Column3 外来語 —— 「コック」は料理人のことだけど……。

 日本語では、料理人のことを「コック」と言うことがありますよね。しかし、これを英語で言うと大変なことになります。


 英語で「コック」の発音に近いのは「cock」なのですが、これには「雄鶏」や「陰茎(ペニス)」という意味があるのです。そのためレストランなどでうっかり「What is the cock's special? 」(料理人のおススメは何ですか?)と聞いたら、英語を普段から使っている人や母語にしている人からすると、話も頓珍漢な方へ進んでしまうことでしょう。


 また「コック」には、水道やガスなどの「栓」としての意味もあるのですが(これは日本でも使われていますね)、「陰茎」として捉えられることを避けるため、アメリカでは「faucet」イギリスでは「tap」を用いることが多いとのこと。(『ウィズダム英和辞典』参照)


 これについて、スティーブン・ウォルシュ氏の著書『和製英語 伝わらない単語、誤解される言葉』にも、英語で料理人と言うときは「『コック』ではなく『シェフ(chef)』と言うべきです」というようなことが書かれています。それはその通りなのだと思います。


 しかしそれなら、何故料理人のことを「コック」というのか不思議ではありませんか? 「だって英語から入ってきた言葉のはずでしょ」……と。

 それは、日本語で使われている「コック」が、そもそも英語から入って来た言葉ではないからです。


 国語辞典を引くと分かりますが、「コック」はオランダ語から入って来た言葉です。「kok」と書き、コーヒーと同様に江戸時代の貿易のときに入ってきているので、思ったよりも歴史があります。

 日本にいて日本語を話していると、外来語は英語やフランス語など先進国の言葉からの影響が強いと感じるかもしれませんが、実際は色んな言語の影響を受けているのだということが分かりますね。


 しかし上記の事情を知らず、英語で言ったらまずいということだけ知っている方のなかには、「料理人を『コック』というなんて失礼だ」という意見もあるようです。


 世界的に有名な『ONE PIECE』(尾田栄一郎/集英社)のキャラクターの一人である「サンジ」は、「コック」と言われているんですけどね……。(HPを見たら「コック」と書いてあったので間違いないかと)。


 ただ、やはり今の時代は英語の影響の方が強いこともあって、テレビなどで放送する際は料理人と紹介していたり、ナレーションの方が「シェフ」(主に料理長のことを指していると思います)と言っていたりする印象があります。全ての人がここまで述べて来たことを知っているわけではないですし、変な印象を与えないようにするため配慮しているのかもしれません。


 世界には7,000という数の言語の種類がある一方で、人間が発音できるのは限られていますから絶対にどこか重なってしまうものです。

 分かりやすい例はフィンランド人の名前でしょうか。日本人が聞くと変に聞こえてしまうものがあるんです。「アホネン」さんや「シッポ」さん「ヘンナ・パンツ」さんなど(蛇蔵&海野凪子著『日本人の知らない日本語2』より)。でもだからと言って笑うのはおかしいですよね。


 よって、日本語で料理人を「コック」と使うのは問題ないと考えます。

 もちろん人それぞれ感覚が違うので、英語の印象が出てしまって嫌だという方は避けるなど、個々人で考えて使ってよいと思います。



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