ゲームを全クリしたらゲームの世界にモブとして転生したのだが、クリア条件は陰ながら主人公を支えることだった

あおぞら@書籍9月3日発売

第1クエスト:勇者の幼馴染を連れ去られたと見せかけて救え

プロローグ

 とある一軒家の一室で1人の少年がパソコンに向かってあるゲームをしていた。

 画面では、少年の操作キャラであるカッコいい鎧や剣を装備した青年が、キーボードの入力に合わせてアクロバティックな動きをしながら魔法や攻撃を華麗に避けている。

 そして少年は物凄い集中力で一片の迷いなくキーボードに動きを入力していく。

 

 その少年の名前は新田真也あらたしんや

 現在通信学校に通う高校3年生の引き篭もりであり、生粋のゲーマーである。

 

 そんな彼の正面にあるパソコンの画面には、ファンタジーな世界が広がっている。

 彼のプレイしているゲーム――【Brave Soulブレイブソウル】は、今から約6年前の2016年に発売された大人気RPGである。


 このゲームは、自身が主人公の姿、初期ステータス、多種多様な職業やスキルを選択できる自由度の高いRPGで、現在では全世界1億6000万台以上売り上げている人気ぶりを博しており、有名な芸能人もやっているほどだ。

 真也も偶々見つけて軽い気持ちで始めたらこのゲームにドハマりし、中学生の頃から今まで6年間365日毎日欠かさずやってきた。 


 そして今真也はこのゲームの最終クエストの最後の戦闘を繰り広げていた。

 既に戦闘が始まって1時間以上経っている。

 真也の操作キャラの周りには操作キャラを守るように様々な美少女がそれぞれの武器を持って戦っているが、真也の操作キャラも含めて全員ボロボロになっていた。

 

 だがそれは相手の最終ボスも同じで――何なら向こうの方がボロボロだった。

 しかし最終ボスと言うだけあって最後の最後までしぶとい。

 即死級の攻撃を連続で繰り出していく。

 それに真也は物凄い速度で正確にキーボードを打ち込んで何とか回避するが、仲間の美少女たちはその攻撃を避けきれずにどんどん倒れていく。


「クソッ……それは反則だろうが……。あんな速度の攻撃をNPCが避けれるわけないじゃないか……! ――マズい……皆死んだからヘイトが完全に俺にだけ向いたんだが!? ―――うわっ!?」


 真也はギリギリの所でキャラを動かして怒涛の10連撃を躱す。

 するとほんの一瞬攻撃がやんだ。


「―――今だッッ!!」


 真也はキャラを動かしてまた再開した相手の、一撃でも当たればほぼ即死の攻撃を紙一重で潜り抜けてボスの懐に入り、最後の一撃を食らわす。


「―――これで終わりだッッ!!」 


 真也の声と操作キャラの必殺技の声が被る。

 そして操作キャラの必殺技は見事決まり、ボスの体力が0になり消滅する。


「――よっしゃああああああ!! 全クリだああああ!! 遂にやったぞおおおおおお!!」


 真也の喜びを孕んだ雄叫びが真夜中の誰も居ない部屋に木霊する。

 そしてしきりに何度もガッツポーズをする真也。


「よし———よし! この6年間毎日15時間以上欠かさずやり続けた甲斐があったぜ……! まだネットでも誰かが全クリしたって言うのも無いし……もしかして俺——世界初の到達者じゃね? やべぇ……めっちゃテンション上がるんですけど!」


 真也はあまりの嬉しさに椅子から立ち上がって軽く小躍りしている。

 そんな興奮冷めやらない真也の元に、突然1件の新たな通知が来た。


「……ん? なんだこれ……?」


 真也は訝しげに椅子に座り直して新着メールの表示をクリックする。

 すると、そこにはこんなことが書いてあった。


《世界初の全クリアおめでとう御座います! そんな貴方に新たなアップデートがあります。ダウンロードしますか? YES/NO》


「うわぁ……やっぱり俺が世界初の全クリ到達者だったんだ……。でもダウンロードってなんだ? 全クリしたならもう何も無いはずなんだけど……」


 真也はやはり世界初だったらしく、そのことに一瞬興奮するが、その後の表示に眉を顰め、見間違いではと思い、食い入るように何度も画面の文字を見た。

 しかしそこにはしっかりと『ダウンロードしますか』と書いてあり、見間違いでは無いことを証明している。

 

「うーん……どうしようかなぁ……。めちゃくちゃ気になるけど、もしこれが高額な課金とかだったらヨーチューブの収益だけじゃ払えないし……」


 真也は1人、悩ましげにうんうんと唸る。

 その状態が5分ほど続いたのち、真也はマウスを動かし始めた。


「まだまだこのゲームはやりたいし、お金はもしもの時は貯金を頼ろう! それじゃあYESだ!」


 真也はダウンロードのYESをダブルクリック。

 すると『本当にダウンロードしますか?』と言う恒例の確認文が出て来たので、すぐにもう1度YESをクリックする。

 その瞬間にダウンロード画面へと移動し、ローディングが始まった。

 

 真也はふぅと一息すると、椅子の背もたれにもたれ掛かる。


「はぁ……取り敢えず今の所お金の請求とか無いし一安心だな。今の内にトイレにでも行っておくか」


 そう言って真也は立ち上がって部屋を出て行った。

 その間もダウンロードは続く。

 

「《ダウンロード79%……80%…………90%……》」

「ああ……1日ぶりのトイレだったからめちゃくちゃ出たな」


 1分ほどでトイレから戻って来た真也は、ソワソワしながら椅子に座り直してローディング画面を眺める。

 そしてローディング割合を声に出すと言うあるあるまでしている始末。


「96……97……98……99…………100!」

「《———ダウンロード完了。只今から対象者:新田真也の転生を開始します》」

「———え?」


 真也の呟きが部屋に響き渡ると同時に画面が眩く光り、その光は部屋全体を包み込んだ。

 そして10秒ほどで光が収まると、そこには誰もおらず、倒れた椅子と画面が表示されたパソコンだけが残っている。

 そして真也のパソコンには、




《転生完了。それに伴いこれよりこのゲームのサービスを終了します。———…………終了完了》





《クリア条件:主人公がストーリーをクリアするまで主人公にバレないように手助けをしてください》



 とだけ表示されていたが、それもすぐに消えてパソコンの画面も暗くなった。

 部屋に6年ぶりの静寂が訪れた。



—————————————————————————

 ☆☆☆→★★★にして下さると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る