第21話 鍋

 叔母さんは天音の頭を擦りながら話す。

「お前が天音か。大きくなったから分からなかったよ」

 押し付けられてるのに、不思議と痛くはなかった。

「分かったならそろそろ放してくれません?」

「そうだな。話してやろう。あたしが何故お前を引き取ると決めたのか」

 あれ。おかしい。

「だがまあ時間も時間だ。先に飯を済ませようか」

 ん? と。叔母さんは疑問符を浮かべる。

「何でお前あたしの下にもぐり込んでるんだ? 変態か?」

「あんたが押さえたんだろうが! 早くどけ!」

 叫ぶ。やはり人類は死ねば良いと思った。


 ⚫


 まともな夕食なんて、いつぶりだろうか。

 リビングには鍋が用意されていた。

 天音の家に鍋の容器なんてないはずだから、きっと叔母さんのものだろう。

 色を塗られていたのは玄関と廊下だけのようで、リビングはそのままだった。

 叔母さんいわく、間に合わなかった、そうだ。やめて欲しい。

 小さいテーブルに向かい合う。

 叔母さんが手を合わせた。どうしたんだろう。

「手ぇ、合わせろ」

 言われてから、気づく。さすがに恥ずかしい。

「よし。じゃあ、せーのでいくぞ。せーの」

 いただきます。

 ……子供っぽいな。

 叔母さんは一番につつき始めた。

 天音をそれを真似るように箸をのばす。

 自分の器によそって、口の中に入れてみた。

 白菜がおいしい。

 甘くておいしい。

 白菜の美味しさを、初めて知った。

 豆腐も美味しい。

 ネギも、お肉も、キャベツも、キノコも。

 体全部が喜ぶみたいに美味しかった。

 食事は終始無言で進んだ。

 いや、途中で叔母さんが一言だけ

「なんて顔をしやがる」

 と笑いながら言っていたが、鍋とお米の美味しさに気を取られ、天音はすぐに忘れた。

 食べ終わると、叔母さんと目が合う。

「何ですか」

「ん。何でもねぇよ。明日を一時にお前を叩き起こす。だから早く寝ろ」

「え、何するつもりですか」

「何されたいんだ?」

「鍋食べたいですね」

「次はもっとたくさん作るよ」

 叔母さんの声はさっきと違って優しい。

「ま、明日のことはお楽しみってね。そんとき色々話してやるよ」

「はぁ」

 謎だ。

 何がしたいのか。何かしたいのか。

 寝ろと言われたので、風呂に入って歯磨きをして、天音はさっさとベッドに行った。

 今日は、ぐっすり眠れそうだ。

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