第11話 第壱試合

秋風に乗って煙が晴れる。


煙が晴れると同時に勝敗が分かる。


『ピラーサ隊長気絶!

 勝者! セレスト・パッセ!』


カルエトの言葉を聞いて少しの沈黙の後に大きな歓声が起こった。


「流石セレスト様!」

「ピラーサ隊長もすごく良かったぞ!」

「どっちも良い勝負だったぞ!」

「2人とも良い試合をありがとう!」


そんな歓声の中を医療班が気絶しているピラーサを運んでいく。


セレストも観客席に一礼をして会場を後にした。


「ん? 団長さんどこ行くん?」


静かに席を立ち会場から去ろうとしているセラスタにポルトが問いかける。


「2人のとこ」


「1人にしといた方がええんちゃう? 特にピラーサはかなり惜しかったわけやし相当悔しいやろ」

「1人にしてほしいって言われたら1人にするさ」


「ほんならええわ。アレストの試合に間に合うようにしときな~」


ひらひらと手を振るポルトの頭を撫でてセラスタは会場を後にしてセレストとピラーサのとこへ向かった。



「なんで俺頭撫でられたん?」

「知るか」

「ポルトだけずるいったい!」

「ポルトは打ち首なのじゃ!」


セラスタがいなくなった後でポルトはノルンとマカトにタコ殴りにされてた。



セレストの控え室をノックする。


「セレスト、入って良いか?」

「あぁ」


中にいるセレストからOKが出たのを聞いて控え室のドアノブを捻って扉を開けた。


「あんな勝ちかたでしか勝てなかったなんざ……情けない」

「セレスト……」


控え室のソファで顔に手を当てて仰向けになりながら苦々しくそう呟くセレスト。

何かを言いかけてすぐに下唇を噛んで黙るセラスタ。少し目を閉じてセラスタはセレストの手を握った。


「確かにあの勝ちかたは良くなかった。慌てて掌底を使って勝ったのは良い勝ちかたじゃないな」

「……」


鋭い口調で伝えられるセラスタの言葉を聞いて悔しそうに唇を噛むセレスト。

そんなセレストの頭を撫でてさっきとは違う優しい声でセレストに声をかける。


「って団長としては言わないといけないんだろうけどな。団長じゃないセレスとしての意見はカッコよかった!」


セラスタの『カッコよかった』という言葉を聞いてセレストが顔から手をどけて驚いたように目を見開いてセラスタの方を見たが、すぐに顔を逸らした。


「け、けど風が無かったらあのままピラーサに負けてただろうし……だから、その……だな……カッコよくなんざ……」


「ずっと考えて戦ってるセレストはカッコよかったし、自分の力で勝ったならカッコいいだろ」


セラスタから目を逸らしながらぶつぶつ言いながら自分を卑下しようとしてるセレスト。

そんなセレストの両頬を手で押さえて自分の方に顔を向けてからセラスタが笑顔で伝える。


「だけど……」

「だけどじゃない! 俺のセレストはちゃんと強いよ だから自分に自信を持ってくれ?」


そう言ってセラスタは立ち上がってさっさと控え室を出ようと部屋のドアノブに手をかけた。


「セレスどこ行くんだ?」

「ピラーサのとこだよ」


セレストの方を向いてピラーサの控え室がある方向を指して控え室を出て扉を閉める。


「あ! 皆の前でセレスって呼ばないでよ?」


扉を開けて顔だけ覗き込んでセレストに指を指しながら注意をしてすぐに扉を閉めた。


「はぁ~」


セレスがいなくなって1人になった部屋でセレストはセレスが撫でた自分の髪を触りながらさっきのセレスの言葉を思い出してた。


「『カッコよかった』か……」


そう呟いて思わず笑顔になった。


❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅


「ピラーサ入って良いか?」


ピラーサの控え室の扉をノックしてピラーサに問いかける。

医療班の人に聞いたら意識が戻ってすぐに控え室に戻ったと聞いたから控え室に向かった。


少し待っていたら控え室の扉が開けられた。


ピラーサは椅子に腰かけてしばらく黙っていた。


ピラーサが話すまでは黙っておくと決めていたセラスタも黙っていたため、部屋にはしばらくの間沈黙が流れた。


「すごく悔しいじゃん……」


涙を堪えながら震える声でピラーサが口を開いた。


「何が悔しかった?」


ピラーサの手を握って優しい声色でセラスタが聞いた。


「煙の発生もうまく出来て、秋風の予想も立てて……あともう少しで勝てたのに……。ごめんなさい。涙が止まらないじゃん……」


話していくうちに出てきた涙を拭いながら話すピラーサを抱き締めて背中を擦る。


「泣いて良いんだぞ。泣かない人間なんかいないんだからな」


セラスタの言葉を聞いてピラーサが声をあげて泣きだす。


セラスタはそんなピラーサが落ち着くまでピラーサの背中をさすっていた。


しばらくして落ち着いたピラーサが改めてセラスタに自分の反省を伝えた。


「ギリギリとはいえセレストさんの速攻を防いでるって慢心して、一瞬剣先が鈍って……」


「それをセレストが見逃さなくて、ふっ飛ばされたってことだな?」


セラスタの質問に黙って頷くピラーサ。

下を向いて項垂れるピラーサの額にセラスタがデコピンをする。


「いっったいじゃん!」


デコピンされた自分の額を両手で抑えながらセラスタの方を見てピラーサが抗議の声をあげた。


「やっと俺の顔見たな?」


セラスタの言葉を聞いてピラーサが少し罰が悪そうに顔を逸らした。


そんなピラーサを見てセラスタがため息をついた。


「あのなぁ、その慢心を恥ずかしいと思ってんのか?」

「慢心して負けたなんて恥ずかしいに決まってるじゃん」


頑なにセラスタの顔から目を逸らしながらピラーサが答えた。


「いいか? 本当に恥ずかしいのは自分の慢心に気づかないことだ。けどピラーサは自分の慢心に気づいた。だったらその慢心は恥ずかしいことじゃない」


セラスタがピラーサの頭を撫でながら言った。


『次の試合をそろそろ始めま~す!』


カルエトの会場アナウンスが聞こえてセラスタが控え室を出ようとして扉を開けて控え室を出る直前にピラーサの方を向いた。


「ピラーサがすげぇ時間をかけて努力してきたのかはしっかり俺達に伝わってるから安心しろ! もちろんノルンにもな?」


ピラーサにそう言ってすぐに控え室を出て扉を閉めた。


「伝わってた? 良かった……良かった……」


1人になった部屋でカルンウェナンを抱き締めながら安堵の涙を浮かべていた。


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「お! おかえりさん。お二人さんどうやった?」

「秘密」

「え~? 秘密にされたら気になるんやけど……まぁ2人とも知られたくないやろしな。我慢しとくわ」

「そうしとけ」


『次の試合は! 

 セラスタ騎士団副団長アレスト・アヴニール

          対

セラスタ騎士団2番隊隊長ツェルン・フェアラート

 です!』

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