Column7 「ハイカラ」は古い?
4月の『Column1 外来語――「アベック」は古い?』へ、藤光さんからいただいたコメントに「ハイカラ(これこそ死語?)」とありました。
そういえば、「ハイカラ」も「アベック」と同じように古い印象があるかも、と思ったので調べてみることにしました。
「ハイカラ」の意味は皆さん何となくご存じかと思いますが、まずはいつも通り辞書を引きますね。
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【ハイカラ】『明鏡国語辞典 第三版』
西洋風で、しゃれていること。西洋風をきどること。また、そのような人。
「ハイカラな洋服」
▽明治時代、洋行帰りの議員などが丈の高いカラー(high collar)を着用していたことから。
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これを読んで個人的に思ったのは、「西洋風」が付くことが少し意外だったということ。
昔、年配の方に「ハイカラですね」と、着ていた服を褒められたことがあるんですが、単純に「おしゃれですね」という意味だと思っていたんです。あと、柄や色がはっきりしていたり、鮮やかだったりしていても言われる印象がありました。
もし、「ハイカラですね」と服装を褒めてくれた方が、『明鏡国語辞典 第三版』の意味としておっしゃったのだとしたら、洋服だったからこそ言ったのであって、和装だったら言われなかったかもなぁと思いました。
すみません、話がそれました。次に『新明解国語辞典 第八版』を引きます。
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【ハイカラ】『新明解国語辞典 第八版』
[和製英語←high+collar]
〔趣向が新しく〕小奇麗で、気がきいていること(様子)。また、その人。
[表記]「灰殻」は、皮肉を込めた音訳。
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『明鏡国語辞典 第三版』の語釈と比べてみると、「西洋風」がついていませんね。
思うに『明鏡国語辞典 第三版』のほうは、どちらかというと「ハイカラ」という言葉が生まれた当時の意味に重きを置いているのに対し、『新明解国語辞典 第八版』は時代の流れとともに、「西洋風」のもの以外でも「小奇麗」な印象があれば、特別「西洋風」に固執する必要はないという感じがします。
『明鏡国語辞典 第三版』と『新明解国語辞典 第八版』の語釈が違うのは、「ハイカラ」を使う人が持っている印象が違うことの現れかもしれませんね。
そして、最後にもう一冊『三省堂国語辞典 第八版』を引きます。
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【ハイカラ】『三省堂国語辞典 第八版』
①〔古風〕西洋ふうを好む<ようす/人>。西洋ふうにしゃれた<ようす/人>。
「ハイカラさん・若い人はハイカラだね」
(中略)
②明治・大正時代ふうの、近代的でしゃれたようす。
「レトロでハイカラな店」
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これは面白い使い分けですね。
①には「古風」とあります。『三省堂国語辞典』では、用法が昔風なものを「古風」と記すことがあります。つまり『明鏡国語辞典 第三版』や『新明解国語辞典 第八版』にも掲載されてあった使い方は、古い印象があるということですね。
しかし、②を見てみると「古風」はありません。そして、「明治・大正時代ふうの、近代的でしゃれたようす」とあります。どうやら、その時代の雰囲気があるもののことを指すようですね。
そこで、今回はネットの検索欄に「ハイカラ」「着物」などと入れて調べてみたところ、明治・大正時代に流行ったであろうデザインの着物が沢山出てきました。また、「ハイカラさん」という言葉もあちらこちらに出てきます。皆さん、「ハイカラ」という言葉を使って、明治・大正時代の雰囲気(ファッションやデザイン)を示しているのだなということが感じられます。
そして「ハイカラは死語なのか」という問題ですが、皆さん分かって使っているところを見ると
そういえば「ハイカラ」を調べる前、本当に偶然なんですけど、2019年ころに発行されたある作品を読んでいたら、高校生が「ハイカラな料理だね」みたいなこと(実際のセリフとはちょっと違います)を言うシーンを発見しました。
上記に挙げた辞書の語釈を読んでいて、何となくファッションやデザインなどに使うものかと思っていましたが、料理もいいんですね。「ハイカラな料理」から想像するに、しゃれた西洋料理(多分和食ではないと思う)のことなのでしょう。
料理のことが詳しく書かれていなくても、たった一つの言葉でこんな風に想像を膨らませることができるって面白いなと思います。
ちなみに、それを聞いた高校生の叔母的存在が、「最近の子ってハイカラって使うのかしら」みたいなことを言うのですが、たぶん知らない子のほうが多いと思います。着物や明治・大正時代のファッションなどに興味がある子であれば知っていると思いますが、それに触れていなければ知らないかなと。
その一方で、大学生や成人を迎えた人なら分かるかも、とも思います。特に女性ですが、着物を着るので、どういうものがいいかを調べていくうちに、「ハイカラ」にたどり着く可能性はあるかなと思います。
あとは、大正時代を舞台にした『鬼滅の刃』という作品をきっかけに、この時代のファッションなどが見直されているようなので、そういうところから「ハイカラ」にたどり着くこともあるかもしれませんね。
ここまでのことをまとめると、「『ハイカラ』は『西洋風で、しゃれていること』という意味も示しつつも、最近では明治・大正時代のファッションやスタイル、デザインなどのことも示しつつある」と言えそうです。
<補足>
*「死語」について
「死語」は本来、「使われなくなった言葉」のことを指し「古びた言葉」を示すには使いません。上記の『三省堂国語辞典 第八版』の語釈をみてもそれが分かるかと思います。
しかし、人々の雰囲気のなかで「死語」=「古びた言葉」という認識があるためか、多くの人が意味を知っているにもかかわらず、「時代が古い言葉で格好悪い」というものも「死語」の対象になっているようです。(とくに一時的に流行して、一気に聞かなくなったもの、使われなくなったものが対象となりやすくなる印象があります)
人々の感覚的「死語」については、人それぞれの印象があるので否定はしませんが、ここでは辞書の語釈と、辞書編纂者である飯間浩明氏の考え方を基準としております。そのため、本文中で「ハイカラは死語ではない」としました。
「死語」の定義について、下記URLが参考になると思いますので、提示しておきます。
私が考える「死語」については、下記URLを参考になさってください。(『NIHONGO-Ⅱ-』を読んでくださっていた方は、一度読んだことのある内容です)
https://kakuyomu.jp/works/16816927862872059853/episodes/16817330649269063213
また、飯間浩明氏の考え方が記載された記事についても、上記URL内にリンク先を張っておきましたので、気になる方はご参照ください。
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