異世界最強禁術魔法使いは、チート能力で世界各地で大暴れして自分だけの闇の組織を作っていく〜
海坂キイカ
村編
スイートメモリー
俺は今、
今の俺は5歳…ほどだった筈だ。もう10年以上前のことなので良く覚えてはいない。ただ一つ覚えている事といえば、これから自分が魔物に襲われるということ。
こちらに向かってくる紫の魔物はライオンを少し大きくした感じの人喰いモンスター。赤く鋭い瞳はジッとこちらを捉えて離さないが、すぐさま襲って来る気配も無い。
なぜすぐに襲ってこないのかは大体分かる。魔物はタダの獣とは違って賢く、物事をよく考えるのだ。そして今、目の前の魔物が考えていることはもっと怯えろ、だ。
どうやら俺を最大限恐怖させてから骨肉を貪りたいらしい。まるで旨味を熟成させた肉のように。
随分と最悪な趣味をお持ちのようだが、俺はどうにもすることなど出来ないのである。
だって5歳の身体だ、たとえ夢でもそんな凶暴な猛獣に勝てっこ無いのは分かりきっている。
とはいえ焦りが無いのもまた事実。
なぜだって?そんなの決まっている。
助けが来るからだ。
魔物が飛びかかって来る3秒、2秒、1秒前。
ほら助けが来た。
俺の家ごと吹き飛ばすように魔物が遥か彼方へと飛んでいく。それと同時に一人の女性が日差しを浴びて姿を表した。
それはそれは美しい女性。みかんのようなオレンジの髪に海のように蒼い瞳。何より特徴的なのはその衣装。ドレスと鎧を組み合わせたような奇抜な格好をしている。といってもそれは女性と驚くほど似合っていて、そのまま夜会に出られそうなほど煌びやかに輝いては今でも思わず見惚れてしまう。
学校のマドンナ、高嶺の花などと言う言葉があるが、それすらも到底霞むような色気のある大人の美女だ。
そんな彼女はこちらへ微笑んではゆっくりとやって来る。
「驚かせて悪かった、それにしても大丈夫だったかな?私は君を助けに来たんだ。君の名はジーク・フォルザードと言うのだろう?私は君のことならばなんでも知っている」
一つ言っておくが彼女と俺は初対面。俺が住んでいる村にこれほどの美女はいなかったと思うし、いたら当然有名人になっている。それでもなぜか彼女は俺の名前を知っていた。とはいえ不思議と当時の俺も彼女とは初めて会った気がしなくて、懐かしい気分になっていたものだ。例えて言うならどこかで嗅いだことのある懐かしい香りにまた出会ったようなそんな気分だ。
「初めまして、とでも言うべきかな?
私の名前は――――だ」
残念なことに彼女の名前は覚えていない。だから夢としても霞んでしまう。あくまでもこれはかつて起きた事実であり、自分が覚えていないことは夢としても曖昧になってしまうのだろう。
そんな名前すら忘れた彼女がそっと抱きしめてくる。別に驚きはない。この出来事は今でも鮮明に覚えているのだから。しかし不思議なことに彼女の温もりが鎧越しに伝わってきた。これは夢のはずなのに。
「私はいつまでも君のことを見守っているよ。だからこれを持っていてくれ」
そう言って彼女が取り出したのはペンダント。金の鎖に白色の宝石が埋め込まれた、とんでもない値が張りそうなペンダントだ。
それを彼女は俺の首に通す。
「ほらこれを見てくれ」
思わず俺は目を伏せた。鎧部分になった胸元に彼女は手を入れたからだ。彼女はそこから何かを探すと引っ張り出して、俺に見せて来た。
それは俺に渡したものと似たペンダント。
しかし埋め込まれた宝石の色が違った。
「私のペンダントの宝石が橙色で君の宝石は真っ白だ。これは年月とともに色を変え、最終的に君の宝石が橙色、私の宝石が白色となって二つの色が入れ替わる」
そうなった時、
「私たちはまた再開する。
その時までこれは大事に持っていて欲しい」
俺は頭を下げた。
ちなみにこのペンダントは10年経った今でも肌身離さず付けていて、今の色は黄色を示している。恐らく彼女と再会するのはそう遠く無い未来なのかもしれない。
瞬間、彼女から光が発せられる。それはまるで後光のように輝いていて、彼女が神聖な存在にすら見えた。
……思えば彼女は神や天使などの類なのだろうか。そんな彼女が何故俺に会いに来たかは不明だが、彼女は恐らく俺が知らない、もしくは忘れた何かを知っているのだろう。
「できれば私は君と一緒にこの世界にいたい。だがここに留まるのは限界のようだ。しばしのお別れだが心配はいらない。最後に言わせてくれ。私は君を愛しているぞジーク……」
彼女はニッコリと優しげに笑った。と、同時にその姿が掻き消える。初めから彼女などこの世界にいなかったかのように。
残された俺の視界に映るのは馴染みある景色と壊れて出来た家の残骸。どうせなら家も直して帰って欲しかったなどと今になって思う。
次第に俺の視界がぼやけ始めた。恐らく夢が終わるのだろう。それと同時に俺も覚醒する。もう起きた頃にはこんな夢を見ていた事など忘れているのだろうと、俺は思った。
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