第3話 元ヤン、怒りのケンカキック
「誰かの面倒を見ながら自分の夢を叶えるなら、自分のできることをするしかねえ! それでいい!」
攻撃をしながら、わたしは叫ぶ。
「やるって決めたら言い訳するな! 理想と全然似ても似つかなくても、やってよかったって思えるくらいにはやってみろ!」
わたしは、怪物を投げ飛ばす。
「うるせえ! お前に何がわかる! 夢を追いながらガキを育てたこともないくせに!」
「そんな経験、ねえよ! でも、あんたは立派にガキを育てているのはわかるよ!」
「な……」
魔物の動きが止まった。
「家庭訪問に行ってきたけど、あんたのガキはすげえよ! だって、自分のことじゃなくて開口一番で『うちの父ちゃんが心配だ』って言ってたんだぞ」
「稼ぎがなくなるから、心配なだけだ!」
「違う! 人気ものになったらどうしようって、応援していたんだ!」
わたしが告げると、魔物はおとなしくなる。
彼の子どもは、自分の成績の悩みより親のことを優先した。自慢の親だから。
「あんたは立派に、ガキを育ててる! 人の心配をしてやれる、優しい子じゃないか。そういう子どもに育てたのは、間違いなくあんただ! だから、自信を持っていいんだ!」
「でも俺は、ミュージシャンにはなれない」
「なれなくったっていい!」
怪物が、ハッとした顔になった。
「大事なのは、『何になるか』じゃない。『何をするか』だろうが!」
* ~ * ~ * ~ * ~ *
小学生の頃から、わたしの将来の夢は「学校の先生になりたい」だったのである。
しかし、高学年になったときにいた男の先生が変わった人だった。
「先生になって、なにがやりたいんですか?」
わたしだけではない。
他の生徒に対しても、「その夢を叶えて、なにがしたいんですか?」と聞くのだ。
「魔法少女になって、何がしたいんですか?」
「警察官になって、何がしたいんですか?」
そう問いかけられて、みんなが黙り込んでいたのを思い出す。
「大事なのはですね。『なにになりたいか』じゃないんですよ。『何をするか』なんですよね。例えば、魔法少女になりたいっていうなら、チヤホヤされたいってだけじゃ、誰からも応援してもらえないじゃないですか。じゃなくて、人を助けたいんです、とか。そういう具体的な目的ですよね。そっちが大事なんですよ」
そう言われて、生徒たちも具体的な目標を語り始めた。
* ~ * ~ * ~ * ~ *
教師にはなったものの、わたしだっていい先生なのかなんてわからない。だが、なったからには全力を尽くすのみ。
「ミュージシャンにならないと、何もできないわけじゃない。音楽を通して、何をできるかのほうが大事なんじゃないのか?」
「音楽を使って、なにをするか……」
どうにか、魔物は気を静めてくれたかと思った瞬間だった。
何者かが、どこからともなく雷を怪物に向けて落とす。
「あぎゃああああ!」
魔物は、また凶暴化してしまった。こちらの話に、もう聞く耳を持たなくなってしまったようだ。
雷を放った方角を見ると、セクシーな女性がホウキに横乗りして浮遊していた。
一瞬アヤコかと思ったが、違う。あいつはあんなに、胸がデカくない。
しかし、アヤコによく似ている。
「キミは!」
日本人ばなれしている褐色の肌をした魔女が、はるか遠くにいた。
顔だけを見れば、リクくんだ。しかし、いつものショートカットではない。服装も、露出の高いミニスカボディコン姿で、胸もある。
ホウキに横乗りして、上空へと飛んでいった。
「待ちなさい!」
わたしは、リクくんが逃げていく先に手を伸ばす。
しかし、彼は消えてしまう。
「ミサキ、いくら相手に説教しても、もうあの怪物には何も伝わらないわ。とどめを刺さないと」
この空間を作っているアヤコが、わたしにアドバイスしてきた。
怪物が力を与えている以上、宿主の心は癒せないという。
「わかった。怪物! あんたの歪んだ性根、叩き直してやる!」
起き上がった怪物に向けて、わたしはバトンを向ける。
バトンが、弓に変化した。
怪物に向けて、わたしは光の矢を放つ。
矢は、怪物の直前で停止した。形を変えて、円錐状に広がった。
もとに戻ったバトンの先端を、今度は足首に。
ハート型の装飾から、天使のような羽が生えた。
「くらえ!」
跳躍からのケンカキックで、円錐状の光を蹴り飛ばす。
「あばばば!」
抵抗する怪物へ、光の円錐を押し込んでいく。
「怪物め、これでもくらえ!」
わたしの靴底が、怪物の顔面に到達した。
怪物から光が溢れ出す。大爆発を起こして、デジタル状の粒子を放出して消滅した。
これで、大丈夫だろうか……?
「はっ、ここは」
元の世界に戻ってきたようだ。
「そういえば服が!」
わたしは、自分の服装を確認した。魔法少女のままでは、社会的に死ぬ!
「よかった。魔法少女から元に戻っている」
ホッとしたのもつかの間、わたしは注目を受けている。
まさか、一連の戦闘が見られていたとか。
「すげえ、あの女性」
「ケンカキック一発で、あの巨漢をやっつけちまった」
「子どもをいじめようとした、あの男が悪いのよ」
周りが、ひそひそと話を始める。
よく見ると、ミュージシャンの男性が、股間を押さえながら地面でうめいていた。
その前には、さっきの少女が。よかった。ケガはしていない。
「ミサキ、行くわよ」
アヤコが、わたしの手首をつかむ。
「え、なに?」
ここにいると色々厄介なことになるからと、退散することになった。
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