猫は我輩である

 すべての猫は我輩である。

 そう語る不思議な友人がいた。学生時代のことだ。


 その友人曰く、自分は自己の意識を猫という種そのものと融合させたから、既にこの世のすべての猫は吾輩なのだ、ということらしい。

 その友人は、普段から一人称が吾輩だった。とにかくそういう友人だった。

 トラやライオンは、彼が自己の意識を融合させた猫の範疇に入るのか、少しだけ気になったが、質問をしたところで無意味だろうという予感がした。

 代わりに僕は、「猫の言葉は話せるのか?」と訊いてみた。

「にゃー? にゃーん? にゃにゃーん! うみゃみゃうみゃあにゃぁー!」

 それは何ともいえない猫の鳴き真似だった。あるいは、本当に猫の言葉だったのかもしれない。

 

 結婚して数年経ったとき、妻の発案で猫を飼い始めた。僕も元々猫は嫌いではなかった。しかし家に猫がいるようになってからというものの、あの学生時代の不思議な友人の顔が脳裏に浮かぶようになってしまった。

 ある日、居間のソファで寛ぐ我が家の猫に向かって、僕は話しかけてみた。

「にゃー? にゃーん? にゃにゃーん! うみゃみゃうみゃあにゃぁー!」

 我が家の猫は、まるで真夏の道端に捨てられたタバコの吸い殻でも見るような視線を僕に向け、それからそのままソファの上で寝入ってしまった。

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