第3話 桜葉さんとデート? ~プリクラ編~

「ありがとう」

 

 桜葉さんは優しく、感謝の言葉を俺に向けて言ってくれた。

 むしろこっち側が感謝するべきなのではないか? と思ってしまうほど綺麗な美少女の桜葉さんと、友達になってしまったモブの俺。おそらくここが人生のピークと思われる。もうこれ以上はないだろう。


「むしろ、俺でいいのか? もっと他の人でもいいんだぞ」


「うーん。まあ、安佐川君は何やかんやで色々話したりしたし。それを踏まえてだよ」


「出会いは最悪だったけどな」


 俺がたまたま市内に出かけて、オタ活をしようとしたのが始まりだった。そこから、絡まれているところを見て。たまたまお互いを認識して。人生が嫌という共通項があって。そんな色んな偶然を通ってきた。


「まぁ、あの最悪な一件があったから分かり合えたってのもあるけどね。それに……」


「それに?」


「私もきっと踏み出したかったんだと思う。でも全然踏み出せなかった。ただ私を親の呪縛から汚い形でもさ、スッと押し出してくれたことが、私の支えになったのかもしれないなって。そのトリガーが安佐川君だった」


「まぁ、人生を楽しめない不器用な飛べない鳥だよな、俺たち」

 

 人生は何があるかわからない。

 モブの俺と輝く桜葉さんがなぜ出会って、仲良くなったのか。

 その共通項は人生というクソなものに悩まされているってことで。

 お互いにただ話せる相手が欲しかっただけかもしれないわけで。


「安佐川君じゃなくても、友達になってたかもしれない……とは思うけど。皆楽しんでいるように見えるのが羨ましかっただけでさ。あっ、私みたいに苦しんでいる人もいるんだと思えたのが、やっぱり大きいと思う」


「本当にバカ騒ぎしてる奴見るとそう思うよな。ま、そいつらも隠してるのかもしれないけどさ。時々、何も考えてない馬鹿に出会うとめっちゃ腹立つ」


 なぜ、そんなに何にも考えないで生きているのか。未来のことを考えて不安にならないのか。色々と他人に思うところはある。俺と桜葉さんもそうだった。

 結局は、自分が一番悪く見えて、他人が輝いて見えるのが人生なのかもしれない。


 


「本当そう、よね。あっ、そういえば」


「そういえば?」


「喋り方ってどうするのが正解?」


「桜葉さんがどうなりたいかじゃない?」

 桜葉さんは、洗われて真っ白になったパレットにまた色をのせようとしている。

 封印されてすっかり変わってしまった自分を思い出す。そしてアップデートする。

 桜葉さんは進んでいこうとしている。俺とは違って、立派だ。



「私としてはいつも大人びたというか、安佐川君が言う清楚な感じ? を意識してたけど。でもフランクの方がいいんでしょ?」


「まぁ、そっちの方が絶対いいと思う。話しやすくなるしな。結局は、桜葉さんの好きな方でいいと思うけどさ」


「私としては自由に喋りたいと思ってたから……徐々に変えていこうかな」

 桜葉さんは封印された自分から、抜け出そうとしている。今は、キャラは迷走しているけどしょうがないよな。

 でも、桜葉さんが自由に羽ばたけたら、それはまた違う美しい少女になるだろう。前よりもよくなって。


「うん、それでいいと思う。カラメルもあんなフランクな感じだから仲良い人多いわけだし」


「なんか唐沢さんみたいにならないかな?」


「それは大丈夫でしょ。十人十色だよ」

 きっと、桜葉さんには桜葉さんの個性がある。どこかしら似てるところがあっても、桜葉さんには桜葉さんの良いところが出るだろう。


「そっか、じゃあ改めてよろしくね」


「おう」


 と話してばっかりだなと思ったので、


「そういやクレーンゲームの他にやりたいのあるか?」

 と問いかける。





「じゃあ、あれ」

 と桜葉さんが指したのは、






「……………………プリクラか」


「あれっ、嫌?」


「嫌ではないけど、なんかあれって陽キャラが行くところというか、可愛い女の子が行くというかさ。なんかいつも恐ろしく感じるんだよな」


「そうなの? 私は、なんかよく皆話しているの聴こえるからどんなのかなって」


「あーなるほど。女の子は特に好きだもんなぁ。よし、やるか。やろう!」

 安佐川斗真、17歳。美少女とのプリクラに挑戦。


「いいの?」


「ま、せっかくだし思い出作りってことで」

 これが尽くしたいって気持ちなのかな。なんかめっちゃわかる。

 パパ活とかは将来やらないように気を付けよう……

 危険な匂いしかしない。



 というわけでプリ機に向かう。気持ちだけは戦場に向かう兵士だ。


 


「なんか証明写真撮るみたいだね」


「まぁ、写真は撮るから、それはあながち間違ってはないんだけど。適当になんかタイミングを合わせて写真撮ればいい感じになるって感じかな。」


「詳しいね?」

 桜葉さんが疑惑な目を向けてくる。


「まぁ、昔は家族で撮ることもあったしなぁ。時々ご当地とかイベントとかで特別なのがあるんだよ。あとカラメルもこういうの好きだからなぁ。俺は渋るけど、祐樹もノリノリだし」

 

 いつもはカラメルが引っ張っていく感じだが、今回は俺が引っ張っていかないといけない。そこが最難関だ。


「へぇ?」


 いやいや怖いっ、怖いって! 2人に付き合ってるだけだから! 話せばわかる!




 


「ま、まぁとりあえずお金を入れるな?」


「ふむふむ」


「まずは背景を選んでねっ!」

 と、いきなり音声が流れた。いつも思うけど。男にこのプリクラの音声のテンションさ、男には絶対合わないよな。


「背景?」

 桜葉さんが興味津々にしている


「まぁ、後は音声に従ってやるだけだから簡単だぞ。日本人の得意なことだ」

 

言われたことは遂行する日本人の得意分野。だからこそ、有象無象ばかりなのだが。


「なんかそれは闇が深いけど……」

 と桜葉さんには若干キモめの目を向けられたが、気にしないでおこう。


「まぁ、今回はなんでもいいか。普通に白でいいや」


 と背景を選択すると、


「次は人数などを教えてね!」

 


 いやお前はマジで何様なんだよ。そうズカズカと俺の領域に入ってくるな。


「2人ですっと。うん? どういう関係性かって」


 人数を入力すると急に爆弾が飛んできた。 

 やられた! 

 この爆弾質問があったんだ!


 何か気まずくなるんよな、こういう質問。カップルは大丈夫だけど、単に男女2人とかだったら気まずいだろ。


「えーとまだ仲良くなり始めたから、親友ほどではないかしら……友達? 仲間? 友達にしても、うーん」


「そんな細かく考えなくていいから! 最近は多様性とか、色々大事だけど!」


 最近は色々多様性というものを意識するようになったけど! 

 

 友達を選択をすると、

 


「じゃあ行くよー? ポーズをとって準備してねっ!」

 だから、いったい何様なんだ君は。


「ポーズ⁉」

 桜葉さんが急に焦り始めた。この光景も珍しくて可愛らしい。


「大丈夫だ。案外シャッターが切られるまで長いから」

 心構え3回ぐらいするからな、これ。

 まだか、まだかと思ってやっと来る感じ


「えっ、どうしよどうしよ」


「なんか指ハートとかそういうのやっておけばいいんじゃない?」

 と無難に知ってるポーズを教える。


「何、それ?」


「なんか女の子が流行りでやる奴、色々あるじゃん? あっ、でも桜葉さんがわかるはずないよな……」


「なんかめっちゃ馬鹿にされた気がするんだけど。むしろなんで安佐川君が知っているのかわかんないけど」


「カラメルは俺にとっての指標というか、流行の情報源だからな。あいつみてりゃわかる」

 あいつマジで流行という波に全て乗るからな。サーファーなら金メダル間違いなし。




「ふーん」 

 どういう感情⁉ カラメルがただ絡んでくるだけだから! 俺は悪くない!




 ただここでポーズをとる勇気はなく、無難にピースをして撮影は終了。ハートはチキン、名古屋コーチンでした。


「落書きタイ―ㇺッ! オシャレに加工しよう!」

 

 だから何だこのハイテンション。バラエティー番組の1コーナーか。


「えっ、これが噂の?」

 まぁプリクラの醍醐味っちゃ醍醐味よな。


「まぁ、こうやって加工するんだよ。制限時間あるから気を付けてな」


 まぁこの制限時間があるから、キャッキャ、ウフフと盛り上がるんだけどな。それに制限ないと独占しちゃう子もいるだろうしね。


「うわっ、写真見ると改めてきついな……」

 と不意に現実を突きつけられたが、


「人間顔だけじゃないと思うよ。まぁ、顔のおかげで得することも多いけど、その分色々迷惑というか面倒くさい感じ」

 と桜葉さんがフォローを入れてくれた。まぁ、でも


「それ、綺麗な人が言うと嫌味だからね?」


 と俺が言うと、桜葉さんは気まずそうに


「えっ、あっいやそうか、うん。ごめん」

 と答えた。


「全然大丈夫だ、もう慣れた。てか加工しなくていいのか?」

 今のは言うべきじゃなかったと反省しつつ、とりあえず話をすり替える。


「うーん……でもこのままの方が良くない?」


「それじゃただのツーショット写真だよ」

 プリクラとは。



「どんな感じで加工するの?」


「まぁ、よくあるのは目とか? 大きくしたり、綺麗にしたり」

 よく女の子のアイコンとかで見る奴だ。


「うわっ、禍々しい。本当にこんなのがいいの?」

 禍々しいって。初めてだわ、プリクラで禍々しいって。女の子がいうことでもないでしょ、


「それ、他の人に言っちゃだめだよ。全女子から反感買うからな」

 恐らく孤立してしまう。帰り道に襲われてもおかしくない。デンジャラス。



「男の子って、こういう加工する方がいいの?」

 と桜葉さんが問いかけてくる。


「……男はそりゃすっぴんがいいけど! 男子と女子じゃ、境遇違うから言えないけど!」

 カラメルにはボコボコに言われたけどね、これ。

 女の子の武器なんだよ、とかこれが可愛いじゃんとか。

 そりゃ見事に論破されました。


「そういえば私たちの学校では化粧禁止だったよね」


「まあ、どうかとも思うけどなぁ。でもしてる人も多いし、あってないようなものじゃない?」

 桜葉さんに言われて思い出したが、俺らの学校は化粧禁止だった。

 俗にいうブラック校則なのかもしれないが。


「同じ性別でも分からないことだらけだわ……私は普段容姿とか、写真移り? みたいなの気にしないから」


「本当にそれ誰にも言っちゃだめだからね。いや本当に。いくらキャラ変わっても、めっちゃ言いたくなっても、本当だめだからね」

 

 無知で無自覚な美人は恐ろしい……

 桜葉さんとのデート? はまだ続く……


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