【ショートショート】つまらない映画

ウドンタ

第1話


「どうすれば面白い映画が撮れるのかな」

 それがカントクの口癖だった。

カントクは専門学校時代の友人だ。

 私は早々に夢を諦めてしまったが、彼は今でも自主制作で映画を撮り続けている。

 今でも彼をカントクと呼ぶのは揶揄ではなく、彼の直向きな情熱を尊敬しているからだ。

でも、カントクの映画はつまらない。

 そのつまらなさは凄まじく、ほとんどの人が冒頭五分で寝落ちしてしまうので誰も結末を知らないほどだ。無理に起きていようとするとそればかりに意識がいってしまい、結局内容に集中できない。

 カントク本人はいたって真面目な努力家である。古今東西の名作映画を網羅し、流行にだって敏感だ。最新のトレンドや技術を真っ先に取り入れる先見性と柔軟性を兼ね備えている。

 それなのにつまらない。絶望的につまらないのだ。

カントク本人もそのことを非常に気にしていて、心のコップがいっぱいになるとこうして私を安居酒屋に呼び出し、くだを巻く。

「どうすれば面白い映画が撮れるのかな」

 カントクは酔っ払うとこのセリフしか言わない。

 なんでも新作映画の上映会をしているのだが、客がほとんど入らないうえ、評判もすこぶる悪かったそうだ。

新作は自信があったようで、会場の後ろからと船をこぐ客を見るのが相当堪えたらしい。

 カントクはしばらくの間、ぶつぶつと同じセリフを繰り返していたが、酒が抜ける頃には比較的しゃんとしていた。

 上映会はもうしばらくだけ続けてみるそうだ。私は凹んでもへこたれない、彼の心の強さを尊敬している。

 帰り際、カントクは新作のソフトをくれた。タイトルが書かれているだけの簡素なものだった。

 早速観てみたが、冒頭三分で寝落ちしてしまった。新記録だった。


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