第1話 全クリ転生
《———転生完了。対象者・シンヤを覚醒させます》
「はっ!?」
俺はベッドから飛び起きる。
しかしそこは俺のよく知る部屋とは全くの別物だった。
そこは子供部屋らしく、木のおもちゃや知らない机が置いてあり、俺はどうやら2段ベッドに寝ていた模様。
その余りにも異様な状況に俺の頭は混乱を極める。
「俺の部屋じゃ……無い……? い、一体、ど、どう言うことだ……? 確か俺は——」
——大人気RPG【Brave Soul】を全クリして、その後ダウンロードが来たから……課金覚悟でダウンロードをして、ダウンロードが終わったら……。
そこで俺は気を失う直前に見た物を思い出す。
「———あのメールか! 確か《転生開始》的なことが書いてあったな……と言うことは俺は転生したのか? …………ははっ、そんな非現実的なことあり得るわけない……———そうか、夢か! これは俺の願望が生んだ夢なんだな! なんだよビックリさせやがって……!」
だが、もしかしたら現実――なんてこともあるかもしれないので、夢なのか確かめるために人間には絶対に不可能なことを試してみようと思う。
俺は半笑いのまま2段ベッドの上に立つ。
自分でも馬鹿なことをしている自覚はあるが、これから夢か確かめるためには必要な事だ。
もしこれが本当に夢なら俺は飛べるはず……。
俺は意を決してジャンプ!
そして頭で自分が飛ぶイメージを思い浮かべる。
しかし、俺の考えなど全く反映されず、そのまま飛ぶことなどできず落下。
『ドダンッ!』と言う音と共に床に激突し、激痛が全身を駆け巡る。
「いでぇええええ!? 何で夢なのに痛いんだよおおお!!」
俺はあまりの痛さにのたうち回る。
ダメだ……痛すぎる……これ絶対夢じゃ無い……!
夢じゃないことに気付かされた俺の頭は更に混乱を生み出す。
幾ら考えても、何度見ても俺の部屋とはかけ離れており、非現実的なことに巻き込まれていることを思い知らされる。
「ははっ……俺は一体どうなってしまったんだ……」
もう笑うことしか出来ない。
それ程までに俺は混乱していた。
しかし現実はそんな俺を置いて進む。
何やらドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえて来た。
そして『ドダン!』と大きな音を立てて部屋の扉が開かれる。
「何があったの!? 急に大きな音が……」
「…………あはは……」
誰だか知らないが、10人見れば10人が綺麗だと答える様な美人が入ってきて、ばっちりと俺と目が合った。
こうなったら俺は笑うしか無いよね。
逆にそれ以外にどうしろと言うんだよ。
俺と美人さんが見つめ合う事数十秒。
先に動いたのは美人さんだった。
「シ、シンヤ、だ、大丈夫!? 痛く無いの!? 腕に大きなアザが出来てるけど……」
美人さんは俺に駆け寄って抱っこしてくれ、1階へと降りる。
俺はその間全く動く事が出来なかった。
原因は簡単だ。
うわっ……めちゃくちゃ良い匂いが……!
それに綺麗な顔も近い近い!
青春時代をゲームと過ごした俺には余りにも刺激が強すぎたのだ。
それなのにいきなり抱っこなんてされれば動けないのは明白。
よって誰とも知らない美人に連れて行かれると言うことになってしまった。
されるがままに身を任せていると、1階に着き、ソファーに下ろしてくれた。
ふぅ……あー緊張した。
心臓飛び出るかと思った……。
俺は心臓を抑えながらも周りを確認する。
見た感じ豪華と言う訳ではなく、言ってみれば何処にでもありそうな部屋と言う感じだ。
しかし俺が住んでいた家よりも遥かに設備がなってない。
キッチンも金属や大理石の様な物ではなく、木で出来ている。
椅子もただ木を椅子にしただけの様な風貌で、クッション的な物も付いてない。
ふぅ……一旦整理してみよう。
まず俺は自室で気を失ったと思ったら知らない所で目覚めた。
そしてそれは夢ではなく、飛び降りでも飛ぶことなど出来なかった。
すると俺が落ちた音に気付いた美人さんが俺を抱っこして1階へと降り、1階も俺が知る所ではなく、それどころか明らかに技術力が低下している。
…………現実逃避はここまでの様だ。
どうやら俺は見知らぬ所に転生してしまったらしい。
俺は何かを探している美人さんを見ながらこれからの事を思うと涙が出て来たのだった。
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