第17話 ダメな先輩と良い後輩
次の日の朝。朝の生徒会室に来間は姿を見せなかった。
「なぁ、小鳥遊。来間はどうした?」
小鳥遊に聞いても、
「単に遅刻じゃないっすか? また注意しときますよ」
というだけだった。
ただ、今の反応と昨日のことが引っ掛かってる俺は、
「なんか、知ってるんじゃないのか?」
と、問いただす。
「先輩、まさかっすけど知ってるんすか?」
小鳥遊の顔が変わった。
「いや、詳しくは知らない。けど、昨日不自然だったんだ。泣いているような、追い詰められているような」
言いたくても言えないような……そんな姿に見えた。
「え、成海ちゃん大丈夫かな?」
「後輩君の後輩の悩み?」
と宮本先輩とカラメルも気になったようだ。
「じゃあ話しますけど、これ成海には内緒っすからね? それに私もまだ憶測なんで、参考程度に聞いてください」
そういって、小鳥遊は話し出した――
「成海って嫌われやすいというか、敵を作りやすいんすよ。まぁ友達もできやすいんですけど」
「けど、あれが本質と言うか,素の性格だよな?」
「そうっすね。成海は自信満々というか、あざといタイプっすね」
来間は、いかにも女子高生と言う感じだろうか。流行にも敏感だったり、クラスの中心人物になる存在。
それでいて、柔らかな雰囲気を持っている。でもその中にはあざとさもあって。思わず惹かれてしまうような女の子だ。
「成海とは結構仲も良いんすけど、最近なんかおかしいというか、なんか隠してるんすよね。あいつ、自分のことは何も言わないから。これだから自信満々な奴は」
「だから、来間を探してたのか」
「そうっす。ふと、いなくなったりして……何かあるっていうか。とりあえず、しっぽをつかみたいっすね。先輩たちも協力お願いするっす」
「もちろんだ」
その後、俺とカラメルは授業の休み時間に1年の教室に向かった。
「先輩、連れてきたっす」
小鳥遊は俺たちを見ると、来間を強引に連れてきた。学校には来ているようだった。
「よくやった、小鳥遊」
「ジュース3本分っすね」
「せめて1本にしてくれ」
ケチな俺にそれはやめてくれ。
「……なんですか。今日はすみませんでした。遅刻しました。それでは」
「おい待て。なんだその定型文みたいな返事」
そういって俺は、逃げようとする来間の腕をつかむ。
「成海ちゃん。皆心配してるんだよ」
カラメルも説得しようと優しく話しかける。
来間は、
「頼んでませんし、何もありません。木葉も余計な事しなくていいから」
と言って、俺の掴んでいた手を振りほどいてそそくさと逃げていった。
「あれは、絶対何かあるな……」
何か隠している、っていうのも分かったし、どうにか自分で解決しようとするような姿も見えた。
「あのバカ……とりあえず、成海の行動をよく注目しておきます。何かあったらまた連絡するんで。その時はよろっす」
ただ、事件は予想以上に早く起きる。昼休みの終わりぐらいの時、午後からの授業を準備していた時に、スマホに連絡が来た。
「あっ、先輩。こっちっす」
俺は小鳥遊と人目がない建物で影になっているところで合流して、事情を聴く。遅れて、宮本先輩や、鳥山先輩、カラメルも合流する。
「あれは、来間と柄の悪そうな女子だな」
ここは人がめったに通らない。悪い言い方をすれば、何かするには最適な場所、っていうことだ。
来間と柄の悪そうな3人の女子がいた。
「この学校では、珍しいヤンキータイプっすね」
「それでどうするんだ?」
「そうっすね……カラメル先輩は証拠になるように撮影をお願いするっす。宮本先輩と鳥山先輩は、先生たちに事情を話したり、ここで人が来ないかとかを見ててください。あっ、先生を呼ぶのは後でいいです。あいつらが手を出さないところを捉えないと意味がないっすから」
「「「わかった」」」
そういって、3人は各々準備する。
「俺は?」
「先輩は……まぁとりあえず見ててください」
いや戦力にはならないかもだが、扱いひどくない?
そういって、様子を見ていると
「何? そうやって私の邪魔をするの。このゴミカス人間が」
柄の悪い3人組の女子グループのリーダー格っぽい女子が話し始める。
「私はそんなんじゃない……!」
「あぁ、そう。じゃあ、ボコボコにするね」
「それで私が屈すると、思ってるんですか。」
来間は強い子だ、と感じた。この状況でも負けていない。
「ちっ! おいやれ」
そうするとリーダー格の女子についていた2人が来間をつかんで動かなくする。
「ちょっと何するんですか!」
「反抗できないぐらい痛めつけてやるよ。そしてお前の変な写真も撮ってばら撒く、っていうのも面白そうだな。そしたらお前も観念するかぁ?」
俺はやばいと感じ、助けにいこうとすると
「まだっす、先輩。まだ我慢っす。証拠が撮れるまでは……」
小鳥遊が止める。
「でも、やばくないか?」
「ここで行くと、証拠がなくて罪が軽くなるっす。どうせなら、ここで潰しておきたいんです。タイミングは私が指示しますから」
来間は、まだ強い表情を保っている。ただ、もう限界なのではないか、と感じていた。
「あっ」
バチーンとリーダー格の女子が一発殴った。
「今っす」
小鳥遊の合図で、俺たちは助けに行く。
「や、やべ! 見られた!」
そういって逃げようとする、取り巻き女子。
俺もこれを予想していたのだが、
「今更だろ。こいつらもここでボコボコにする方が早い」
と、リーダー格の女子が喧嘩する気満々だ。えぇ……やめようよそれは……
「カラメル先輩は、証拠を持って職員室に行ってください! 鳥山先輩や宮本先輩も説明をお願いします! ……先輩は、頼りないんで見ててください。成海をお願いするっす」
「へいへい」
頼りなくてすみませんね。
「ちっ、証拠なんて撮りやがって。どうせ、もう終わりならお前たちをボコボコにして辞めてやるよ」
そういって、小鳥遊を殴りかかろうとする。やけにあいつ自信あったけど、大丈夫か……?
「甘いっすね。これは正当防衛ってことで」
小鳥遊はそう言って、腕を掴み逆に一発をプレゼントする。
「お前、武闘派なんかい」
「まぁ、中学まではヤンキーでしたし、空手とかなんかそういう系も習ってたんで。こんなエセヤンキーには負けません」
「どうかこれからも優しくしてくれ」
ジュース3本奢ってやろう……と思った瞬間だった。
「ちっ、この野郎!」
「おっ、まだやるっすか? いいっすよ」
すると、
「このひょろい男子なら!」
俺なら、と思った取り巻き女子2人が、俺を狙ってくる。
「あっ、やばっ。先輩、ちょっとどうにかしてください」
「どうにかって……」
俺は何とか思考をめぐらす。2対1というのはあるが、喧嘩慣れはしてなさそうな取り巻き女子だが……
本音を言えば逃げてしまいたい。ただ、来間が不安そうにさっきから俺の制服をつまんでいる。ここで逃げるわけにもいかない。
それに瑞希との最初の出会いを思い出す。今度は俺も、役に立ちたい…
「まぁ、これも正当防衛に入るよな……?」
と、クソ人間の俺は1つ案を思いつく。あぁ、ダメだ!
「来間、下がってて」
そういって、俺は2人が殴りかかってるのを見て、しゃがみこんだ。予想外の動きに一瞬戸惑う2人。いける、チャンスだ!
そういって俺は、思いっきりスカートを下からめくった。それはもう職人のように思いっきり。2人とも予想してなかったのか
「「きゃぁあああぁぁ!」」
と大声で叫んだ。
「いや先輩ナイスすぎっす」
そういって、小鳥遊は瞬殺で3人を片付けた。元ヤン、流石っす。
「あっ、こっちです」
カラメルたちが先生を呼んできてくれた時には、もう小鳥遊が片付けてしまった。瞬殺すぎて俺は恐怖を覚えたよ。
「あっ、これは正当防衛ですから、許してくださいっす」
「まぁ、とりあえず分かった。とりあえず話を聞かせてもらっていいか? 担当の先生にはあとで言っておくから」
こうして、この事件は一件落着のハッピーエンドを迎えた。
「先輩、良かったっすよ。ちょっと見直したっす」
「これは俺とお前と来間の秘密な」
自信を持ってこれは言えないな…
俺たちはその後、何があったかを説明したり話すことに。授業をサボれて、事件も解決。一石二鳥ってわけだ。
まずは、いじめを行った女子3人と小鳥遊、証拠を撮ったカラメルたちが呼ばれた。
あれ? 俺、先生にただ巻き込まれた人だと思われてない? いや、まぁそうと言えばそうなんだけど。俺のこと見えてる?
「……ウッウッ……せ、先輩たちはなんで来てくれたんですか?」
来間はさっきからずっと泣いていた。
「小鳥遊が知らせてくれたからな。いい友達持ったな、大事にしろよ」
小鳥遊はMVPだった。あいつ、生意気そうに見えて結構出来る奴だな、ほんとに。あれで頭も良いからな。あ、元ヤンだから、生意気なのはあってるといえば、あってるのか。まぁ、来間もいい友達を持ったな、と思う。
「でも、迷惑かけて」
「俺としたら授業を合法的にサボれてラッキーだわ。ありがとうな」
「……何ですかそれ」
そういって、少し笑顔を見せる来間。なお、純度百パーセントの俺の本音である。
「よければ何があったか聞いていいか?」
「私が、色んな男に色目を使ってるとか手を出してるとか色々言われて。それが気に入らなかったみたいです」
やっぱりそういったことか。特に女子はこんなトラブル起きやすいよな。
「そんなことはないんだろ?」
「はい。でも私が、こういう性格だったのは昔の自分が関係しているんです。昔の私は凄い内気で、変えようと思ってたんです」
「それで、変えたのか」
今とはなっては想像できないが。
「はい。私、正直顔だけは良いってのは昔から自覚あったんで。だから自信満々に強く生きようって。そうすると、今までとは違う世界があって」
「内面の裏返し、か」
自分の強みを活かして、成功したって感じか。
「笑えますよね。昔はこんな感じじゃなかったんですよ? なんかあざといとあ、そんな風に言われるようになっちゃいました」
「いいじゃないか、それで」
「え?」
「来間にはそれがあってるんじゃないのか? それに自分一人で行動できるのって、凄い才能だぞ。小鳥遊もだけど、優秀な良い後輩だな」
俺もカラメルも瑞希も一人では行動できなかったな、って思う。
小鳥遊や来間は強い。自分達が何をすればいいか、どうしたらいいかを深く考えて成功している。
「そう、ですか」
「まぁ、それがお前の個性で性格で良い所だろ。これからも何てないことないぐらいドンと強く構えてたらいいんだよ」
「先輩……」
「ほんと好きなように生きたらいいんだよ」
それは俺の理想でもあって。皆が何も気にせず、自由に好きなように生きてほしい。人生というクソゲーの難易度がちょっと下がってくれれば、それで良い。
「好きなように、か。わかりました。これからも私らしく生きていきます!」
涙もすっかり止まり、強く凛々しくて良い表情をする来間。
「おう」
来間にはこの自信満々っぽい表情が似合っている。
「そういや先輩のスカートめくり、面白かったですよ。変態でダメな先輩ですね、ふふっ」
「掘り返すなよ……」
「冗談ですよ。私のことを何とか助けよう、としたんですよね?」
「まぁ、非力な俺にはあれしか思いつかなかったからな」
「それは、ほんと嬉しかったですよ。“これから”もよろしくお願いしますね」
こうして、後輩たちとの仲が進展した1日だった。
そして俺の黒歴史ページにスカートめくりが追加された日でもあったのである。
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