【第一部】幕間――失われた記憶――

――それは失われた記憶

 持っていたはずの記憶――



 優しい人達に囲まれていた。


「―――、すごいぞ! お前は私達のほこりだ!」

「きっと―――は神様に愛されてるのよ!」

「この子は神童しんどうじゃ! 将来が楽しみじゃのぅ」



 燃え盛る炎。劣勢ながらも抗戦する仲間達。響き渡る怒号。無遠慮な闖入ちんにゅう者達により森に火が放たれ、味方が地の利を失い数の暴力に飲み込まれる。


 

「な、何だこいつは――」

「ば、化け物……」


 少年と接敵した敵兵は漏れなくかばねへと成り果てる。



――蒼い炎を纏う拳に触れた者は忽ち燃え尽き

――蹴りをくらったものは、その異常な脚力で骨ごとへし折られ

――距離を取る者は、少年の意思の下周囲を縦横無尽に飛び交う水刃に斬り刻まれた。



「やぁ、君は面白いね。僕とどっちが強いかな?」


 奇怪な仮面をつけマントを羽織る者が悠々と歩み寄ってくる。仮面で隠され表情は確認できないが、声音からは紛れも無く“喜悦”が読み取れた。


 

 そこは白く四角い建物だった。

 “S―03”と書かれた札を胸元につけられた。

 白衣の中年男性が言う。


「いいかい? 今日から君はここで暮らすことになる。ルールには従ってもらうよ?」


 “S―02”の札をつけたが言う。


「あたしは――――、よろしくね!」



「博士、S―03はもう駄目です。力を吸い出しすぎたせいか、まともな力も残っていません」


「ん~? ああ、はもう不要です。出涸でがらしですからね。念のため記憶の消去をし、適当なタイミングで“素材部屋”にでも送って下さい」



「あなた、このままだと処分されちゃうわ。

 あたしと一緒に逃げましょう!

 大丈夫、―――はあたしが絶対に守ってあげる!」



「お、目が覚めたか坊主ぼうず

 ……お前、自分の名前も覚えてないのか?」


 おじさん――ルーカスは親切だった。生きていくために必要なことを色々と教えてくれた。そして、自分に“名前”もくれた。

 


「そうだな……これも何かの縁だろう。俺が名付けてやる。――、なんてどうだ? 姓は俺のデイビスで“アレン・デイビス”だ。どうだ、悪くないだろう?」

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