【第一部】稲姫の記憶編 幕間【一】昔の自分を知る
「
そう考えると頭が痛み、思わず額に手を当てる。何か大事な事を思い出せそうな――
『あたしと一緒に逃げましょう! 大丈夫、<
アレンはハッとなり両目を見開く。……思い出した。あの子――金髪碧眼の少女も俺のことをそう呼んでいた。
エリスとカール、そして稲姫が心配そうにアレンを見ていた。
「大丈夫だ。……思い出したよ。確かに俺は昔、カグラと呼ばれていた」
「でも、この辺りじゃあまり聞かない名前よね?」
「ああ」
エリスとカールからしても珍しい名前のようだ。カールがアゴに手を当てながら考え込んでいる。
「さっき、
カールが稲姫の方を向き、そう問いかけた。
「言ったでありんす」
「ちょっと聞いたことがある気がするんだ。すまないが、少し待っててくれ。部屋から取ってきたいものがある」
そう言ってカールが部屋から出ていってしまった。
◆
長くなりそうなので、同じ部屋内でだが、場所を移動することにした。だが、四人がつけるテーブルや椅子が無い。
アレンと稲姫はベッドにこしかけ、エリスは椅子に座っていたが、アレンは押し入れから、夜営用の簡易テーブルを出してきて設置する。
椅子はちょうど四人分あった。設置している間、エリスが紅茶と焼き菓子をみんなの分、用意してくれた。
自分用だったため、あまりいいものは部屋に置いてなかったから、みんなの口に合うかが心配だ。
「うまい」
エリスの入れてくれた紅茶を飲むと、うまさに驚き、思わずそう口に出してしまう。
今までに自分で用意したものとは隔絶した味の差だ。同じ茶葉を使ってるのに……。
「口に合ってよかったわ。お湯の温度とか入れ方でだいぶ変わるのよね」
そう言ってエリスも口に含む。
「――むぺっ」
稲姫も飲むが、紅茶は苦手だったみたいだ。思わずという感じでむせてしまっている。
エリスとアレンは顔を見合せ苦笑いし、エリスは冷蔵庫から、果実のジュースを取ってきて稲姫に入れてくれた。
稲姫は「ありがとう」とお礼を言い、口をつける。今度は口に合ったようで、嬉しそうにゴクゴクと飲み干していく。しっぽがパタパタしてて可愛らしい。
「それにしても、アレンの幼馴染み、ね……」
ふと、エリスがぼそっとつぶやく。いつもより目付きがすわった感じで稲姫を見ている。
稲姫の方もエリスの視線に気づいたのか、「ふふん!」と自慢げだ。エリスと稲姫の視線が交錯し、一瞬、『バチッ!』という擬音が聞こえてくる錯覚を覚える。……アレンは、少し居心地が悪くて縮こまった。
「待たせたな。見つけてきたぞ」
カールが本を脇に抱えて戻ってきた。
――ナイスタイミング!
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