【第一部】第三十七章 再び会得せよ! <肉体活性>

「何? 見せつけてるの? そんなに私を怒らせたいの?」

「わっちらの間にエリスの入る余地はないでありんす!♪」

「にゃはは! こればっかりはゆずれないにゃ♪」


 エリスと稲姫イナヒメ琥珀コハクが互いに火花を散らす。


 アレンのお茶を持つ手が震える。


「そ、そろそろいい時間だし、昼にしないか?」

「そうだな。腹減ってきたわ」


 アレンが昼飯を提案すると、カールが乗ってきてくれた。


「まぁ、そうね。過去のことだしね……」

「お昼は何でありんすか?」

「賛成にゃ!」


 女子3人も賛成してくれた。――エリスの返事は微妙だけど。


「せっかくだし、外食しようか」

「でも、昨日襲われたばっかだしな……」


 そうだったな。仮面の集団に襲われたばっかだったな。


「じゃあ、食材を買って来て料理してあげようか」

「うちも手伝うにゃ!」


 エリスと琥珀が料理を申し出てくれた。それは嬉しいが――


「俺も少しはできるから、手伝うよ」


 アレンも含め、三人で料理をすることに。



「じゃあ、買い出しに行きますか」


 

 寮を出て近くの量販店に向かう。


「わぁ、ご主人! お魚買っていいにゃ?」

「わっちはお米っぽいこれがいいでありんす!」


 琥珀と稲姫が活気づく。ちなみに、琥珀の服はエリスが貸してくれた。さすがに着物だと目立つからな。それと、耳としっぽは隠してもらった。


「ち、小さいにゃ……」と、服を着た琥珀が苦しそうに胸元を押さえたのにはエリスが額に青筋を立て、すごくヒヤヒヤした。今度、琥珀にも服を買ってあげないとな。


「そうだな……きちんと琥珀の歓迎会をできてないし、好きなの買っていいぞ」

「ご主人大好きにゃ!」

「あ、ずるい! わっちも!」


 二人がアレンの腕に抱きついてくる。


「さっさと済ませるわよ? 襲撃者だっているかもしれないんだから」


 ツンとしたエリスにうながされ、アレン達も買い物カゴに品物を入れていく。


「で、何作る?」

「そうねぇ……」

「うちは稲姫ちゃんリクエストのお米料理とお魚料理を作るにゃ♪」


 アレン、エリス、琥珀が献立を相談する。琥珀には希望通りの料理を任せることにした。


「じゃあ私はお肉料理をいくつか作ろうかしらね。――アレンはこっちを手伝う?」

「いや、前菜でも作ろうかなと」


 三人別々になったが、それぞれ作りたいものを作ることに。材料をカゴにつめていく。


「……っ」


 会計時の金額に冷や汗が出たが、琥珀の歓迎会でもあるしと割り切ることにした。



 買い出しを終え、再び寮内。アレンの部屋にも簡単な調理器具はあるが、足りない分はエリスが自室から持ってきてくれた。


「むぅ……おかまが無いにゃ」

「アウトドア用の簡単なものならあるぞ?」


 アレンは押し入れから釜を取り出し、琥珀に渡す。


「これでお米が炊けるにゃ♪」


 琥珀が嬉しそうに受け取り、近くにいた稲姫も喜んでいた。



――さて、料理の開始だ!


 料理の間、カールと稲姫はテーブルや椅子、食器の用意をしてくれた。例のごとく、足りない椅子は近くのカールの部屋から持ってきてくれていた。



 やがて料理が済み、それぞれがテーブルに運ばれていった。



「わぁ……」


 稲姫が目をキラキラさせながら料理を見渡している。特に琥珀の作った米料理――山菜の炊き込みご飯に視線が釘付けだ。しっぽが可愛らしくふれている。


「じゃあ、頂きましょうか」 


 エリスの合図で、それぞれが食事を開始した。



「美味しいでありんす!」

「ほんと、こんなにおいしいお米料理は初めてよ」


 稲姫とエリスは山菜の炊き込みご飯を――


「しあわせにゃあ♪」


 琥珀は鶏肉と野菜の煮込み料理、それと焼き魚を――


「おお、ステーキうめぇ!」


 カールはいい感じにミディアムで焼かれた分厚いステーキを――


「さすがだな、うまい!」


 アレンはすべての料理を皿に取り、絶賛していた。


 好物の後はみんながそれぞれの料理を食べ出し、話題に花を咲かせていると、そう間もなく料理のほとんどを平らげた。



「あ~、しあわせにゃ~♪」


 琥珀もこんなに喜んでくれて、よかったよかった。


「そう言えば、琥珀は今までどこにいたんだ?」

「うちはカエデちゃんのところにいたにゃ。そしたら最近、稲姫ちゃんの懐かしい気配を感じて、ここに駆けつけたんだにゃ」


「じゃあ、楓も近くにいるのか?」

「う~ん、別の大陸だから近いって訳でもないにゃ」


「え? そんな遠くからどうやって」

「走ってきたにゃ♪」

 

 『ぶーっ!』と、カールが思わずお茶を吹き出した。


 横を向いてから吹いたので料理や俺らに被害が無いのが幸いだった。「汚い!」と言われながらカールが床を掃除する。


「ちょ、いくらなんでも無理だろ!」

「でも、琥珀の身体能力はずば抜けてるからなぁ」

「そうね……」


 襲撃者をコテンパンにしたあの身体能力ならあり得るのかもしれない。


「琥珀の能力って、確か……<肉体活性>だったよな?」


 琥珀に会って蘇り始めた記憶を探りアレンが琥珀に聞く。


「そうにゃ♪」


 琥珀が嬉しそうにうなずき、続ける。


「うちの一族の固有技能みたいなもので――厳密には、他にも使える種族はいるんにゃけど、気をコントロールして肉体の能力を大幅に向上させるにゃ」


「それって武技とはどこが違うんだ?」


 カールが興味を持ち、話に入ってきた。


「武技っていうのがわからないにゃ」

「そうだな。琥珀は武技を知らないもんな……今の俺にも<肉体活性>、使えるかな?」


 昔は使えたはずだ。蘇った記憶にもうっすらとある。だが、今の俺に使えるかどうか――


「きっと大丈夫にゃ♪ 試してみるにゃ」


 そう言うと琥珀は、どこから取り出したか、手のひら大の石をアレンに手渡してきた。



「これは?」

「投擲用に持ってた石にゃ。これを握って割ってみるにゃ」


 琥珀が自分の手をにぎにぎしてみせる。


「……」

「いやいや、無理でしょ!」

「ちょ、やめとけアレン! ケガするぞ!?」


 エリスとカールが必死に止める。まぁ、気持ちはよくわかる。稲姫もどこか心配そうに見ていた。琥珀は俺ができると信じ切っているな……。


「危ないと思ったらやめるよ」


 そうして、アレンは床に敷物しきものをして――


「まずは普通に握ってみるな?」


 にぎにぎ……うん、ビクともしない。


「じゃあ、次は<肉体活性>を……」


 アレンは目を閉じ集中する。自分に繋がる糸を手繰り寄せるように――細いが、その糸からは懐かしい気配を感じる。そこから力を取り出す感覚で、繋がりを太くしていく。


 気の流れを感じる。自分の――そして自分を取り巻く周囲の。そうか……この<肉体活性>は、自分の内部だけでなく、周囲の気も取り込んで操作するのか。――そりゃあ、強いはずだ。


 今までは周囲の魔素の存在は感じられても、気まではわからなかった。でも今は、はっきりとわかる。


 アレンは目を開け、石をつかむ自分の右手に気を集める感じで集中する。すると――



 目には見えないが、周囲の気が集まって自分の右手に収束するのを感じる。


 右手が気により強化されたのがはっきりとわかった。そのまま石を握り込むと――


――派手な破砕音を鳴らし、アレンの右手の中で石が易々やすやすと砕け散った。



「お、おお! ほ、本当にやりやがった!」

「あ、アレン! 手! 手はケガ無いの!?」

「やったでありんす!」

「にゃはは! ご主人との繋がりは感じてるから大丈夫だと思ってたけど、無事に思い出してもらえてよかったにゃ♪」

 

 皆が笑顔で集まってくる。よかった……また一つ、俺は過去の力を取り戻せたようだ。



――こうしてアレンは、<神託法>により琥珀の<肉体活性>を再び会得した。


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