【第一部】稲姫の記憶編 幕間【一】昔の自分を知る

神楽カグラ……それが俺の、前の名前か」


 そう考えると頭が痛み、思わず額に手を当てる。何か大事な事を思い出せそうな――


『あたしと一緒に逃げましょう! 大丈夫、<>はあたしが絶対に守ってあげる!』


 アレンはハッとなり両目を見開く。……思い出した。あの子――金髪碧眼の少女も俺のことをそう呼んでいた。


 エリスとカール、そして稲姫が心配そうにアレンを見ていた。


「大丈夫だ。……思い出したよ。確かに俺は昔、カグラと呼ばれていた」

「でも、この辺りじゃあまり聞かない名前よね?」

「ああ」


 エリスとカールからしても珍しい名前のようだ。カールがアゴに手を当てながら考え込んでいる。


「さっき、って言ってたよな?」


 カールが稲姫の方を向き、そう問いかけた。


「言ったでありんす」

「ちょっと聞いたことがある気がするんだ。すまないが、少し待っててくれ。部屋から取ってきたいものがある」


 そう言ってカールが部屋から出ていってしまった。



 長くなりそうなので、同じ部屋内でだが、場所を移動することにした。だが、四人がつけるテーブルや椅子が無い。


 アレンと稲姫はベッドにこしかけ、エリスは椅子に座っていたが、アレンは押し入れから、夜営用の簡易テーブルを出してきて設置する。


 椅子はちょうど四人分あった。設置している間、エリスが紅茶と焼き菓子をみんなの分、用意してくれた。


 自分用だったため、あまりいいものは部屋に置いてなかったから、みんなの口に合うかが心配だ。


「うまい」


 エリスの入れてくれた紅茶を飲むと、うまさに驚き、思わずそう口に出してしまう。


 今までに自分で用意したものとは隔絶した味の差だ。同じ茶葉を使ってるのに……。


「口に合ってよかったわ。お湯の温度とか入れ方でだいぶ変わるのよね」


 そう言ってエリスも口に含む。


「――むぺっ」


 稲姫も飲むが、紅茶は苦手だったみたいだ。思わずという感じでむせてしまっている。


 エリスとアレンは顔を見合せ苦笑いし、エリスは冷蔵庫から、果実のジュースを取ってきて稲姫に入れてくれた。


 稲姫は「ありがとう」とお礼を言い、口をつける。今度は口に合ったようで、嬉しそうにゴクゴクと飲み干していく。しっぽがパタパタしてて可愛らしい。


「それにしても、アレンの幼馴染み、ね……」


 ふと、エリスがぼそっとつぶやく。いつもより目付きがすわった感じで稲姫を見ている。


 稲姫の方もエリスの視線に気づいたのか、「ふふん!」と自慢げだ。エリスと稲姫の視線が交錯し、一瞬、『バチッ!』という擬音が聞こえてくる錯覚を覚える。……アレンは、少し居心地が悪くて縮こまった。


「待たせたな。見つけてきたぞ」


 カールが本を脇に抱えて戻ってきた。



――ナイスタイミング!

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