第13話 陽子線治療(1)

10月12日(水)

 S総合病院へ結果を聞きに行く日。

 少しは期待していたが、やはりT総合病院の見立ては間違っていなかった様だ。ほぼ同じ見解だった。S総合病院では15センチと言われたそうだ。この数日間で、大きくなってしまったのだろうか?

 S総合病院で、肝臓に関しては、F医師が担当。

 治療方法に関しては、3種類あって、所見はT総合病院と同じだった。外科手術は、年齢と腫瘍の大きさから、あまりお勧めされなかった様だ。やはり、するなら抗がん剤治療らしい。F医師は、肝臓の抗がん剤治療をする場合、前立腺癌の担当医に相談し、肝臓の治療を優先するか、あるいは、肝臓・前立腺癌を平行して治療するかを、医師同士で話し合ってくださるとの事。

 次の診察は、医師の都合で、24日になり、その時に、抗がん剤治療をするか、しないで緩和ケアのみにするかの返答をしないといけないらしい。抗がん剤の治療をするなら、早いほうが良いので、その週には最初の治療を行ない、3日くらの入院が必要との事。

 抗がん剤の治療は、副作用が、何時・どの位・どんな風に出るかは、個人差があり、予測出来ないらしい。その為、考えられる副作用を聞かされ、妹1も妹3も、迷いが出た様だ。出た副作用が、治療後も残る可能性があると言う。せっかくQOLが良好になって来たのに、抗がん剤治療の影響で、また体調が悪化し、苦しい思いをして、それでも100%の完治は期待できず、数ヶ月寿命が延びるだけなら、短命でも良いから、このQOLを維持していく方が、父にとっては良いのではないか? と言う思いが沸いてきた様だ。私も、話しを聞いて、迷う。母は、抗がん剤の治療を臨んでいる様だ。理由は、知り合いや、人づての話しで、元気になった人がいるからとの事。

 その日は、診察後、いつものルーティーンのラーメンも食べずに帰宅した様だったので、皆が、ショックを受けたのかなと心配したが、忙しい母の都合で、ラーメン屋に寄れなかっただけの様だった。

 結果を聞いた時、父はどんな様子だったのか? ショックを受けていたのか? と聞いたら、「耳が悪くて、殆ど聞こえていなかったと思う」との事だった。

 

 ネットで、抗がん剤治療について、いろいろと調べる。すると、陽子線治療と言うモノがあると知る。副作用は殆どない。けれど、高額だ。もしかしたら、保険適用外かも知れない。

 何故、S総合病院の医師は、この治療を検討の中に入れなかったのだろうか? 父は、適用しないのだろうか? 認知症があると、こういう治療は無理なのかも。でも、S総合病院では、父が認知症であるとは判断していない様だった。

 T総合病院のM医師は、癌センターでの治療も、選択の中に入れてお話して下さったが、その時は、父の様子から察して「このままでは歩行もままならない状態で、そうすると、遠くの癌センターまでの通院は無理なのではないか?」と言う事を言っていて、私も、その時の父の状態から、癌センターに通うのは、難しいかもと思っていた。

 しかし、今の父の様子を見ると、行けるだろうと思う。そこで、妹1と妹3に提案してみた。2人とも、肯定的だったので、母にも言って見た。とても気持ちが重かったが、意外にも「良いね」との事。「高額になるけど」と言うと「お金は幾らかかっても良い」と言っていたので、安心する。「じゃあ、話しをすすめても良いね?」と確認をし、快諾をもらった。

 

10月13日(木)

 8時45分。癌センターの「よろず相談」に電話をする。電話では「診る診ない」は判断できなくて、HPの「陽子線治療のご案内」→「受診前適応判断を希望される方へ」→「患者情報票(共通)及び適応基準表の送信」から(1)と(2)肝細胞がんと言う項目の用紙をダウンロードして、S総合病院に持って行き、S総合病院から癌センターにFAXしてもらい、それを見て、癌センターが判断して連絡を下さるとの事。その旨を、妹1に伝え、ダウンロードして病院に持参してもらう事にした。私が、今、出来る事はここまで。後は、妹1と妹3にお願いする。

 妹1と電話で話している時に、後ろで母が「Tさん(昔、隣に住んでいた医者)に聞いたら、S総合病院で紹介状を書いてもらって、癌センターに行けば良いんだって」と言っていた。そういう母のネットワーク情報を聞かされると、辟易してしまう。インターネットを利用できない母にしてみれば、精一杯の努力なのかも知れないけれど、根拠がない物まで信じてしまうので。

 もし、癌センターで陽子線治療をして頂けるとしたら、約一ヶ月、平日は毎日、通わなくてはいけない。高速を使えば1時間強の道のりだが、高速嫌いの母は、一般道路を使うだろう。そうなると2時間半はかかる。毎日、往復5時間のドライブを、約一ヶ月続けるのは、母も大変だし、父の身体への負担も大きいだろう。出来れば、母には運転して欲しくない。もし、陽子線治療が可能ならば、癌センター近くのウィークリーマンションを借りるとか(検索済み)、私や妹1が運転するとか、何か良いアイデアを考えよう。取り合えず「可能か? 不可能か?」が先だ。


10月14日(金)

  午後3時。妹1から電話が来た。予想していたより早く、S総合病院から連絡があり、癌センターへ持っていく紹介状が出来たので取りに来て下さいとの事。そして、17日(月)の午後12時30分に、癌センターで初診をしてもらう事になった。素早い対応に感謝する。それだけ父の病状が危ないと言う事ではないと良いが・・・・。

 その後、母から電話が来た。父が、癌センターに行くのを嫌がっているらしい。理由は、「遠いから」。父は、自分の現状が良くわかっていないのだろう。皆が、オブラートに包んだ言い方をしているから。母に「癌センターには一緒に行きたいので、日曜日に帰る。父には、その時に、私から話しをする」と言う。


10月16日(日)

 実家に行く日。留守中の夫と息子の食事の用意や、雑事をすませ、実家に向かう。今回は、車の運転と渋滞に少々疲労が溜まっていたので、電車で帰省する。

 実家につくと、母が庭の草木に水やりをしていて、父は丁度シャワーから出てきた所で、妹3が父の身体を拭いている所だった。

 夕食の時に、父に、T総合病院で腫瘍を見つけてもらった所から、丁寧に説明をした。癌と言う言葉は言わないつもりだったが、「癌センターへ行く」と言ったら、癌と言う事を言った様な物だ。しかたない。「癌だけど、悪性か良性かは、解らないから」と、フォローにならないフォローをする。

 明日、癌センターに行く事を、行き渋っていたらしいので、ちゃんと説明しないと、医師に失礼な事を言いそうだったし、悪態をつかれても困るので、しっかりと説明したら、納得して、行く事を承知してくれた。

 母は、いつもながら、日中、いろいろと忙しくしていて、疲れたらしく、早々に就寝した。母は、リビングのテレビの前に布団を敷いて、寝ている。テレビが子守歌の様で、一晩中、テレビを、付けたり消したりしている。妹1が、「あれじゃあ、脳が休まらないよね」と言っていたが、その通りだと思った。


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