第31話 友達の定義
「そんなものはないよ」
膝を抱えて、髪をかきあげて、女の人のようだ。
「え、」
「何故ならそれは、友達とは何かって問いに直接結びつくからだ」
居心地悪そうに座り直している。
「友達。少なくともあたしは見たことがない。あるいは、これまで出会った全ての生命は、友達だったのかもしれない。それくらい定義が多種多様で広すぎる。あたしは理解を諦めた。存在しないんだそんなもの。見えないものも、ありふれすぎるものも、認識できなきゃ有り得ない」
優しく。恐ろしく、寂しそうに。
「空前絶後どこにもない。森羅万象どれでもない。
優しい声。
カレーの残り香が、鼻腔をくすぐる。
天音は何も答えない。いつも通り、固まっている。
天音は基本、言葉を噛み締める人間だ。
だけど心までは分からない。
相手の心に不用意に言葉を投げつけるのが嫌で、だから、何も言えない。
「おい。何か反応しろ。黙るな。あたしを楽しませてみろ」
戦闘狂のようなことを言う。
「仕方ねぇな、反応させてやるよ」
デコピン。
「痛ってぇ!」
両手で額を押さえて転がり回る。
「何するんですか!」
「うるさい。お前が聞いた癖に反応しないからだ。あたしがバカみたいじゃないか」
子供か!
「そんな極論出す奴がバカじゃなけりゃなんなんだよ!」
「個人の自由だろバカ! あたしの世界ではって予防線しっかり張ってんだから突っかかってくんじゃねえ!」
「求めてる答えじゃないんですよそんなの。どうやったら友達出来るかって問いに、友達なんていないとか普通答えます?」
「あたしは希少で奇抜で特別なんだ」
「異常っつうんだよそういうの!」
天音は肩を上下させる。
よっぽど痛かったらしく、いまだに右手でオデコを押さえていた。
「しゃあねぇなぁ。真面目に答えてやるよ」
「え、真面目じゃなかったんですか?」
「本心を答えることが真面目じゃないだろ」
意味が分からない。
綾文さんはちょっぴり煽るように、
「あたしは、友達って簡単だと思ってた。なるのも、続けるのも。でも違う。簡単に手に入るものは簡単になくなるんだ。だから伝えたいことはそうだな。友達は楽にはなれないってところだ」
最後まで、綾文さんは虫も殺さぬ声で、天音に言葉を刻んだ。
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