第16話 それぞれの付き合い方
体育祭までおよそ2週間となった。カラメルと仲直りしたり、色々あった週末も過ぎてまた新しい一週間が始まる。
「あぁ、眠すぎる!」
「もう、文句言わない!」
俺とカラメルは、電車の時間を合わせて一緒に登校していた。生徒会は、朝早くから準備などをすることもあり、一緒に登校することになった。
いつも通り、高畑駅で電車を降り、カラメルと話しながら学校に向かう。冬の寒さもほとんどなくなり、過ごしやすくなってきた。
「皆驚くかなぁ? 驚かせたくて内緒にしてるしね」
カラメルの提案で、仲直りしたことは、まだ皆には言ってない。
どうやら皆を驚かせたいらしい。
「拍子抜けするんじゃないか? 仲直り早かったし」
「あはは……結局2人とも喧嘩の時は、本音じゃなかったし。あれ、皆に怒られないよね? 心配かけてこんな感じだと」
「さぁ、どうだろうな」
「えぇ~! 助けてよ斗真~」
やっぱりカラメルとはこの距離感が心地いい。
けど、いつかは気持ちに向き合わなければならない。俺自身のことや皆の気持ちのこと……
今度は俺が祐樹に相談してみようか、と思った。あれ? そういや祐樹と瑞希はどうなったんだろうか?
「「おはようございまーす」」
俺とカラメルが生徒会室のドアを開けると、
「おはよう2人とも。あと2週間ぐらい頑張ろう!」
と、鳥山先輩が元気よく声をかけてくれた。俺たちのグループの他のメンバーも、既に来ているようだ。
「先輩方おはっす。やっぱ2人って、付き合ってるんすか?」
生意気な後輩の小鳥遊が今日も絡んできた。俺が何て言えばいいか迷っていると、
「まだ、そんな関係じゃないよ。まだ、ね」
カラメルのその言葉に俺は思わずドキリとしてしまう。
「そう、だな。今は誰とも付き合ってない」
「えぇ~先輩って案外モテそうなのに」
と、会話に割り込んで入ってきたのは、もう一人の後輩の来間さんだ。
「いやいや冗談きついですよ、来間さん」
まぁ一応、2人からは告白されているのだが、実感があるわけでもなく。
モテている、など思えるわけもなく。
「そんなことないですよ! あっ、私も後輩なので、呼び捨てでいいですよ」
「そうか、わかった」
「ていうか先輩、私も可愛い後輩なんすけど。最初から呼び捨てなんすけど」
「小鳥遊、それはしょうがない」
お前は、生意気だからな。
「まあ、後輩君も馴染めたようで何よりだよ」
「宮本先輩は、ずっと後輩君呼びなんですね……」
「だって、こういうの先輩らしくていいじゃん。佳織もそう思うでしょ? 会長としても」
「はいはい。お喋りはいいけど、作業も、ね?」
やっぱ鳥山先輩、時々怖い。
「朝からこんなに働かせるなんて、ブラックだ」
朝から作業で、もう俺のライフはゼロよ!
「まぁいいじゃん。私は楽しいよ」
いや、楽しいは楽しいんだけど……君何でそんな元気なの?
「いや、俺の体力がなさすぎるだけなのか。悲しいな」
そうして俺らのクラスの教室に着くと、カラメルは勢いよくドアを開けた。
「おはよー!」
カラメルは元気よく挨拶する。いつも通りのカラメルだ。
「斗真、お前」
「祐樹、心配かけたな。すまん」
「ども、斗真のズッ友でーす! これからもよろしくお願いします」
「こら、ふざけるな」
やっぱり心地良い。
「斗真君、流石ですね。仲直りしたんですね」
「瑞希、流石っていうのは間違ってるぞ」
俺ってそんな行動が上手、というかできた人間ではない。
「斗真君は優しいよ、ほんと」
「まぁ、俺たちも大人になったっていうか、ね」
「本音でぶつかったもんね」
本音で今までぶつからなかったこそ亀裂ができて。
ただ、ぶつけたことですぐに関係が修復した、ってのもある。
「あっ! 真緒、負けないからね。色々と」
「ありゃりゃ……芽瑠ちゃんも来ちゃったか。こりゃ厄介だね」
2人の気持ちに、俺も向き合わないとな。本気で、しっかり誠実に。
今日の体育祭練習は、学年通してのパフォーマンスのダンスがメインだ。ところどころ1年生が、興味津々にこっちを見ている。やめなさい。
「斗真君、リードしてね?」
俺とペアになった瑞希が、期待のまなざしで見つめてくる
「ダンスはそこまで苦手じゃないけど……センスの塊の女の子がよく言うよ」
君、なんでもできるじゃん。
そうして、青春っぽい曲が流れる。確かに男女で踊るのには良いと思うが、俺には陽キャ要素が強すぎる。
曲はそんなに長くないので、ダンスの振り付けは簡単に覚えられた。なお、技術は追いつかない模様。
こうして一通りの練習が終わり、俺は
「あぁ恥ずかしい……穴があったら入りたい」
羞恥心の悪魔に襲われていた。
「そんな言うほどはおかしくなかったよ」
そうやって、瑞希と話していると
「先輩、学校全体でも有名な桜葉先輩とダンスなんてどんだけ賄賂積んだんすか?」
小鳥遊が話しかけてきた。恐らく2年生の練習を見ていたのだろう。
「小鳥遊、一発殴っていいか?」
いやまぁ、気持ちは分かるけどね。
「いやマジトーンで言わないでくださいよ、怖いっす」
「生意気な後輩め」
「そういや成海見てないすか?」
「来間か? いや、見てないな」
そういや小鳥遊と来間は結構仲も良さそうだったな。
「そうすか……わかりました。じゃ、また放課後」
そういって、小鳥遊は去っていった。
小鳥遊が去っていくのと、ほぼ同時のタイミングで、今度はカラメルと真緒がやってきた。
「おつかれ~!」
といって、肩を組んでくるカラメル。
「おい、カラメル! てめ密着しすぎ」
告白の件があって、昔以上に意識してしまう。
「それより斗真君、さっきの子は生徒会の子ですか?」
気になっていたのか、瑞希が問いかけてきた。
「そうだよ。グループで動いているんだけど、メンバーの一人」
「安佐川君、グループって?」
今度は、真緒が食いついてきた。
「俺のところは5人グループかな」
「えーと、私、斗真、可愛い先輩が一人、可愛い後輩が2人かな」
カラメルが説明する。
「「随分と楽しそうだね」」
瑞希と真緒が汚物を見るような眼で俺を睨みつける。
「ごめんなさいぃ! 許してぇぇえ!」
は、話せばわかるから!
ダンスの練習が終わると、あとはクラスごとの自由時間だった。俺は、休憩石輝勇気を見つけて話しかける。
「お疲れだな」
祐樹は汗だくだった。おそらくリレーなどの練習をしていたのだろう。
「随分とカラメルと仲良さそうじゃねぇか」
「うるせぇよ。仲直りしたとはいえ、前からだろ」
「いや、俺の目は誤魔化せねぇぜ? 前より親密だし、スキンシップも増えてる。これは怪しいな」
お前は浮気調査をする探偵か。
「そういやそっちこそどうなんだよ? 瑞希と」
瑞希と祐樹はどうなったのだろうか?
「お前とカラメルが心配でそれどころじゃなかったよ。それにしては楽しそうだった様で何よりだなぁ?」
「ぐうの音も出ない」
この度は誠に申し訳ございません。
「ま、俺も負けられねぇな。でもとりあえず上手く行ったぜ? また遊ぼう、ってなったし
「そっか」
そこで一人の女子が走っていくのが見えた。あまり分からなかったが、泣いてるように見えた。
「来間?」
ぱっと見でしかなかったが、その女子は後輩の来間に見えた。
「どした?」
「いや、なんか俺の生徒会のグループの後輩が走っていったような? ちょっと見てくるわ」
「もうちょっとで集合かかるから早めにな!」
「あぁ、わかった!」
追いかけてみると、誰にも見えない陰でポツンと来間は座っていた。
「来間?」
「……なんだ先輩か」
「なんだとはなんだ」
いや、イケメンの王子様じゃなくて悪かったな。
「別に、何でもないので気にしないでください」
「お、おい!」
そういって、引き止めようとするが無視して来間は走っていった。
「平穏な日常はどこへ……」
俺は思わず呟いた。
本当に色々ありすぎだろ、人生。
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