うろ覚え・裸の王様

「裸の王様のお話って、最後どうなるんだっけ?」

「裸の王様って、あの童話の?」

「そうそう。主人公が暴虐な王様に処刑されそうになるけど、妹の結婚式があるからって言って親友を人質に置いていくやつ」

「違う! それ違うお話混ざってる!」

「処刑されるのは自分なのに、親友を身代わりにするなんて、そんな最低な奴はその場で処刑されればいいのに」

「危ない! お前の思想が危ない!」

「それで期限までに戻ってくるんだけど、そしたら出迎えた王様が全裸で、『ばか者には見えない服を着てるんだ!』って言い張るけど、でもどう考えても全裸なんだよね」

「なんかお話戻ってきた!」

「俺たちも地球に戻ったら、裸で船から降りて、『透明な宇宙服を着てるんだ!』って言い張ってみようか?」


 その冗談は彼なりの精一杯の強がりなのだと、私は気がついた。私たち二人は観測任務を帯びた宇宙船の乗組員で、任務が始まった直後、地球では疫病やら戦争やらが起きて、あっというまに人類はほぼ滅びてしまったらしい。その知らせを最後に交信は途絶えた。おまけにこの宇宙船の操縦は大半が自動化されていたせいで、任務を中断することも叶わなかった。

 けれどもうすぐ予定の帰還の日が来る。宇宙船は自動操縦で、出発したのと同じ滑走路に着陸することになっている。

「そうだな。久しぶりの地球なんだ。『ばか者には見えない宇宙服』も悪くない」

 そのとき地球には、私たちが裸だと指摘する子どもはもういないかもしれない。

 あるいは、いるかもしれない。

 だからその子どもたち——災禍を生き延びた子どもたち——のために、裸の王様を演じてみようと私は考えた。

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