ホホジロザメ!!
空中に光の輪が現れ、サメが召喚される。
さらに、
《術式付与》風!!
これでサメは空中でも泳げるようになる。名付けてエア・シャークだ。
「みんな、このサメに乗るんだ!」
俺はポールたちがエア・シャークに乗るのを手伝った。
「フィンさんたちはどうするの!?」
ポールが怯えながらも、俺たちのことを心配してくれる。
「大丈夫だ。コイツらを蹴散らした後、すぐ逃げるよ」
「でも……」
「ポール、今お前がすべきことは、この2人を守ることだ。そうだろ? 俺たちのことは考えなくていい」
彼は後ろに乗るロイとシーラを見て、力強く頷く。
「わかった!」
「よし、じゃあ行け!」
俺の指示によってエア・シャークは飛び上がって行く。
これで子供たちは安心だ。
そう思っていたのだが……
「おいおい! 勝手にパーティを抜け出すんじゃない!」
ウィルの底意地の悪い声。
見れば、彼は小刻みに震えながら動き出していた。魔眼の効力が切れかかっている!
「そう簡単に逃すわけないだろ!」
俺はウィルに向かってシャークアローを放つ。しかし、それが届く前に彼は両手を合わせた。
「……《ダンジョン・フォールド》!!」
ウィルの中から青い光の膜が発せられ、ソレは港全体を一瞬で包み込んでしまった。
夜空が見えなくなり、代わりに青い雲が空を覆っている。
「フィンさん! 出ることができないよ!」
上空でポールの叫び声。見上げると、エア・シャークは青い膜によってその先に進むことができないようだ。
閉じ込められている。
「マズイね。これ、ターコーの魔術だよ」
アリアが呟くように言う。
「一体何が起こっていますの?」
レミーの問いかけにアリアは青い膜を指差す。
「たぶん、あのウィルってヤツはターコーの力を授けられているんだよ。そしてこれはターコーが一時的に敵を閉じ込める為に使う厄介な魔術。簡単に言えば、この港は今、トラップ・ダンジョン化しているんだよ」
俺とレミーは息を呑んだ。
一時的にとはいえ、人為的にトラップ・ダンジョンを創り出す魔術なんて初めて聞いた。
一体ターコーはどれ程の力を持っているのか?
「ルルの助けが来るはずですけども、そう簡単に行きそうにないですわね」
レミーの言葉に俺は頷く。
港の変化は空だけではなかった。
足元を見れば、いつの間にか黒く濁った海水がどこからともなく流れ込んで来ている。
それは次第に勢いを増し、太腿まで海水に浸かってしまう。
暗い海水は激しく蠢きだし、そこから全身を鱗に覆われた醜い化け物が大量に姿を現した。
「深きものども! 邪神の僕(しもべ)の半魚人たちだよ!」
アリアが叫ぶ。
数はノーフェイスよりも多いだろう。ここに来ての思わぬ敵の増援にアリアもレミーもさすがに動揺を隠せない。
「ハハハッ! どうだフィン・アルバトロスゥ! これが僕の力だ。だが、まだだぞ!」
ウィルは勝ち誇ったように言うと、身に纏っている黒衣を破り捨てた。
「よく見ろ、これが僕の全力だッ!」
ウィルの腹部が赤く膨張していく。反対に手足は縮み上がって行き、代わりに赤い巨大な触手が左右の両腕からそれぞれ2本。下半身からは4本生えている。その触手たちには白い吸盤がいくつも付いていた。
そして膨れ上がった腹部が裂けて、中からギザギザの歯が生え揃った醜い巨大な口が開いていた。獲物を求めるようにガシガシと歯を慣らしている。
体長10メートルくらいまで大きくなったウィルは俺たちを嘲るように見下ろす。
「フィン! お前が最も傷つく方法は何か考えていた」
ウィルはニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
「これだよなぁ?」
右腕の触手が伸び、空中にいるエア・シャークに巻きついた。途端に子供たちが悲鳴を上げる。
「よせッ! その子たちはもう巻き込むな!!」
触手に攻撃しようとするが、半魚人とノーフェイスたちに邪魔される。
エア・シャークは逃れようと抗うが、その拍子に一番後ろに乗っていたロイが滑って下に落ちてしまった。
ロイが落ちた辺りに次々と半魚人が群がって行く。そして二度と彼が黒い海水から姿を現すことはなかった。
「そんなああああぁぁァッ!! ロイイイイイイィィィィ!!!!」
ポールたちが絶叫する。
「てめええぇぇぇ!!」
俺は怒りのままにウィルに向かって行く。
「黙って見ていろ!」
ウィルは左側の触手で俺は吹き飛ばした。その衝撃で後方にある建物まで飛ばされて壁に激突する。
「うぐっ!!」
咄嗟に《特性召喚》鮫肌で背中を守ったが、それでも激痛が走る。
その間にエア・シャークは触手のダメージで消失し、シーラも海に落下していた。アリアとレミーは彼女を守るように半魚人やノーフェイスと戦っているが、あまりにも数が多すぎる。
そしてポールは、触手に捕らえられていた。触手はウィルの腹の巨大な口の方に向かって行く。
巨大な口は餌が来るのを待ち構えているかのように歯を何度も噛み合わせている。
「フィンさあああああんん!!」
ポールが涙を流しながら助けを求めるように手を差し出している。
このままでは、みんながヤツらの餌食になってしまう。
と、その時、どこかから声が響いてきた。
『良いのですかな?』
声は問いかける。
『このままヤツらによって罪なき者が犠牲になっても?」
そんなのダメに決まっている。
『では、貴方様にお覚悟はありますかな? 強大なる邪悪に立ち向かうお覚悟が?』
それで……
それでみんなを守ることができるのなら……
それで邪悪なる連中を打ち砕けるのなら……
俺にはその覚悟がある!!
『よろしい。閣下、貴方様のお覚悟、聞き届けましたぞ!』
頭の中で、別の大勢の声が響き出す。
【サメを讃えよ……サメを讃えよ……】
『では、呼び出されよ。真なる|シャーク軍団(われら)を!』
体内で大波の魔力が荒れ狂っている。復讐の女神と対峙した時と同じ……いや、あの時以上だ!
《極性召喚》シャーク軍団(レギオン)!!
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