第二章 三十路魔法少女教師の実況

第5話 カラオケで一〇〇点出すまで帰れま点

 ワタシは、カラオケで少年隊の『仮面舞踏会』を歌っている。


 三六歳なのでバリバリ平成生まれだが、昭和歌謡のほうがワタシには合っている気がする。歌ってみて、心地よさがあった。本性を仮面で隠してるという歌詞も、ワタシの心境とシンクロしている気がする。


 一人カラオケは、ワタシの趣味だ。今日は、アヤコも引き連れているが。


「うまいわね、ミサキ。動画サイトの『歌枠』もいけるんじゃないの?」


 グレープサワーをあおりながら、アヤコが手をたたく。


「ムリムリ。ワタシ承認欲求ないから」


 それに教育者が動画サイトなんてやってたら、副業と思われてしまう。


「あらかじめ収益を停止申請しておけば、よくない?」

「事前に準備しておいても、炎上しそう。第一、ワタシは露出は避けたいよ」


 ただでさえ、魔法少女になってしまったのだ。あまり目立ちたくはない。


「モンスターを三体やっつけたけど、感想は?」


「二体は、ただの怪物だったね」


 例のミュージシャンに取り憑いたモンスター以外は、人間が乗り移るタイプではなかった。


「宿主を探している間のモンスターは、割と倒しやすいわ。でも、人間に取り憑いた途端にやたら強くなるから気をつけてね」


「わかった。リクくんの調子は?」


 今のところ、リクくんに変わった様子は見られない。学校には、ちゃんと通っている。


「家でもおとなしいわ。家族ともちゃんと会話するし、夫とも電話で会話するけど、他愛のないことばかりよ」


 だといいが。


「ちょっとお客様、退室時間を過ぎています!」


 ワタシたちが出ようとしたときだ。


 隣の部屋で、店員と客がもめている。


「もう半日以上もこもりきりじゃないですか! 出てください!」


「うるせえ! まだ歌い足りない。『カラオケで一〇〇点出すまで帰れま点』の配信中なんだよ!」


 店員と口論になっているのは、小学生だ。キャミソールとミニスカートで、いかにも小さいギャルを思わせる。テーブルにスマホを置いていて、動画を再生しているようだ。


「あと一点なのに、その一点が出ない! なんで!?」


 勝ち気な少女のおでこが、キランと光る。

 その様子から、ワタシは彼女の正体を知った。


「山本さん!?」


 この子は、ウチの生徒じゃないか。たしか、山本ヨツバさんだ。音楽の授業では、抜群の歌唱力を誇っている。合唱していた生徒が、聞き入ってしまうほどだ。


 撮影と言っているから、配信中なのだろう。

 バチバチにメイクしている。

 が、彼女は山本さんで間違いがない。


「すいません店員さん、うちの生徒が。説得を試みますのでこの場は」


 ワタシは、山本さんと対話しようとした。

 アヤコがワタシを止める。


「待って、この子、様子がおかしい」


 魔法少女の力を得たわたしにも、山本さんの状態がわかった。闇に取り憑かれている。


 昨日の家庭訪問でも、「配信者になりたいって言ったら、ビンタされた」って、こぼしていたっけ。


「あんたも、あたしの邪魔をするの!? だったら、ケガじゃ済まないわよ!」


 山本さんが「グゲゲ……」と、うめきだす。ドリンクのコーラに、なにか錠剤型のアメをぶちまけた。


 コーラがモクモクと泡立つ。


 それをビールのように、山本さんはグイッと飲み干した。口から泡を大量に吐き出し、それを頭やアゴ周辺に集めだす。泡のたてがみが完成した。


「ゲハー!」


 店員に向かって、ライオン山本が泡を吐き出す。


「ひやあ!」


 あわれ店員さんの制服が、無惨に穴だらけとなる。


「これはレーティング違反! 撮って恥をかかせたいのにあたしがバンされる!」


 なんてひどいことを。

 いくら生徒と言っても、人様の服を台無しにするなんて。


「ゆ る さ ん !」


 ワタシは、髪留めにタッチをした。


 光がワタシを包み、魔法少女へと変える。


「キューティーチャー・ミサキ!」

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