【ショートショート】ぼくはエクスカリバー
ウドンタ
第一話
「N大学商学部、山本エクスカリバーです」
ぼくがそう言うと、面接官の口角がぴくりとした。笑いかけたのを既のところで堪えたという感じだった。
「ええと、珍しいお名前ですね。失礼ですが、本名で?」
「はい。聖なる剣と書いてエクスカリバーと読みます」
ぷふっと面接官が吹き出した。つられて他の就活生もくすくすと笑い出す。
恥ずかしさで顔が熱くなった。頭がぐるぐるとしてきて、笑い声が遠くなっていく。
そこから先はあまり覚えていない。
山本エクスカリバー。エクスカリバーというのはどこかの王様が石から引き抜いた伝説の剣のことらしい。ゲーム好きの両親がつけたこの変な名前のせいで、ぼくの就職活動は散々だった。
面接で自己紹介をする度に場がどよめく。今日みたいに笑われたり、好奇の目に晒されると準備してきた受け答えが頭から吹っ飛んでしまう。
運良く名前に触れられなくても、不採用通知が来る度に名前のせいで落とされたのではと邪推してしまう。
こんな名前をつけた両親を恨んでしまいそうになるが、ネーミングセンス以外は大好きな父と母だ。なるべく悲しませたくないのでこれまで改名はしてこなかったが、そろそろ潮時かもしれない。このままでは一生就職できない気がする。
「誰でもいいから雇ってくれないかなぁ」
不毛な独り言を呟いていると後ろから声をかけられた。
「見つけたよ、エクスカリバー」
「えっ?」
いきなり名前を呼ばれて驚いた。振り返るとそこには奇妙な格好をした青年がいた。やたら大きな兜を被り、マントを羽織っている。ゲームか何かのコスプレだろうか。
「伝説は本当だったのね!」
「こっちの世界まで来たかいがあったぜ!」
トンガリ帽子を被った少女と筋骨隆々の大男が嬉々として言い合う。
突然の出来事に戸惑っていると、青年はぼくに手を差し伸べて言った。
「聖剣エクスカリバー。魔王を倒すべく、その力を貸してくれ」
青年は異世界の勇者だった。一緒にいたのは魔法使いと戦士らしい。
彼らは魔王を倒す力を秘めた聖剣、エクスカリバーを求めてはるばる異世界からやって来たのだという。
何を馬鹿なことをと思ったが、実際に異世界の道具や魔法を見せつけられてしまうと信じざるを得なかった。
「それで、ぼくに何の用ですか」
「ともに魔王と戦って欲しい」
勇者はぼくの目を見据えて言った。
「む、無理ですよ。ぼくは喧嘩すらまともにしたことがなくて」
「しかし、きみはエクスカリバーだろう」
「そうですけど……というか、そもそもぼくは人間なので、剣じゃないんです」
「きみが人間だとか剣だとか、そういうのはどうだっていいんだ。きみがエクスカリバーかどうかが大事なんだ」
勇者の論理は滅茶苦茶に思えたが、魔法使いと戦士はうんうんと頷いている。異世界ではそういうものなのかもしれない。
「頼むよ。きみが必要なんだ」
勇者はバッと頭を下げると、残りの二人も慌ててぼくに頭を下げた。
こんなにも必要とされたことがあっただろうか。ただでさえ就職活動が上手くいかず、自己肯定感が低くなっていたので、たとえ訳のわからない理由であれ、求められることが嬉しかった。
どうせ就職活動は上手くいっていないのだし、これがぼくの天職になる可能性だってあるじゃないか。
「インターンでもよければ……」
勇者はインターンを知らなかった。
続く
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