笹山家と姫のありふれた日常

紫陽花の花びら

第1話 ここです!

 さあて、どこから話そうか。

私は大牟田で生まれ……大牟田?

九州の福岡最南端だとかで。

母親からは生まれて2カ月で引き離された。そしてとある場所に連れて来られた。

 記憶の最初は、寒くて寒くて死にそうに寒かったのを覚えている。哀しいよ母親を覚えてないなんて。

 私はウェスティ。正式名は、

ウエストハイランドホワイトテリア。長いよね。だから縮めて、

「ウェスティ」て呼ばれている。

ウェスティは本来ダブルコートだから寒さには強いは強いらしいけど。まだまだ赤ちゃんだったから辛かった。

  とあるペットショップに来て少し経った頃、私のケースに何かペッタンと貼られた。

そしたら私を見に来る人が急に増えた。それまで全く人気なかったのにね。だから知らん顔してずっと寝てた。

 でも、その朝は違った。

なんかざわざわしていた私の心……何故かな? お昼過ぎ中年の夫婦がお店に入ってきた途端、

私の体は勝手に動いて……ケースの中でジャンプの連続。吠えてジャンプ吠えてジャンプの繰り返しをしてた。

すると入ってきた女の人が駆け寄ってきてケースに顔が付かんばかりにへばり付いて何やらブツブツ言っている。

お店の人はいつもより笑顔で答えていたし、私もここはやるべきと猛烈アピールしたのを覚えてる。

終いにはお店の人も大笑いしていたけど。

*****

「お父さん! この子だ! ネットで見た子……ほらほらねっ。

凄いジャンプ! 可愛い~ すみません! この子ネットでセールってあった子ですよね」

「はい! 格安ですよ! 今だけですから」

男人がボソッと言った

「抱かせて貰ったら」

「わたし? わたし抱けるなか」

女の人は消毒して、ケースから出された私をを抱いた。

 女の人は生まれて初めての感触らしくちょっとぎこちない。

「この子があんなに騒いだのは、このお店に来てから初めてなんですよ。私たちも驚いちゃって」

男の人は冷静だった。

「何故セールなの? まだまだ値下げするには早いんじゃない?」

「まぁ、月齢的には早いんですが、規格外なんですよ。この犬種は体型がスクエアではないと、正規品種にはならなくて、見ておわかりの通りこの子は長方形なので、耳も少し長いんですよね。顔は可愛いんですけど。あっ目の色も茶がかかっていますでしょう? 真っ黒じゃないとだめなんです。

だから早め手を打たないと可哀想なことになるので……」

「なるほどね。難しいんだな。店には店の理由があるんだ。なぁ他の子犬も見てみようかぁ」

女の人から離されると私は大泣きした。

ふたりは取り敢えず二階から見ていくことにしたらしい。

私は思いっきり、

「私はここだから!ここだから!」と泣き続けた。




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