青葉闇 タナトスと少年 死滅を呪えば、居場所はなくなるのかな……。
詩歩子
第1話 木枯らしの夕べ
初めて父さんの家に来た、あの木枯らしが吹き荒ぶ、真冬特有の透明な夕間暮れを僕は今でもリアリティを持って詳細に覚えていた。
幼い頃の父さんの記憶は皆無に等しいから、父さんがどんな人なのか、冬の夕風にざらついた頬に触れながら、社会にバリアを張ったままの、僕はまだ知ろうとしなかった。
母さんが気を病んで入院し、付き合っていた男と別れてそう、長い年月は経ってはいない。
母さんは何にも悪くない。
僕が悪いんだ。
僕がいつか人を殺すから宿命に駆られているから、そのために母さんは僕を罰していただけなんだ、と四六時中、言い聞かせる。
忌わしい記憶さえ、完璧に封印すれば新たに道は開けるはずだから。
父さんの家に預かってもらうのも運が良かったんだ、とさらに僕は意固地になって言い聞かせる。
この家にのそのそと転がり込んでも、仕事で忙しい父さんは僕の世話に構う余裕もなかったし、常に家にいる義母さんはよそよそしい顔で、生まれたばかりの赤ん坊を抱いて常に気を使い、家の中は危うい緊張感が走っていた。
ここに居場所はないよ。
毎朝、窮屈な制服を身に纏い、ごった返すバスに乗車して通学する途中でぼんやりと今までの過ちを描いた短編映画を不意に上映させる。
あれは違うんだ、あれは嘘なんだ、僕が勝手に作り上げた大きな嘘、と仕切りなしに怪しげな呪文のように唱えるルーティンによって、何とか身体性と精神性を持たせる、小さな努力がふら付きながらもかろうじて出来たけれど、僕の澱んだ心の奥底に広がる、湖は決壊寸前だった。
授業中にふとしたタイミングであの男の暴言が脳裏に浮かび、こびりつき、半狂乱に泣き叫んだ夕方もあったし、あの男からあの夜に怒鳴られたことをフラッシュして過呼吸が止まらない朝方もあった。
ただ、不思議なことに僕は不登校にはならずに済んだ。
本当は休める鳥の羽のように飛び続けるのは無理だったのに。
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