第7話 モードチェンジ! 仮面舞踏会!

 変身後に降り立った戦闘フィールドは、古い歌番組のセットのようだ。中年レジ係のおばさんの青春時代に流行っていたような、手作り感満載の場所である。


 しかも厄介なことに、山本さんまで連れてこられていた。


「アヤコ、どうして山本さんまで!?」


「こんな力は知らないわ!」


 きっと、例の魔女が動いているのだろう。アヤコが知らないなら、こんな芸当ができる人は一人しかいない。


 ステージの横には、のど自慢でよく見る鐘、「チューブラーベル」がある。ジュークボックスも。


「グヘヘ! これで一〇〇点を取れなければ、元の世界には帰れないぞ!」


 そんなのでいいのか? てっきり戦うものだと思っていたが。


「ただ敵を倒しても、脱出できるわけじゃないの。相手のスタイルで戦うこともあるわ」


 戦闘空間の外から、アヤコがそう教えてくれた。


「カラオケなら、アタシ得意なんだから!」


 山本さんが、マイクをつかむ。


「ダメ! これはワナだよ!」


 きっと何か仕掛けがある。


「ちょっとなにこれ!? 知ってる曲が全然ない!」


 やはりだ。選曲の時点で迷わせるとは。カラオケのタブレットではなくジュークボックスという時点で、おかしいと思っていたのだ。


「ママが知ってる曲しかない! 歌ったことないよ……あ、でもこれなら」


 中島みゆきの曲を選ぶ。


 たしかに、いい歌だ。しかし。


 鐘は三つしかならない。


 和田アキ子や松田聖子も歌ってみるが、鐘は三つを越えない。


「どうして!? リズムもメロディも完璧なはずよ!」


「人生観が足りん! 情景が浮かばないんだよ!」


「とか言って! 絶対に難癖つけて、出させないつもりなんでしょ!?」


「は~っ。ガキはこれだから。私のハートをグッとつかんだら、ちゃんと一〇〇点出します~っ」


 憎たらしい言い方で、ライオンおばさんが反論した。


 その後も、山本さんは歌ってみる。


 しかし、鐘は快音を鳴らさない。


 山本さんは、とうとう心が折れてしまった。


「ダメよ。何をやってもダメ! アタシは、やっぱり普通の女の子なんだ!」


 ヒザを落とし、山本さんは地べたに這いつくばる。


「普通だっていいだろ! そういうもんだ!」


 ワタシは、ワタシなりに励ましてみた。


「でも、普通じゃバズらないよ! アタシは勉強も運動もダメで、もう歌しかない! その歌だって、ダメって言われたわ!」



「構うもんか! 人生の九割は、たいていバズらないっ!」


 とどめを刺すような言い方になってしまったが、今のワタシにはこんな言葉しか浮かんでこない。


「もしかすると、一生バズる生き方なんてできない。バズるような奴はレアなんだ。いいか、人ってな、生きるだけでもスゴイんだ。生まれたきた時点で、人は主人公だし、バズってるんだ。お前が気づいていないだけで」


「生きてるだけで、バズってる」


 ワタシは山本さんの親から、こう言われた。

「何も望んでいない」と。

 ただ、ダメな自分も受け入れてほしい。

 ダメな娘でも、親は愛しているんだ、と。



 髪留めが、急に光を放った。


「レベルアップよ。いろんな人の心を救ったことで、新たな力を得たの!」


 外して確認すると、髪留めはマイクの形になっている。


「脱出させてやる。命がけで歌うから、聞いていてくれ……モードチェンジ!」


 ワタシの髪留めが、本物のマイクに変わった。衣装も、ややアイドルぽくなっている。


「選曲は?」


「仮面舞踏会だ!」



「グヘヘ! 一人でどう歌う? 二人以上歌うことを想定したメロディだぞ!」


「ひとりじゃない!」


 ワタシは、山本さんを立たせた。


「曲は、知っているな?」


「パパが歌ってたから、多分」


 なら、大丈夫だ。


 気合のこもったイントロが流れ出す。


「振り付けは任せろ! サブパートを頼む!」


 ワタシはバク転を決めた。こんなバリバリに踊るのは、初めてだ。


 山本さんと一緒に、昭和アイドルソングをデュエットする。


 すごいな、山本さんは。即興なのに、すぐに合わせてくる。


 最後に側転をして、フィニッシュ。


 チューブラーベルが、満点の音を奏でた。


「ぐわー負けたーっ! これが、青春の力か~っ!」


 ライオンおばさん怪人も、潔く負けを認める。


 戦闘フィールドから、ワタシたちは脱出できた。

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