第25話 蒼き龍
いつぞや、朱加に連れ去られた時に包まれた
(まるで藍影様のようだわ)
藍影に抱きしめられていることは恥ずかしいが、もうしばらくこの水に浸っていたいと紅玉は思う。覚えてはいないが、母の胎内にいるような安心感があり、とても落ち着く。
しかし、終わりは突如、訪れるものだ。体を包む水が霧散したと同時に、浮遊感に襲われた。
「き」
——落下していた。遥か上空から、紅玉は落ちていた。ゆるく結んだ髪がばさばさと上に広がり、下から吹き上がる強風によって全身が撫でられ、揺すぶられる。
喉が叫んばかりに紅玉は叫んだ。今までこんな大声出したことがない。酷使したことのない喉はそれだけで悲鳴をあげる。
藍影からもらった腕環を落とさないように抑えながら、紅玉は藍影の太い首にしがみつく。
くつくつと耳元で誰かの笑い声が聞こえた。いつもより低音の声に一瞬、誰だかわからなかったがすぐにそれが藍影のものだと理解した。
「安心しなさい。大丈夫だから」
背中を優しく叩かれ、紅玉は恐る恐る顔を上げた。高い青空が広がっていた。周囲には綿をちぎったような雲が浮かび、その下では鳥達が気持ちよさそうに飛んでいる。
紅玉は、その美しい光景に思わず吐息をもらした。落下の恐怖心は無くならないが、藍影が側にいるだけで不思議と安心してしまう。
「下を見てごらん」
覚悟を決めて下を見る。深い緑が広がっていた。降り注ぐ陽光の元、生き生きと枝を伸ばし、風に吹かれて葉が揺れている。よく目を凝らすと森の中、豪奢な殿舎と町のようなものが見えた。人が行き交っているのが分かる。
「ここが春国だよ」
藍影が耳元で囁いた。
「あの水の御殿は私が作り上げたものなんだ 。私の気が水だから、水に囲まれたほうが活動しやすいんだ」
藍影は地面を指さした。
「水の御殿には百を超える鳥居があり、その各々が春国とつながっている。君がよくいく庭園もその一つだ」
「ここが春国……。綺麗ですね」
そうこう話してる間にも二人の体は落下していく。 先ほどよりも地面が近くなり、地形がよくわかるようになった。さすがに紅玉も焦りを覚えた。
「あの、大丈夫ですか」
「大丈夫さ。見ててごらん」
そう言って藍影は蠱惑的に笑った。紅玉の腰を支える手を離し、瞼をを下ろす。何やら集中しているようだ。
けれど、紅玉には支えがなくなったことで不安にかられ、藍影の首に力いっぱい抱きついた。
「私が側にいる」
その直後、藍影が安心してと言った理由がわかった。 陶器のようなまろやかな肌に鱗のような紋様が浮かび、徐々に白色から水色、水色から青へと変貌していった。額からはこれまた青い角が生え、美しい
「私は青龍帝。人間の血を引こうともこの姿が私の真の姿だ」
美しい青い龍は背中に乗った紅玉に問いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。