第26話 薔薇姫の誓い 本祭③

「セレスティアーノ•ルーデンダルク様でございますか」

「えぇ」


改めて受付を済ませて舞台裏の椅子に座って待機した


薔薇姫候補の舞いを見ている人達を舞台裏からこっそりと覗いた


庶民は舞いを楽しむ

貴族は服装や宝飾品を見て誰に投票するかを見定める


貴族は名が知られた家の娘に投票をしてその後に家どうしの繋がりを深めようと考えることが多い


(貴族は打算的だな)


貴族の自分の地位を守るための打算的な思考には感嘆する


「逆にあの人はもう少し自分の地位の重要さを理解してほしいな」


王家に1番近い公爵家の当主のキルトの呑気な顔を思い浮かべた


自分から王の地位を降りるほど地位に興味が無いキルトが持っている地位は他の貴族からは喉から手が出るほど欲しい地位だ


「まぁ後の危険になりそうなら殺せばいっか」


「セレスティアーノ様」


そう呟いていたら名前を呼ばれて椅子から立って外套を脱いで舞台に向かった

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舞台には舞台裏から覗いた時とは比べ物にならないほど人がいた


セレスのドレスを見た貴族達は呆れたようなあざ笑うような顔をした


セレスの性格を知っているキルト達は笑っていた


薔薇姫の誓いは赤いドレスに様々な色の薔薇の刺繍と沢山の豪華な宝石を使ったアクセサリーが毎年主流になっていた


だがセレスのドレスは一言で言うとシンプルなものだ


マーメイドラインの黒色のドレス生地に青い薔薇の刺繍

レースや宝石がついて無いドレス

デマインドガーネットのピアス


デマインドガーネットは希少性が高くペリドットと間違えられることが多い


「黒のドレスと青の薔薇なんて……」

「唯一の宝石がペリドットとは可哀想だな」


好きなだけ言っていろ


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「今年は王家からの手紙来たんだね」

「できれば参加したくないんですけどね……」


薔薇姫の誓いの1ヶ月前に王家から送られた手紙の内容を見て嫌な顔をしていたセレスの顔を覗き込んだ


「参加するなら本気でやりますけど」


本気でやると言いつつ薔薇姫の誓いに参加したくないという表情が分かりやすいセレスの顔を見ていたキルトが思わず吹き出すように笑った


「なんですか?」

「いや すごい顔に出てたから」


キルトに言われて『そんなに表情に出てたかな』というように自分の顔を触っていたセレスの頭を撫でて椅子をセレスの横に移動した


「ドレスとかって決めてる? 何でも用意するからね!」


『任せて!』と言うようにグッドポーズをするキルトの言葉を聞いてセレスがドレスの案を伝えた


「白をベースにして赤い薔薇の刺繍をいれて、それから暖色の宝石で良い宝石言葉のやつを……」


そう言いながら紙にプリンセスラインのドレスを描きながら模様などを描き込むセレスの手にキルトが包むように手を重ねた


ペンから手を離してキルトの方を見たセレスにキルトが優しい眼差しで聞いた


「そのドレスと宝石は本当にセレスちゃんの望みのドレス?」


キルトの質問に少し口ごもって黙って下を向いた

黙ってしまったセレスの顔を両手で押さえて顔をキルトの方に向けた


「他に遠慮しなくていいんだよセレスちゃん」

「遠慮なんかしてな……」


セレスが言いかけた言葉を遮ってキルトは話を続けた


「私は君の父親なんだから好きなだけ甘えていいんだしわがまま言って良いんだよ セレスちゃんは本当はどんなドレスが着たいんだい?」


口を結んで黙っていたセレスがゆっくり口を開いて別の紙にペンを走らせた


「シンプルな黒ベースのドレスに青薔薇の刺繍で……」


そう言いながらマーメイドラインのドレスを紙に描き込んだ


「このドレスが良いです」


紙に描かれたドレスを見てキルトが微笑んだ


「黒いドレスと5本の青薔薇ね……セレスちゃんの白い髪がよく映えるだろうね!」


紙に描かれたドレスの横に三日月の形をしたピアスが描かれていたのを見つけてセレスに聞いた


「セレスちゃんこのピアスは何の宝石?」

「デ、デマインドガーネットです……」


目を逸しながらセレスの口から出た宝石の名前を聞いて驚いたキルトだがすぐに声を上げて笑った


「私の可愛い可愛い娘の頼みだから良いよ!」


そう言いながら紙を貰って仕立て屋と宝石商に特注しに行こうと立ち上がって部屋を出ようとしたキルトがセレスの頭を撫でた


「セレスとして好きに舞いなさい」

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あざ笑うような貴族に目を向けた

楽しそうな庶民の人達を見た

人混から少し離れた場所で見ているキルト達を見た


(薔薇姫に捧げる舞なんか無い)


演奏隊が演奏を始めた


他の人と違うピアノだけの演奏


黒のドレスと青い薔薇


他と違うからって何だ


ピアノだけの静かな雰囲気で月光を反射する白い髪と夜の闇に溶けて消えてしまいそうなドレスが不思議と目を奪う


大きく動かず静かに優雅に舞うセレスに段々と釘付けになっていく


目元を隠す仮面の隙間からたまに見える真紅の瞳と緑の宝石が夜の闇の中で浮かび上がるように月光で輝く


「ガラス細工みたいに繊細なようで底が見えないこの世の存在じゃないかのように綺麗だね」

「後でセレス様にしっかり感想を伝えてくださいね」


ピアノの音が段々と小さくなっていった

ただひたすらに静かに優雅にこの世の存在では無いかのような異様な存在感を放ったセレスの舞は残りわずかになった


(本物の薔薇姫は好きに舞うことにしたんだ! これが今の薔薇姫だ!)

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『雪の舞う中今年の舞は全員とても素晴らしかった

 この舞はきっと薔薇姫様もご覧になったことだろ    

 う』


セレスの舞が終わって1時間ほど後に薔薇姫の誓い2日目の閉幕式が行われた


薔薇姫の誓いで舞を披露したセレスを含めた9人が仮面を付けたまま舞台に立っていた


『投票の結果を発表する』


前口上が終わり投票で1番票を貰った人の名前が書かれた紙を広げた


『今年の薔薇姫の称号は最後に舞を披露したセレスティアーノ•ルーデンダルク!』


セレスの名前が呼ばれた瞬間貴族達はざわざわした


名前を呼ばれたセレスが舞台の前に移動した

王がセレスの隣に立った


セレスが仮面を取って王に渡して王はトロフィーをセレスに授与した


『これより薔薇姫の誓い2日目を閉幕とする!』

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「薔薇姫おめでとう!」


アレストとセレストが頭を撫でた

頭を撫で終わった2人がじっとセレスの顔を見た


「な、なんでそんなに顔見てるの?」

「なんかセレスいつもより大人っぽいと思ったから」


声を揃えながらの2人の言葉を聞いてセレスが声を上げて笑った

急に声を上げて笑ったセレスに2人が驚いた


「いやごめんその言葉サミさんにも言われたから」


笑いすぎて目に浮かんだ涙を指で拭いながら言った


「トロフィー持っとくぞ」

「ありがとう」


セレストがトロフィーを預かって

アレストがセレスの手を握った


「今日は疲れただろうし家帰って寝よっか」


家までの帰り道に少し出店に寄り道をして3人でサンドイッチを食べながら帰った

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