フタリゴト
笠川 らあ
朝が来る
第1話 朝
耳いっぱいに冷たい風が注がれる。
ペダルを漕ぐ足は疲れ気味だが、機械のように規則正しく回ってくれた。
空は色を染めている途中のようで、きっと朝にはまだ早い。
百均の手袋とマフラーは優秀で、服の中では少し汗がにじんでいる。
五時に起床、五時半には家を出る。
一時間かけて登校して、六時半には学校に到着。
朝のHRまでは残り二時間。
少し息を切らせながら、自転車の鍵をズボンのポッケに突っ込んで、天音は教室に向かった。
廊下を早足で進み、乱雑にドアを開ける。
一人だけ、人がいる。
「チッ」
心の中か、あるいは漏れていたかは分からないが、天音は内心舌打ちをした。
別に相手によって舌打ちをしないのではなく、誰だろうと天音はこの状況なら舌打ちをする。
嫌いなのだ、霊長類が。
天音は自分の席に荷物を置き、防寒具を脱ぐと、なんとなく音を立てないように座った。
それから何をするでもなく、虚空を見つめる。
時折、時計に目をやり、時間が想定よりも進んでいないことに安心した。
彼は頬杖を突き、今日も考える。
天音には悩みがあった、それはもっぱら、今現在彼の2つ左斜め前にいる彼女の存在である。
転校生、鶴橋タチ。
なんだか複数人いるようだが、「タチ」が名前だ。
彼女は今日も、天音より早く教室にいる。
その事実こそが、天音の悩みであった。
朝、一人きりの教室で、考えたり、考えなかったりしながら、10~20分程の時間を無為に消費する。
天音はその時間をたまらなく愛していた。
そんな天音の幸せなルーチンを壊したのが彼女だ。
彼女は転校初日から、彼より早く席に座り、我が物顔(天音視)で教室にのさばり、彼の朝を簡単に奪う。
無論彼も抵抗したのだ。登校時間を早めたり、さりげなく不快な顔もしてみたり。
しかし、彼女はいる。
今朝なんて以前より30分も早く家を出たのにこの有り様だ、流石にイライラしていた。
時計を確認、まだそんなに時間は経っていない。
天音は再び考える、どうやったらこの朝の聖域を取り戻すことが出来るのか。
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