姫は騎士団を作る
うるはる
第1話 騎士団
マシュワーダ国にて隣国のジェシュギャット国との防衛戦を終えた騎士団へ王から報酬を与える祝賀会があった
「この度の防衛戦見事であった。褒美として、ここより東のサントストの土地を……」
「お断りいたします」
宮殿の空気が凍りついて、防衛戦成功のお祝いの雰囲気どころでは無くなった
「断るとは何故か教えよ」
凍りついた宮殿で王が口を開き、『断る』と言った者に聞いた。団長の左右に控えている2人の副団長は凍りついた宮殿の雰囲気に我関せずというように黙って目を瞑っている
オレンジ色を基調としているが、あまり華美ではなくシンプルなデザインの服を着た王は静かに返答を待った
「領土を賜ればこの国の為に戦わないといけなくなります。我々は、どこの国にも属しませんので」
どこか攻撃的な口調をしながら理由を述べた。本来なら王の褒美を『断る』と断った時点で死罪だが、この騎士団の者は処罰を受けない。それだけの実績と実力があり、この騎士団が無くなれば国としても損失が大きいため王も死罪を言い渡せない
「理由はわかった。だが、何故諸君らは国に属さない?それだけの実績と実力があればどこの国でも待遇はいいはずだ。もちろん我がマシュワーダ国も今よりも良い待遇をすると約束しよう」
「待遇はいりません。それに、我が命はルーデンダルク家当主であるキルト•ルーデンダルクに捧げているものですので」
『ルーデンダルクに命を捧げている』騎士団団長のその言葉を聞いた王はため息をつき改めて報酬で欲しいものを聞いた
団長は少し考えてから聞き取りやすい透き通った声で答えた
「では……」
団長の報酬を聞いて副団長以外が驚いたが少し考えてから王は団長が言った報酬を許可した
しかし、国に属さず私兵団のような騎士団はどこにも無い。
だが、それでもこの騎士団が騎士団と呼ばれるのはそれ以上の実績と信頼が有るからだ
王家の血筋であるキルト•ルーデンダルクに仕えていて民衆からの支持も強く味方にいるだけで心強い騎士団はいくら王でも敵にしたくない
「では、もし私がルーデンダルク家を襲うと言ったら?」
王がそう言ったとたん、殺気が宮殿に溢れた。
団長だけではなく、さっきまで目を瞑り黙っていた副団長の2人も鋭い眼光で王を見ていた。3人とも剣に手をかけ直ぐにでも王に斬りかかりそうだった
王は昔から剣術を嗜んでいた。王自身も玉座の横に置いている自らの剣を持ち護身ができるようにするはずだが、王は剣に手をかけることなく座っていた
「手を上にあげ剣から手を離せ!」
近衛兵が王の前に立ち、剣を団長と副団長に向けていた
「誰に命令している」
副団長の1人が近衛兵の発言を聞いて剣を抜いて王の方へ歩いた
「と、止まれ! 無礼であるぞ!」
震えながら忠告する近衛兵の言葉がまるで聞こえていないように、真っ直ぐ王に向かっていく
白を基調とした隊服と両肩から掛けられた足首までの長さがある紺色のマントが靡いた
副団長が剣を抜き目の前にいる近衛兵に剣を向け、王の方を睨んだ
「お前こそ団長に無礼だ」
剣を上に振り上げ斬ろうとして、思わず近衛兵が目を瞑ったが、制止がかかり、副団長は剣を収めた
「団長が帰るってよ」
爽やかだがまだどこか怒気を含んだ声でアレスト副団長が扉に手をかけて部屋を出ようとしていた
「アレスト。後で稽古付き合え。」
「良いけど……僕一応剣苦手なんだけど」
「お前怪我したことないのによく言うよ」
「僕はちゃんと視てから守るのが上手なの」
アレストとセレスト 双子の副団長
アレストは常に朗らかな顔で黒色の髪を高い位置で結んでおり、長めの前髪から見えるクリアブルーの瞳がとても美しい
セレストは左目に前髪がかかっていて、うなじが少し出ている黒色の短い髪のコバルトブルーの瞳が魅力的だ
「王さま。冗談でも言っていいことかどうかの判断はしっかりできるようになっておかないと、いつか後悔することになるのをお忘れなきように」
開けっ放しにされた扉から顔を出して副団長とは正反対の黒い隊服と赤いマントを羽織り、白銀の髪を結んでいる『鬼神』と呼ばれている騎士団団長セラスタ•アルベルが透き通った美しい深紅色の瞳で王を一瞥してから感情が読めない声色で忠告をした
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ーーー王宮の廊下
「斬らなくて良かったのか?」
「流石に王を斬ろうとするのは止めてくれ……」
セラスタが頭を抑えてセレストに懇願するように言うセラスタを気の毒そうにアレストが頭を撫でた
「お~い! 団長~~~! 副団長~!」
前から大きく手を振りながらオレンジ色の髪をした少年が走ってきていた
「カルエト。どうした?」
団長に頭を撫でられてカルエトと呼ばれた少年は嬉しそうに「えへへ」と笑ってアレストとセレストにも頭を撫でてもらいながら用件を言った
「今日ここの中庭で貴族の嬢さん達がお茶会してたからそれを伝えに来たっす!」
「めんどくさいけど門から帰るにはそこしかないんだもんな……」
「バレても良いならそのままで良いんじゃないすか?」
「あ! じゃあセレストに影武者お願いしたら?」
「俺嫌だよ」
日光が刺す中庭を眺めながら黙っていたが、途中で大きな溜め息をした
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ーーー王宮の中庭
様々な花が均等に整えられて、きらびやかな宝石のアクセサリーやドレスが日光でさらに美しくなっていた
「見て! セレスティアーノ様よ!」
1人がそう言うとセレスティアーノはすぐに囲まれて、話しかけられた
「本日は参加の予定ではございませんでしたが、お会いできてとても光栄でございます」
「また体調が悪化したとお聞きしたのですが、お体は大丈夫ですか?」
「えぇ」
「本日はたまたま王宮に用がございましたので立ち寄っただけですのよ。それではわたくしはこの後家の方で用がございますので、失礼いたします」
適当に挨拶をすませて、逃げるようにその場を後にした
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ーーー帰りの馬車
「良かったの? すぐに帰って」
「いいよ。あんまり社交界とかにも長居しないし」
「なんで団長って自分の身分隠してるんすか?」
「セラスタ•アルベルがセレスってバレたら面倒だから」
カルエトの質問の返答をしながらセレストが軽く頭を小突いて、カルエトが小突かれた頭を両手で抑えながら涙目でセレスに文句を言った
「いってぇ! 団長~! アレストさ~ん! 僕何もしてないっすよ!」
「そこに逃げるのは卑怯だぞ!」
「僕何もしてないのに小突いてくるセレストさんの方が卑怯っすよ!」
セレストとカルエトの口喧嘩を微笑ましく見ていた
「カルエト、あんまり外で団長って呼ばないでな?」
「はい! 了解っす! 団長!」
「カルエト『団長』って着いてるぞ」
セレスから注意されて自分の口を手で塞いだ
「あとカルエト? 今はセラスタじゃなくてセレスだからね」
アレストから軽く注意受けて小さい声で『セレスさん……セレスさん……』と繰り返していた。
そんなやりとりをしていたら馬車が止まり、扉が空いて、執事やメイドが一列に通り道を作り頭を下げ、声を揃えた
「セレスお嬢様。お帰りなさいませ」
「ただいま」
「ラナメ? 皆忙しいから出迎えは要らないっていつも言ってるでしょ」
「ですが……」
「出迎えありがとう。もう出迎えは終わったから解散していいよ。ラナメも忙しいのにありがとう」
セレスのその言葉で執事やメイドが解散して各々仕事に戻った
「ただいま戻りましー」
「おかえりぃ! 疲れてない? アレスト君とセレスト君とカルエト君も何とも無かった? 何か飲む? セレスちゃんはコーヒーが良かったよね。皆もコーヒーにする? 紅茶もあるよ。海外から緑茶というのも手にいれたんだよ! それから……」
「親父さん、着替えたら騎士団の稽古場に行くのでそこまでしなくても大丈夫です。というか仕事どうしました?」
すぐに外出するということを聞いて少し寂しそうに下を向いたが、仕事のことを聞かれたとたんに目を逸らした
「キルトさん、その反応やってないんですか……」
「や、やってたよ? セレスト君もすぐに疑わないでよ~ちょっと落ち込むよ?」
「僕たちで良いなら手伝いましょうか?」
「ホントに!?」
「アレスト、親父さんをあんまり甘やかさないで」
「りょーかい。 っていうことなので無理でした」
アレストが手伝えないとなるとまた寂しそうに下を向いた。けど執事が探している声がして走って逃げた
「おかえりなさいませ。ところでセレス様、旦那様を見ませんでした?あの人まだ、仕事途中なのにフラッといなくなりまして……」
「サミさん、親父さんなら今さっき走って逃げてったよ」
「かしこまりました。ありがとうございます。では失礼いたします」
そう言うと走って親父さんが逃げた方に行った
「僕サミダレさんに追いかけられたくないっすよ」
「何か会話してる?」
「カルエト、親父さんとサミさんはどんな会話してる?」
「ええっと……」
「もう仕事疲れたんだよぉ!」
「旦那様にしか出来ない仕事なんですよ!?」
「あと10日休憩させて!!!」
「少しは遠慮してください! セレスお嬢様はご自分の仕事を全部終わらせてますよ!」
「セレスちゃんはセレスちゃん! 私は私!」
「いい歳した大人が言うことじゃありません!」
「いつでも心は若者だからいいの!」
「ご自分で言ってて悲しくならないですか?」
「ならないもん!」
カルエトがキルトとサミダレの会話内容を伝えたら、3人とも頭を抱えた
「まぁた、あの人は……」
「始めてこの会話聞いたときすごいびっくりしたんすよ。まさか、血筋だけ見れば王位継承権第1位の公爵家の当主が子供みたいな人だとは思わないから」
カルエトの言葉にアレストとセレストが全力で頷いて同意した
「わかる」
セレスは会話を聞きながら少し笑って部屋に向かった
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「相変わらず、セレスの部屋ってシンプルだよね」
「アレストの部屋が物多いんだろ」
セレスの部屋は最低限必要なもの以外は無く、広く感じる部屋だった
「物が無いほうが剣振りやすいから」
「セレスさんらしいっすね」
着替えようとドレスを脱いだら3人に全力で止められた
「待って待って待って!!」
「急にドレス脱がないで、僕達一応男だからね?」
「セレスさん…急に着替えられたら僕心臓持たないっすよ?」
「セレス……少しは気にしてくれ。男だと思われてない気がしてちょっと傷つく」
3人に言い寄られてちょっとびっくりした
「じゃあ着替えるから手伝って」
「「「無理」」」
「なんでそうなるんすか!」
「なんでそういうとこずれてるのさ……」
「セレス……お前なぁ……」
1人で急に着替えようとしたからびっくりしてたとのかと思ったから、手伝ってもらおうと思ったのだが、違ったらしく3人とも溜め息をついていた
「セレス、こういう時は『着替えるから後ろ向いてて』って言うんだよ」
「じゃあ後ろ向いてて」
そう言うと3人とも後ろを向いた。後ろを向いた3人とも耳が少し赤くなってるのに気づいて、アレストの耳を触った
「耳赤いけど大丈夫?」
「うひゃ!」
急に耳を触って驚いたらしく、高い声が出た
「ちょっとセレス、急に触られてびっくりした……」
振り向いて目があった瞬間に目を逸らして後ろを向いた
「セレス……早く着替えてくれ」
セレストから着替えるのを催促されたから簡単に着れる装飾の少ないソプラヴェステを着た
「着替えたよ」
そう言うと全員振り向いて3人に肩を掴まれて揺さぶられた
「セレス! あんまり男を煽るな!」
「僕心臓バクバクだったんすよ!?」
「セレス? あんまり煽ると僕達の誰かが襲っちゃうよ?」
「アレスト(さん)!」
「3対1でも多分勝てるから良いよ」
「あぁ……うん。そうだね……」
3人とも肩を落として声を揃えた
「そういや、セレスさん稽古場に何か用があるんすか?」
「稽古付き合ってやる」
稽古場に付き合うと言うと珍しい生き物を見るような視線を向けられた
「なんだよ……」
「だって団長1人で稽古するのが好きじゃないっすか」
「そろそろ1人で稽古するのも寂しくなった?」
「明日は槍でも降るんだろうな」
3人にそれぞれ言われて拗ねて稽古場に行くのを止めようとしたセラスタを慌てて3人が必死に引き止めた
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稽古場に行くと自主的に稽古してる人達が気づいた
「セラスタ・アルベル団長! お疲れ様です!」
「お疲れ様。1時間くらい休憩したら俺達が相手してやる」
セレストとカルエトが稽古の相手をするのは珍しくないが、アレストと俺が稽古の相手をするのはめったにないからすごく盛り上がった
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改めて挨拶をしよう
俺はセラスタ騎士団団長セラスタ・アルベルであり
公爵家の令嬢セレスティアーノ・ルーデンダルクだ
自らの身分と性別を偽って騎士団の団長をやっている
今後ともよろしく頼むよ
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