ゆうちゃんはよく頑張りました

 あるところに拳一つ分の身体がちっこい、子供のゆうちゃんがいました。

 ゆうちゃんは毎朝、自分の身体と同じくらいのタバコの吸い殻を転がしながら学校に持っていき、皆に見せびらかすのが趣味の変な子でした。

 今日も、いつものようにゆうちゃんはタバコの吸い殻をカラカラしながら学校に歩いていきます。歩く速度を遅くしたり、早くしたり。たまにはジャンプをしてみたり。左から風が吹けば吸い殻を右へカラカラ、右から風が吹けば吸い殻を左へカラカラ、正面から風が吹けばタバコに抱き着いて一緒に回って目をまわしたり。

 毎度同じ道をカラカラしていたゆうちゃんでしたが、今日は道を変えることにしました。いつもは笹船を使って渡っていた水たまりをタバコで渡ることにしたのです。

 今日のゆうちゃんはとってもチャレンジャーでした。さすがのゆうちゃんも、タバコが水にぬれると、ストローみたいにしぼんでふにゃふにゃになることは知っていましたが、どうにかして渡ることができないか考えていました。そこで、一つ、ある妙案を浮かぶことに成功しました。それは、タバコの空き箱に乗りながら、タバコをパドル代わりに使うことはできないかということです。そして実際に試してみました。

 でも、やっぱりダメでした。タバコだけだと、無風状態ではすぐしぼんで使い物にならなかったのです。失敗して水たまりに浮かんだままのゆうちゃん。このままだと、空き箱と共に沈んで行ってしまいます。頭を落としてがっくりしているゆうちゃん。

 そんな折、かざ車を持った子供が水たまりの前まで歩いてきました。子供はゆうちゃんに問いかけます。

「あなたは、どうして水たまりの上で浮かんでいるの?」

ゆうちゃんはがっくりとうなだれたまま言葉をかえします。

「漕ぐものが沈んでしまって先に進めないんだ。このままだと沈んでしまうよ」

子供は、妙案を思いついたといわんばかりに、地面をたたき始めます。

「じゃあ、僕がこのかざ車で風を作って、空き箱ごと向こうまで送ってあげるよ」

 子供は、ゆうちゃんの返事を待つことなく、かざ車に息をふぅーっ、ふぅーっと送り続けています。かざ車はそのたびに、カラカラ、カラカラと音を鳴らし続けています。カラカラと音が鳴るたびに、空き箱は少しずつ静かに底へ沈んでいきます。ずずっとなるわけでもなく、ちゃぽんとなるわけもない。ただただ静かに、紙の繊維ひとつひとつに水は浸食していく感覚は、ゆうちゃんにとってどんな感覚だったでしょう。子供はかざ車を回すことに夢中で、ゆうちゃんに気付くそぶりはありません。

 子供の息の水分でかざ車の羽が湿り始めたころには、もうゆうちゃんの姿は、タバコの水たまりの中へ消えて行ってしまいました。


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る