第16話 試合と暗躍
「そろそろ止めた方がいいんじゃないのか?」
ノルンが間合いをとって確実に重い一撃を叩き込む戦い方なのに対してゼーストは間合いを考えないで突っ込んで重い一撃を何度も叩き込もうとしている
ゼーストの拳をいなしながら時折ノルンが攻める
お互い疲弊してきていた
「2人とも疲れてきてるじゃん」
「ノルンちゃんは防ぎながらで疲れてきてるね。それとゼーストは始めの一撃が響いてるね」
ピラーサとアレストが会場の2人の様子を見ながら話していた
(流石に止めないとヤバいな)
少し目を瞑っていたセラスタが目を開けてお互い拳を振りかぶっていたノルンとゼーストの間に入った
「そこまで」
間に入ったセラスタを見てノルンはすぐに拳を下ろしたが、ゼーストは振り上げた拳をセラスタに向けて振り降ろした
「止めんなよ! また止めるのか!」
「悪いな」
今すぐにでも暴れだしそうなゼーストの腹を殴って大人しくしたゼーストを担いでカルエトに1のハンドサインを出した
『団長の中断により、1時間後に再開します!』
カルエトの言葉を聞いてノルンとゼーストを担いだセラスタが会場を後にした
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「1時間とは大分時間とったな? 何しようと思っとるんや?」
ゼーストを控え室に運んで控え室から出たら廊下にいたポルトが声をかけてきた
「ちょうどいいや。手伝え」
「面倒ごとは嫌いなんやけど」
「嘘つけ。着替えるからちょっと待ってろ」
「ほいほい」
着替えを終えて控え室から出たセラスタを見てポルトが引きつった笑顔をした
「お、お前……」
「護衛よろしくね」
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「ご機嫌よう。トント•マヴェッタ様」
「こ! これはこれはセレスティアーノ様! 体調は大丈夫でしょうか」
「えぇ。少々体調が良かったので見に来たのですが、ちょうど試合をやっていなくて残念です」
突然来たセレスに驚いていたが自分の服のポケットに何かを隠す仕草をしていた
セレスもポルトもその動きを見逃さなかった
「少々内密のお話があるので外で話しませんか?」
耳元でそう言われてトントがすぐに了承した
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「そ、それで内密な話とは」
「このブローチに見覚えはございますか?」
そう言ってブローチをトントに見せるとあきらかに動揺を見せた
「そ、そのブローチは! ストラス様の……」
そこまで言って慌てて自分の口を押さえた
「ストラス様?」
「し、知らない! そんなブローチ知らない!」
「今確かにストラス様と……」
「黙れ!」
セレスに詰め寄られて焦ったトントがセレスを殴ろうとしたがポルトに押さえつけられた
「悪いけどセレスに手ぇ出すんは俺が許さんで」
「ど、どけ! 私を誰と心得て……」
「あなたこそ誰に手を出すつもりだったのですか?」
地面に押さえつけられたトントを見下ろしながら冷たい視線を向けた
「お、お前ら! こんなことしてただですむと……!」
「あなたこそ私の国で悪事を企んでいるのならただですむわけないでしょう?」
座り込んでトントの顔を見ていたら横の茂みから小刀が飛んできた
ポルトが小刀を弾いた時にトントから手が離れてトントがその隙に逃げ出した
「た、助かった! 守ってくれ!」
茂みからぞろぞろと出てきた人は武器を持っていた
セレスを守るようにポルトがセレスの前に立って剣を構えた
「俺1人で対応するのキツいんやけど」
「頑張れ〜」
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「はぁ……はぁ……こ、ここまで逃げれば!」
「ここまで逃げれば……どうなるのですか?」
膝に手をつきながら荒い呼吸をするトントの前に立ってセレスが聞いた
「少々大人しくしてくださいね?」
セレスが指を鳴らしたらトントの体が縛られたようになった
「これはなんだ!?」
「秘密です」
体をよじるトントにセレスは人差し指を口に当ててそう言った
「失礼しますね……っと」
セレスの魔力で動けなくしたトントの服のポケットを探ったセレスが1枚の紙を取り出してトントに見せた
「これには何が書かれているのでしょうか?」
「マヴェッタ家の資産をまとめた紙だ! 返せ!」
慌てて紙に手を伸ばそうとするも体がうまく動けないトントは芋虫のように暴れている
そんなトントを見てセレスがため息をついた
「嘘がバレないとでも?」
冷や汗をかきながら口をつぐむトントに問いかける
「ストラス……という名前を聞いたことがございます」
セレスの言葉を聞いて青ざめた顔をしてトントが「止めてくれ」と言いながら首を横に振っていた
「確かストラスというのはソロ……」
セレスの言葉を遮ってトントが叫び声を上げた
慌てた様子で空を仰いで恐怖で声を震わせながら空に向かって懇願した
「あ、あなた様のことをわたくしの口から伝えた訳ではございません! お、お許しください! どうか! どうか!」
セレスが魔力で体の自由を奪っていなければしがみつくように地に伏しているだろう
「あなたの口から情報を与えればどうなるのですか?」
「言うわけがないだろう!」
暴れるトントの処遇を考えていると白髪の少年が通りかかった
「おねぇちゃん何してるの?」
「今おねぇちゃんはこのおじさんからお話を聞いているところよ」
「どんなお話!? 知りたい! 知りたい!」
「ナイショよ」
「え〜! 気になる!」
そう言って駄々をこねる少年に少し困ったセレスはしゃがんで少年の黄色の目を見た
「好きな食べ物をおねぇちゃんに教えてくれるかしら?」
「いいよ! 僕ね、リンゴが好きなんだ!」
「分かったわ。少し目を瞑ってくれるかしら」
「分かった!」
目を瞑った少年の手にリンゴを置いた
「目開けていいよ」
「わ~! すごい! リンゴだ! なんで!?」
目を輝かせながらリンゴとセレスを交互に見て理由を聞いた
「秘密よ」
「教えてよ〜!」
「『薔薇姫』からの祝福ってことでいいかしら?」
「分かった! 美味しそうなリンゴありがとう!」
そう言いながら少年は走って去っていった
「さて……騎士団本部でじっくり教えてくださると助かるのですが」
セレスが振り返るとトントは苦しそうな顔をして死んでいた
「やられたな」
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「何か情報あったか?」
「数だけで何も情報は持ってへんかった」
「目を離したら口封じされてた」
「お互い情報無し……か」
会場に帰る道でポルトと情報交換をしようと思ったがお互い情報は得られてなかった
「剣術闘技会が終わったら情報集めるしかないやろな」
「この件は騎士団の皆には他言無用にしよう」
「調べとるのがバレたら相手も対策するかもしれんからありやと思うで」
黙って頷いたセレスが急に思い出したようにポルトの背中を押した
「なんでや!?」
「そろそろ再開の時間だ! まだドレスのままだ!」
「遅いとピラーサ達探しにくるやろなぁ」
「バレたら面倒くさい! 急げ!」
「押すなって!」
慌てながら2人は会場に戻った
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